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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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報告し合う

 現在、到着した支部長の執務室内は、異様な空気に包まれている。

 室内には知らない初老の男性と支部長がいた。密会と言うか、何かの話し合いをしていたんだろう。

 午前中のようにどこかの支部の人が、支部長と何かの打ち合わせをする為に来る可能性は十分に有る。

 ただ問題は、支部長と相対している相手の所属が『ロシア支部』だと言う一点のみだ。

 具体的に言うと、十年前の作戦の失敗の責任を取らされて、色んなところから爪弾きを受けている支部の人間が『作戦前の時期に、どうして日本支部にいるのか?』なのだ。

 警戒心を剥き出しにした松永大佐が、目を眇めて支部長に問い掛ける。松永大佐は目を眇めただけだが、普段以上の迫力が有るので睨み付けているようにも見えた。

「佐久間支部長。時間が惜しいので簡潔に問います。何をしているのですか?」

「こ、交渉をしていた、だけだ、ヨ? ウン。悪い事はしていない、ネ?」

 支部長。額から脂汗を滝のように掻きながら、変な片言風に言ったのでは信憑性が無いよ!?

 飯島大佐は『怪しい』と言わんばかりの表情を浮かべ、中佐コンビは『どう言う事?』と顔を見合わせた。

「交渉? 交渉ですか。ロシア支部の方を相手に、一体何の、交渉を行っていたのですか?」

「あぁと、ゲルト大佐本人の、一時移籍の交渉を行っていたんだ。たった今、承諾が得られたんだ」

「「「はぁっ!?」」」

 飯島大佐と中佐コンビは驚き、松永大佐は額に手を当ててため息を吐いた。

 作戦を始める前に、一時的とは言え、引き抜きをやって良いものなのか? いや、そもそも、どうやって承諾させたんだ? そこまで考えて、午前中のセタリアとの通信内容を思い出した。

「まさか午前中に言っていた、他支部への恩寵って……」

「待て! 星崎、そこまでだ! あーもう、全員部屋に入ってくれ!」

 支部長が部屋に入れと叫んだので、全員で部屋に入った。そして、改めて何が起きているのか説明を受ける。

 大佐コンビは呆れ、中佐コンビは顎を外す勢いで大口を開けて固まった。

 自分は驚きもせずに首を傾げた。作戦に参加する他支部の許可は取らなくても良いのかと思い、午前中の来客者の立場は他支部の副支部長だった事を思い出す。根回しだけは終わっていそうだな。

「ヴァンスとジェフリーからの承認は得ている。心配は何も要らん」

「我々に知らせが無い理由は何ですか?」

「……糠喜びをさせない為?」

「佐久間支部長。終わったら膝を詰めて色々と話し合いましょう。今晩は徹夜しても良いですよ」

「松永。実際にやるのなら俺も混ぜろ」

「二人とも、せめて作戦が終わったあとにしてくれ」

 支部長。懇願する場所が違いますよ。それと松永大佐。徹夜は良くないよ。

 大人三人の攻防を眺めていたが、ロシア支部の大佐(?)が状況の膠着を感じ取り、割って入って来た。

『サクマ支部長。私は一度、支部に連絡を入れます』

『あぁ、うん。そうだね。確かに一度、連絡を入れると良いが、そのまま支部に戻るのか?』

『はい。話し合いが終わったら戻ると言い、チャーター機を借りてこちらに来ました』

『そうだったのか。だったら、そうだな。先に話しておいてくれないか。追って連絡する。あぁ、案内を呼ぶ。少し待ってくれ』

 支部長が慌てて、机の機器を操作して人を呼んだ。数分と経たない内に大林少佐がやって来た。大林少佐は支部長の指示を聞き、すぐに大佐を連れてどこかに向かった。戻ると言っていたから、見送りだろう。

 ロシア支部の大佐がいなくなったところで、何故か自分は背後から誰かに目隠しされた。ついでに耳も塞がれる。誰だろうね? 中佐コンビかな。

 そのまま待っていると、体感で数分後に解放された。周囲を見ると中佐コンビがいて、支部長は床に正座したまま大佐コンビから怒られていた。うん、謎だ。

 さて、飯島大佐から何が起きたのか説明を受けると、引き抜きの交渉を行っていたらしい。この時期にやって良いのか? 

「ゲルト大佐の引き抜きの交渉は、作戦が決まった頃から行っていた。正式に返事を貰ったのはついさっきだが」

 松永大佐と支部長の会話で疑問の回答は得たが、返答が随分とギリギリだな。粘られたんだな。

「それで返事はどうなったのですか?」

「十年前、ゲルト大佐がいた当時のロシア支部上層部壊滅の真実を教える事と引き換えに、正式に一時移籍の同意を貰った。ゲルト大佐が言うには、他にも作戦に参加したい兵士が沢山いると言っていた。一時移籍の兵士が増えるかもしれんな」

「仕事が増えて困り果てるのは佐久間支部長だけだから良いでしょう。誰にも教えずに情報を利用した言い訳は考えていますか?」

「え? 駄目だった?」

「少なくとも、情報提供者に一言だけでも言うべきでしょう」

「星崎駄目だったか?」

 何故か視線が自分に集中した。話を振られても困るんだが、いやそもそも、情報提供者はセタリアだぞ。

「情報の提供者は私ではなくセタリアです。それから、手紙の内容を情報として扱う分には問題はありません」

「許可を取らなくても大丈夫なのか? いや、何故そう思う?」

 問題無いと言えば、支部長は何故と返して来た。向こうの宇宙とこちらの判断の違いを探っているのか、あるいは単純に判らないのか。自分と支部長以外の大人四人の顔を見ると、揃って不思議そうな顔をしていた。

 支部長の問い返しの理由が前者であるを祈ってから回答する。

「手紙に書いても問題が無い事だからです。手紙はどこの誰に読まれるか分かりません。流出しても問題の無い事だけを、手紙に書いて知らせて来たと判断しています」

「つまり……『知らない誰かに読まれても、手紙の送り主は困らない内容だけが書かれていた』と言う事か?」

 説明したら支部長は正しく理解した。首肯してから、『もしもの可能性』を口にする。

「そう言う事です。逆に手紙に書かれている情報の利用許可を求めたら、セタリアからの評価は下がります」

「色々と聞きそびれて困ってしまったんだが、逆に良かったのか」

 支部長が口にしてはいけない事を言っている。質問らしい事を何一つ口にしていなかったから疑問に思っていたが、そう言う事だったのか。

「確認ですが、何を尋ねる予定だったんですか?」

「知らなくていい。昼の打ち合わせで質問事項の回答は得られたからな」

「そんな事を言っても良いのですか?」

「単純に、空気に流された。三・一点の評価を言い渡されたあとに言うのは何となく憚れた」

「支部長。セタリアの三・一点は高いですよ。私は二・五点を越えれば良いんじゃないかって思っていましたし」

「……星崎の方が辛辣だった」

 支部長は両手で顔を覆った。今にも泣きそうだ。支部長以外の面々をチラッと見て確認すると、何とも言えない顔になっていた。

「星崎。その評価は五段階評価か?」

「いいえ、松永大佐。十段階評価です。セタリアは国家元首なので、組織の規模や本国との関係の構築のやり方に予算の使い方とか、汚職や不正が起きた時の対処、人材確保とか人事整理、抱えている育成機関の状態、そう言うところを見ての判断と思います」

 松永大佐の質問に回答したら、支部長が両手が顔を覆ったまま大きなため息を吐いた。

「判断箇所がピンポイントで、駄目なところだったのか」

「はい。なので、軍部の人間から見たら、もう少し点数は高くなると思います。それでも、五点に到達すれば良い方だと思いますが」

「どの道、半分を超えるかギリギリなのか」

 軍部の人間から見たら評価は上がるよと教えたが、逆に止めを刺してしまった模様。

 支部長は両手で顔を覆ったまま天井を仰ぎ、その他の大人四人の目から光が消えた。ちょっと怖い。

 一応、合格点は貰っているから問題は無いとフォローしたけど、効果は無かった。

 ……三・一点評価が、そんなにショックだったのか。

 何を言っても復活しないので、強引に話題を変える事にした。より具体的に言うのなら、本来の目的を果たす。

「支部長、模擬戦の報告は聞きますか?」

「……大事な事だから聞く。報告お願い」

 やや長い沈黙を挟んでから、支部長は報告を求めた。報告を求められた事で松永大佐達も復活した。再起動を果たした大人四人の姿に胸を撫で下ろす。

 飯島大佐から、ガーベラ弐式との模擬戦を行った所感が述べられた。松永大佐からは、アゲラタムのフォーメーションのチェックと、作戦当日の対策が語られた。

 自分と中佐コンビは意見を求められた時に回答する。

 報告を受けた事で支部長の思考は完全に切り替わったらしく、旧式短距離転移門(破壊対象)の質問を受けた。それも根掘り葉掘り、気の済むまで納得の行くまで、怒涛の質問攻めだった。

 自分としては、知っている範囲で教えれば良いだけだ。気負い無く、全ての質問に答えた。

 聞きたい事を聞き追えて満足したのか、支部長は何時もの状態に戻った。

 全ての報告と質問の応答が終わったら、時間を貰い作戦の内容について改めて確認を取る。夕食時に教えて貰ったが、支部長からの注文が無いか確認をしていない。

「そう言えば、教えていなかったな」

 支部長は『やべぇ』と言った具合に顔を引き攣らせた。すぐに謝罪を貰った。

 気にしていない事を言ってから、支部長から作戦行動中の注意事項の有無を尋ねる。

「特には無い。戦闘中に他支部のパイロットと接触する時間は無いだろうしな。一番の大役をこなすのは星崎だから、目の前の戦闘に集中してくれ。と言うか、星崎の方こそ、勝算は在るのか?」

「クォーツの特徴と性能は理解していますので、どうにかするだけです。どうするにしろ、先ずは今のガーベラに慣れる必要が有ります」

「そうか。結局、本命の重力制御機が完成しなかった結果になるのか。五日程度だが、時間はまだ残っている。可能な限り操縦訓練を優先してくれ」

「分かりました。支部長、セタリアに送って貰った情報はご覧になりますか?」

「私が見ても良い情報なのかね?」

「正直に申し上げますと、私もまだ目を通していません。見せても問題無さそうな情報が見つかりましたら、ご覧になりますか?」

 提案すると、支部長は腕を組み唸って考え始めた。

「本音を言うと見たいんだが、そうだな。飯島大佐と一緒に確認してくれ。松永大佐は佐々木中佐と井上中佐と共に、操縦訓練を優先してくれ」

 大人四人が声を揃えて了解の応答を返し、報告が終わった。

 退室する間際、支部長から大林少佐に渡したままの茶缶を受け取った。

 イギリス副支部長対策として、支部長が持っていた方が良いと断った。しかし、何が起きるか分からないから持っていろと、渡された。割と必死だった。仕方が無く受け取ってから今度こそ退室した。


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