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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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打ち合わせ? 段取り? それとも交渉か?

 仕切り直しとして、支部長が腹を擦りながら席に着いた。

「松永大佐。踵落としだけは止めてくれないか」

「佐久間支部長。私に踏まれるのと、腹の上に星崎を落とされるの、どちらが良かったですか?」

「……大差ない選択肢だった」

 支部長の苦情は松永大佐に届かなかった。支部長が泣き寝入りしているように見えるのはどうしてなんだろうね。つーか、どうして支部長は怒らないんだ? どう見ても上官へ暴行しているのに、一条大将と飯島大佐はおろか、支部長ですら、松永大佐に苦言を呈さない。中佐コンビは震えているから無理だな。

 ギャグ系の少年漫画とかだったら、ここで『良い子はマネしちゃ駄目だぞ☆』と注意が入るだろうね。現実を考えると『そんな事をやる機会がねーよ』と突っ込みたい。そもそも、所属組織で一番偉い人に会えるような人間が礼節を忘れる事は無いし、暴力を振るったりしない。日本支部はどうなっているんだろうね。

 口にしなかったが、自分が抱いた疑問は大人全員で無かった事にされた。最初に中佐コンビが模擬戦の報告を行い、飯島大佐が苦情を入れる。

「あれ? 教えていなかったか?」

「聞いていませんよ! な・ん・で、今になって、ガーベラに改修を施すんですか?」

「あれは元々作られていたんだ。星崎の習熟具合を聞いた開発者達が少し手を加えてこっちに送って来たんだ」

「手を加える必要が無いって、言ってんですよ!」

 支部長と飯島大佐の言い合いは終始こんな感じだった。長引く気配を感じた松永大佐が割って入り、『午後の予定が終わってから存分にやってくれ』と仲裁した。

 午後の予定を出されて、双方共に引き下がった。けれど、支部長の顔は少しだけ安堵していた。何か逃げそうだな。自分に作戦の説明をしてくれるのは誰になるんだろうか? やっぱり午後の予定が終わってからかな?

 自分の事は全て無視されたが、あとで教えて貰えば良い。模擬戦とかの予定が詰まっているところを見ると、明日明後日に行われる作戦じゃなさそうだし。

 さて漸く、ディフェンバキア王国と通信する状況が整った。

 通信する事を知らない飯島大佐と中佐コンビにどうするか尋ねた。可能なら同席したいと希望したので、そのまま残った。

 端末を起動させて、録画状態でディフェンバキア王国のティスと通信を繋ぐ。時差を計算すると、時間的にまだ仕事をしている筈だ。

『やぁ。クゥ、久し振り』

 数十秒待つと、空中ディスプレイに通信相手の姿が映し出された。聞こえる言葉は日本語だ。ティスは元日本人の転生者だが、日本語を使うのは久し振りの筈。それでも、発音に違和感は無い。練習をしていたのかな?

 光の反射具合で緑色に見える銀色の長髪と、アメジストを連想させる紫色の瞳。端正な顔立ちだが、童顔の為、やや若い青年に見える容姿。

 記憶の中のティスと変わっていない――ディフェンバキア国王トリキルティスが映った。

 映像の中のティスは、微笑みながら片手を軽く横に振っている。セタリアに比べれば常識的な登場に、支部長と一条大将、松永大佐の三人から安堵の声が小さく漏れた。午前中の通信を知らない三人は怪訝そうな顔になった。

 話の腰を折る訳には行かないので、無視してティスに話し掛ける。

「ティス。久し振りだけど、セタリアから連絡は貰っている?」

『うん。皇帝陛下から連絡は貰っているよ。ま、細かい打ち合わせと言っても、殆どないと思うけど』

「そうなの?」

『うん。打ち合わせの前に、そっちの代表者を教えてくれないか?』

 ティスに言われて、支部長を紹介していない事を思い出した。セタリアの時と同じように移動してから支部長を紹介する。

「国連防衛軍日本支部長の佐久間だ」

『ディフェンバキア王国の国王トリキルティスだ。一つの国として成り立っているけど、歴史の浅い、ルピナス帝国の属国だ』

「属国? それで動いていたのか」

『理解が早くて助かるよ』

 ティスは笑顔だが、支部長は渋面を作っている。これはティスの性格が掴めていないんだろう。確かに立場上ちょっと腹黒だけど、セタリアと違い、そこまで警戒する必要は無いと思う。

『打ち合わせって言うよりも、皇帝陛下が出した試練内容の段取りの確認になるのかな?』

「段取りの確認?」

『試練の内容が『皇帝陛下が指定した対象の破壊』なのはご存じだと思うけど、具体的に何を破壊するのか知らされているのかな?』

「先程正式な名称を知ったが、転移門だったか? それを破壊すれば達成と見做されるんだな?」

 支部長の言う通り、セタリアが協力する為に出した条件は『火星と月の中間辺りに位置する短距離転移門の破壊』だ。『火星と地球の中間』と表現されないのは何故かと思ったけど、セタリアの感性で火星と月になっているので、突っ込む気力は無い。と言うか、セタリアに真っ当な感性は期待しない。

『それで合っているけど、面倒なのが動いて状況が少し変わってしまっただけでなく、口煩い輩を黙らせる必要が出てしまった。そこで、対象物を破壊する手順を決めて、途中経過の出来具合も見ようって、言う流れになった』

 少し済まなそうな顔をしてティスは簡単に説明した。 

 ティスの言った『面倒なの』の正体は、セタリアが言っていたアルテミシアの事だろう。でも、アルテミシアが動いただけで、状況が変わるとは思えない。残る可能性は、条約を気にする小国とルピナス帝国を良く思わない国が動いている事になる。

 でも、ルピナス帝国を良く思わない国は、意外にも少ない。馬鹿をやった国には厳しい態度を取るが、大国で在る事を理由に傲慢な態度は取っていない。小国への支援は手広く行われているし、必要に応じて相談にも乗っている。ルピナス帝国で開発された技術類の使用料は取っているが、相手の足元を見るような事はしていない。

 どちらかと言うと、多方面に恩を売っている。

『段取りとしては、指定した人物以外で行うターゲスの撃墜、指定人物が行う戦闘、指定人物にオニキスを引き渡したあとに行う短距離転移門の破壊。この三つかな』

「指定した人物は誰なのか聞いても良いだろうか?」

『本人が解っているから言わなくても良い気がするけど――改めて聞きたいかい?』

 支部長の問いに回答しつつ、映像の中のティスは自分を見た。どう考えても自分だよな。機体が変われど、向こうの宇宙の知識を保有し、尚且つ、オニキスの魂魄認証式のロックが解除出来るのは、自分以外にいない。

「どうせ私でしょ?」

『そうだよ』

 ティスの肯定を聞き、室内にいたがギョッとする。この反応から察するに、かなり重要な役回りを押し付ける気満々だったのかもしれない。それはティスの言葉でご破算になった。

『何でもかんでも君が一人でやっては、今度は全体の正しい評価が出来ない。そこで、君には別行動をお願いしたい』

「支部長、どうしましょう?」 

「そうだな。考えようにも判断材料が少ない。彼女が相手を務める戦闘について教えて貰おうか」

 こればかりは自分で決める訳には行かない。支部長に判断を仰がねば、自分も回答出来ない。支部長はすぐに返答せず、ティスに情報を求めた。

『戦闘と言っても、特定の機体と一対一で戦うだけになるかな? 話は変わるけど、クゥはオニキスの戦闘データを基にして創った機体の事は覚えているよね?』

「覚えているよ。クォーツ、モリオン、オウロベルデ、ホークスアイ、クリソプレーズの五種類。それがどうしたの?」

『実は君が去ったあとに、本国の方で改めて仕上げる事になったんだ』

「一応、実戦でも使える程度には完成させたよね?」

『完成はしたけど、本国の興味を強く引いてしまってね。表向きは共同開発って事にして、本国で最終仕上げをやる事になった』

「……今度セタリアに会ったら軽く〆るか。いや、いっその事、喪服淑女の会に連絡するか」

『〆るのは程々にしてね。それから、喪服淑女の会に連絡を入れるのは待つんだ。最近本国で喪服姿の女性を見ると、悲鳴を上げて倒れる男が続出している』

「そんな根性無し揃いになっていたっけ? 倒れているのは新入り?」

『いいや、婚約破棄と不貞行動(馬鹿)をやった奴だけだね』

「自業自得の馬鹿だったのか。なら、そっちは良いか。本国で最終仕上げをして、それからどうなったの?」

『装備はそのままだけど、見た目が大分変わったね。確認用のデータ一式を送るから、時間がある時に確認すると良い』

 そう言ってティスは手元の端末を操作し、五つの画像をこちらに見せた。少し遅れて、空中ディスプレイの端にゲージが表示されて、消えた。

「え゛っ!?」

 ティスの行動に問題は無い。問題なのはとある画像だった。思わず冷や汗を掻く。

「これが、今の外観?」

『そうだよ。ああ、クゥはクォーツを一度見たよね。と言うか、一度戦ったか。性能で劣る機体で、どうやって片腕を落としたのか聞きたいな』

「アレがクォーツ? 外観変わり過ぎでしょ! 面影すら残っていないじゃない!?」

 そう、忘れもしない六月十五日。演習中に実戦参加して、人生計画が完全に崩れた日。あの日、必死になって訓練機でどうにか凌ぎ切った銀色の敵機。

 アレが、嘗て自分が開発したクォーツだった! 自分が創り上げたものが、自分の人生を破壊した。

「好き勝手創っていた事への因果応報? 何この因果?」

『突っ込まないからね。クゥにはこのクォーツともう一度戦って貰う』

「げ」

『そこの支部長はどう思う?』

「どうもこうも、そのクォーツとやらが出て来た場合、他のものでは対処出来ん。元より彼女に任せる予定だった。彼女との戦闘に関しては受け入れよう」

『もう一つ受け入れて貰うよ。オニキスには特殊なロックが掛かっているんだ。データの読み取りとコピーは出来ても、彼女以外では起動出来ない』

「星崎、それは事実か?」

「これに関しては事実です」

 支部長からの確認に即答する。

 その特殊なロックは、自分で掛けたからね。盗難が発生した時の事を考えると、必要になる。技術の流出は防がなくてはならない。

「では、受け入れるしかないか。最後の一つに関して、幾つかの質問がしたい」

『構わないけど、何が聞きたいんだい?』

「先ずは、撃墜に関してだな。我が支部を含む全体か、我が支部のみなのか。指定数以上撃墜すれば良いのか。それとも、残っているとされている残存機を破壊すれば良いのか。彼女が誤って破壊してしまっても問題は無いか。他支部と共に行動するに当たって、この辺りについて知りたい」

『ん~、そうだな……。指定短距離転移門に配置されているターゲスの数は二十二機だったから、そこの支部単独での撃墜目標は十機かな? 個人的に半分は撃破して欲しいところだね』

「十機か。部下に意見を聞いてから返答したい。少し時間をくれないか?」

『おや? 支部長なのに、支部の戦力を把握していないのかい?』

「そうでは無い。言い訳になるが、あの機体は最近になって出現したばかりの機体だ。それに交戦者からの意見が出揃っていない。可能なら、複数人の交戦経験者から意見を聞いてから決めたい」

『随分と慎重な判断だね。部下に期待も丸投げもしない主義なのかい?』

「そこは『期待と可能性でものを言わない主義』と言って欲しいな」

 渋面を作った支部長は、交戦経験者その一の自分を見た。他の交戦経験者はここにはいないので、自分の意見だけが頼りになる。

 改めて、自分がターゲスの撃墜した数を数えると、十一機中、六機だった。

「十一機中、六機が私、残り五機をその他大勢で撃墜。他支部がどう動くか不明なので、日本支部だけで十機は厳しいかもしれません」

 現在、アゲラタムの操縦訓練を行っているとは言え、実戦ではちょっと怪しい。ガーベラで行うのなら、多分行けるだろう。改修したナスタチウムでどこまで行けるか未知数だが、そもそも数が少ないので、戦力に加えて計算しない方が良いだろう。

「星崎一人で、半分も撃墜したのか」

「いいえ、真っ先に狙われた結果です」

 感心する支部長には悪いが、一言付け加えた。

 自分の撃墜数よりも、自分以外の撃墜数について感想を述べて欲しいぜ。自分以外の撃墜数を知ったティスは目を細めて少し考えた。

『その他大勢で五機撃墜か。確認だけど、動く支部は幾つかな?』

「三つと混成部隊になるから、実質四つになる」

『四つか。なら、三分の一で七機になるから……。目標は七機で、最低でも五機かな?』

 ティスが提示した撃墜数だと、各支部当たり五機か六機を割り振る計算だ。

 五機だったら、ガーベラ抜きでも、ギリギリ行けるだろう。最初に提示された数の半分だし。

 支部長と視線を合わせて、『ギリギリ行ける』と頷く。室内にいる他の面々は難しい顔をしていたけど、五機なら多分行ける。

「分かった。その撃墜数五機で受けよう」

『目標は七機だから、そこだけは忘れないように。目標を超えると評価が上がるから、是非とも頑張って欲しい』

 数を減らしても、釘を刺す事だけは忘れないティスだった。支部長も額に脂汗を浮かべ、ティスから見えないところにいる面々の顔が少し引き攣る。

 他にも細かい打ち合わせをし、これからの通信は今日とほぼ同じ時間で行う事を決めてから、ティスとの通信を一度切り、録画状態を解除した。


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