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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
作戦と試練 西暦3147年10月後半

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悪戯成功、後に紹介される

 幾つかの疑問の受け答えをしていると、大林少佐の通信機が鳴り響いた。通信機に出た大林少佐の顔が、一瞬で疲れ切ったものになる。

「支部長が私達全員を呼んでいるわ。ついでにお茶のお代わりも三人分、欲しいって。三十分しか経っていないのに」

「だったら、さっきの悪戯を実行すれば良いじゃないか」

「あ、そういえばそうですね」

 一条大将の言葉を受けて、大林少佐は一瞬で復活した。提案者だが、マジでやるのか。松永大佐を見るけど、止める素振りすら見せない。イギリスの副支部長は紅茶関係で、どれだけやらかしたんだろうか。あと、来客のお茶は一時間に一回の筈なんだけど、どうなっているんだろう?

 四人で会議室を出て移動する。大林少佐とは途中で茶缶を渡して別れ、先に執務室に向かう。

 一条大将を先頭に執務室に再び足を踏み入れた。一条大将が挨拶しながら入室した事で、視線はこちらに来ない。だが念の為に、松永大佐の後ろに立って事の推移を見守る。さっきみたいに、アメリカ副支部長の手でいきなり持ち上げられたりするのは困る。嫌とかそう言うのじゃなくて、対応と反応に困る。初孫を抱っこするお祖父ちゃんじゃあるまいし、一言声を掛けて欲しい。

 隠れて呼ばれた事情を聞くと、どうやらこの二人には自分がガーベラのパイロットである事を明かすつもりらしい。支部長判断の人選だが、大丈夫なのかと疑問を抱く。でも、他支部へパイロットの正体を公表しない理由の賛同者を増やす為らしい。マジで人選に大丈夫なのか? 二度も同じ疑問を抱いたぞ。

 支部長に呼ばれて前に出た。そのままガーベラのパイロットだと紹介される前に、大林少佐が戻って来た。先に並んでいたカップの回収を手伝う。

 そして、大林少佐がついに悪戯を実行する。

 支部長と二人の副支部長の前にお茶が並んだ。最初に紅茶を一口飲んだ支部長が怪訝そうな顔をする。

「大林少佐。この紅茶は一体どこで入手したんだ?」

「先日差し入れで、頂いたものになります」

「差し入れ? ……まさか」

 大林少佐の回答を聞いて支部長は自分と松永大佐を見た。視線が合わないように目を逸らしたら、何かを察した支部長は神妙な顔になった。そのまま無言でお茶を飲み始めた。多分、月面基地に行く前に見せた茶缶の一つだと気づいたんだろう。

『う、美味い……!』

『何だ? 何なのだこの『紅茶』は!? 私が知っているどこの産地の茶葉でも無い! 馬鹿なっ!? 私ですら知らぬ産地の、まだ見ぬ銘茶だとっ!?』

 一方、二人の副支部長はと言うと。無言になった支部長とは違い、一口飲んだだけで、大袈裟と言いたくなるぐらいに驚いている。特にイギリス副支部長は、驚愕の余りマナーを忘れて、両手でティーカップを掴んで琥珀色の水面を見ている。

 確か海外では、両手でカップを掴む行為は『(ぬる)い』と言う『無言のクレーム』に当たると聞いた。両手でカップを掴むのは日本だけだったか?

 関係あるようで関係の無いマナーについて思い出していると、イギリス副支部長は支部長に紅茶の産地について怒涛の質問攻めをしていた。支部長は慌てずに冷静に対処しているが、イギリス副支部長の興奮は収まらない。

 その様子を見た一条大将は、悪戯が成功した事で悦に入っていた。イギリス副支部長がハーブティーを紅茶と勘違いしている、少し混沌としたこの現状が嬉しいんだろうね。

『落ち着けヴァンス。大林少佐。このお茶は頂きもので合っているな?』

 いきり立つイギリス副支部長を落ち着かせる事に成功した支部長が、英語のまま、お茶を出した大林少佐に確認を取る。

『はい。こちらは頂きものの『ハーブティー』です』

 大林少佐の落ち着いた英語の回答を聞き、支部長は嬉しそうな顔をしている一条大将を見て渋面を作った。恐らくだが、一条大将の意図を察したのだろう。

『馬鹿な。これが、ハーブティーだと、言うのかっ!?』

 お茶の正体を知ったイギリス副支部長は驚きの余り声まで震え始めた。アメリカ副支部長もこれがハーブティーだと知って驚いている。


 ……実はこれ、日本円に換算すると一缶三十粒入りで二百万円近くもする、最高級茶葉なんだよね。記憶が正しければ、仕上がりの品質が良い時に品評会での最高価格が三百万を超えたハーブティーだ。ちなみに茶名は『ミンティローズ』と言う。バラとミントを掛け合わせて人工的に作り出した品種のハーブだ。

 今回は茶漉しを使う手間省きで開けたけど、基本的には食後に飲むお茶だ。

 ちなみに日本茶(緑茶)の品評会で、グラム単位(茶缶単位だったかな?)で百万円の値段を付けられたお茶が存在するらしい。日本茶でも高いものは高いんだよね。


 一頻り騒いだイギリス副支部長が落ち着いたところを見計らい、ずっと無言だった一条大将が口を開いた。

『さて、ウッティー副支部長。一つお尋ねしたい事が在ります』

『何だ? 私は今、この茶の味と香りを覚える事で忙しい』

 ぶっきらぼうに返しつつも、イギリス副支部長は両手で掴んだティーカップから視線を外さない。

『以前、『私の舌を騙せたら、褒美を与える』と仰っていた事を、覚えておりますか?』

 イギリス副支部長は一条大将の質問に、回答しないで動きを止めた。逆に動き出したのは、何かを思い出した支部長とアメリカ副支部長だった。

「そう言えば、そんな事を言っていたな」

『ヴァンスにしては珍しいな』

 イギリス副支部長はティーカップの水面を見つめたまま動かない。だが、少してから口を開いた。

『要求は何だ?』

『一度言ったが、ガーベラのパイロットの非公表の賛同だな』

『…………良いだろう。発言には責任を持つ』

 やや長い間を開けてから、イギリス副支部長は顔を上げずにそう答えた。けど、一条大将では無く支部長が回答したが、誰も気にしなかった。支部長が画策した事にする気なのかな。



 悪戯によるパニックが沈静化したと判断した支部長が、自分を呼んだ。ついに(?)自分がガーベラのパイロットだと紹介される。

 自分が公表されないガーベラのパイロットだったと知り、二つの支部の副支部長は目を剥いて驚いたが、すぐに非公表にした事について納得した。

『こんな華奢な少女にしか見えない女性をパイロットだと公表したら、間違いなく非難が集まるな。非公表の賛同を求めて当然か』

 イギリス副支部長の言葉に内心で同意する。だって自分の今の年齢は十五歳なのだ。成人年齢に到達していない。訓練学校を飛び級卒業した未成年をエースパイロットに担ぎ上げるのは、士官学校の在校生にも影響を与えるだろう。士官学校に飛び級卒業の制度が在るかは知らんけど。

『ちなみにだが、我々がバラしたらどうなる?』

『そんなものは、決まっている』

 確認を取るアメリカ副支部長に対して、支部長は人差し指でサングラスの位置を直し、一拍の間を開けてから言い放った。

『ジェフリー。貴様がバラしたら、星崎を松永大佐の養子にする!』

『サクマ!? き、貴様は本当に、嫌がらせの天才だな! 血も涙もないのかっ!?』

「それ以前に、どうして私が巻き込まれているのですか?」

 支部長の言葉を受けて、アメリカ副支部長は血涙を流さんばかりの勢いで拳を握って嘆いた。アメリカ副支部長の悲嘆の勢いで、顔を引き攣らせた松永大佐の言葉はスルーされた。

 それ以前に何故、自分が松永大佐の養子になる事が嫌がらせになるのか。謎だ。

 アメリカ副支部長の怒りと松永大佐の疑問をスルーした支部長は、今度はイギリス副支部長に視線を移す。

『ヴァンス。貴様がバラしたら、二度と、この茶を飲ません!』

『……サクマ。私を相手に茶を人質に取るとは良い度胸だ。今ここで、心行くまで、拳で語り合うか?』

 続いて言い放たれた言葉に、イギリス副支部長は額に青筋を浮かべて指を鳴らした。対して支部長は冷静だった。

『土産の茶葉が要らんのなら受けよう』

『ちっ、命拾いしたな』

 茶葉であっさりと買収されたイギリス副支部長は、舌打ちを零してから引き下がった。どこまで紅茶好きなんだろう。

 支部長は大林少佐にお土産の準備を指示したが、茶葉の個数でイギリス副支部長と揉めた。舌戦の果てに三回分が渡される事になった。大林少佐が飲み方について注釈として、『二杯目を飲み終えたら、茶葉を食べる』のだと教えている。

 嘘では無いが、真実でも無い。茶葉を食べるのは、個人の好みだ。中には食べないで五日間だけの『期間限定インテリア』として飾る人もいる。大林少佐が茶葉を食べると言ったのは、恐らくだが、地球のものでは無いものを残さない為の『配慮』だろう。

 そんな事を知らないイギリス副支部長は、茶葉が貰える事に喜んでいた。

 アメリカ副支部長は、支部長とイギリス副支部長が舌戦を繰り広げている間に、何故か自分を膝に乗せたがった。直前に『お触り禁止』と松永大佐に縦抱っこで回収されたので、膝の上に乗る事は無かった。でも、どうしてこんなに『残念な人』なんだろうかと思ってしまう。

 確かに完璧な人間は存在しないと聞くが、こんな『残念過ぎる要素』は要らないと思う。


 確かに向こうの宇宙にもいたよ。外面だけは完璧に見える人が、それはもう沢山いた。

 勿論、悪い意味で外面が良いのではない。ただね。天から二物、三物と『余計なもの』まで貰ってしまい、総合的に見ると『マイナス評価』を出さねばならない『困った人』が多かった。

 好いた女性か、気を許した人間の前でのみ、『ドMになる(特殊性癖を発露させる)超優良物件の美形男』がマシに見えるレベルで酷かった。

 何をどうしたら、そんな余分な天賦を授かるのか。マジで謎だったよ。

 一番厄介なのは、それなりに国力を保有する『中堅国家』と言われる国の上層部に沢山いた事か。国家の中枢に近い人間は『奇人・狂人・変態・変人・ドS・ドM・サイコパス・鬼畜外道』で構成されていた。これは市井には広まっていない真実なので、中堅国家以上の国の中枢にいるのは『天才・秀才・鬼才』と思われている。世間の認識と真実の溝は深かった。

 

 ……あれ? 向こうの宇宙に比べると、残念度はそうでもないな。ちょっと暴走しているだけだし。

 残念な事には変わりないが、世の中では常に『上には上がいる』ものなのだ。『見た目だけ極上の変態』じゃないだけマシだ。

 そう言う事にしておこう。


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