先に全てを報告する
移動途中で大林少佐と別れて、どこかの空き部屋に入る。そこで漸く降ろして貰えた。
室内を改めて見回すと、空き部屋は会議室だった。一条大将共々、適当な席に着くと、支部長へ行った報告内容の開示を求めて来た。隠すものでは無いが、知っているのは一部の人間だけに留めた方が良い内容だ。松永大佐が他言無用をお願いしてから説明する。
そして、支部長がぎっくり腰を起こした報告と同じところで、ギョッとした一条大将も驚きから立ち上がった。
「同じものがもう一つ、存在したのか」
「はい。どうやらそのようです。星崎が今朝受けた通信によるとですが」
「いや、二つも存在するとしたらの仮定で、説明可能な事の方が多い。隠れていたのではなく、別のところから来ていたとするのなら、敵影が観測出来なくても当然か」
「幹部内での公表も控えるべきだと思いますが、どうしますか?」
「どうもこうも、幹部内に限定して公表はすべきだ。ただし、終わってからだ。そうでなければ九月の時みたいになるぞ」
「タイミングをずらしての公表ですか。終わった事について『文句は言えない』ですか?」
「そう言う事だな」
大人二人で深刻そうに話し合っている。いや、深刻なんだろう。しかし、同じものが二つ存在すると言っただけで、この有様。
これまでの苦労の度合いが伺える。いや、技術の差と、悲惨な結末を乗り越えて、今が在る。それを『苦労』と言うのは失礼か。
「さて、星崎。支部長へ報告した、その先について教えてくれ」
こちらに向き直った一条大将から、報告を要求された。支部長は良いのかな? 松永大佐を見る。
「支部長にもあとでもう一度行うが、先に聞いて疑問点を探したい」
「分かりました」
理由が在るのならば良いか。そう判断して、端末操作して空中ディスプレイを表示させたところで来訪を告げる電子音が鳴り響いた。松永大佐が対応すると、やって来たのは大林少佐だった。支部長の執務室に来た時と同じく、カートを押している。よく見ると、カートは先程のものとは別物だった。
推測だが、一条大将と松永大佐が会議室を使うから持って来たんだろう。持って来ただけで去るのかと思いきや、大林少佐もこのまま残る模様。
大林少佐が持って来たカートには、ポータブル電気ケトル、人数分のコップとマドラーに、大きめのガラスのティーポット、コーヒー豆(焙煎済み)とコーヒーミルにフィルターセット、角砂糖とミルクなどが大量に出て来た。
自分は端末を操作して、セタリアから貰ったお菓子の缶と茶缶を取り出す。お菓子は一缶開けたけど、まだ少し残っている。開封してから少し日にちが経過しているけど、そろそろ食べ切らないと湿気る。『湿気るから食べるのを手伝って欲しい』とお願いして、三人の前にも出した。大林少佐が紙皿をカートから取り出したので、四人で分ける。続いて茶缶に手を伸ばした。
「ハーブティーは飲めますか?」
「貰いものよね? 開けて良いの?」
「お金を出せば買えるものですから大丈夫ですよ。一人で飲むにはちょっと量が多いです。消費を手伝ってください」
押し切ってから茶缶を開ける。ハーブティーだけど、今回開けたのは細工葉(地球で言うところの中国茶の一つ工芸茶に近い茶葉)と呼ばれるタイプだ。本当は透明な茶碗で淹れるのが良いんだけど、今回はしょうがない。
「あら、珍しい茶葉ね。花茶なの?」
「いえ、これは細工葉です。淹れ方は中国茶の工芸茶とほぼ同じです。こちらは食用花を使用しているので、飲み終わったらそのまま食べます」
「淹れ方も、飲み終わったあとも変わっているのね」
紙のカップにケトルの熱湯を入れて軽く温めてから、細工葉を一粒入れ、追加で熱湯を入れる。正しいやり方をしたいけど、その場合、カップの温めに使用したお湯を捨てる必要が有るので今回はやらない。
小さい紙皿を使って一分程度(食用花を使用しているので、蒸らし時間が地球のものに比べると短い)蒸らしてから、紙コップを配る。
「ほぉ、ハーブティーと聞いてミントを思い浮かべたが、スッキリしているのに後味がほんのりと甘いな」
最初に一口飲んだ一条大将が目を丸くしている。それは比較対象がミントだからだと思うけど、感想を口にするのは控えた。
「確かにそうですね。色も香りも紅茶とほぼ変わらない上に、事前にハーブティーと知らなければ紅茶と間違える味だ」
松永大佐は色と香りを確認してから飲んでいた。飲み方が紅茶と同じだった。飲み慣れているのかな?
「美味しい! 渋みは無いし、食用花を使っているって聞いたけど、変に甘ったるくないし、スッキリしている」
お茶を飲んだ三人の中で、大林少佐が一番驚いていた。お茶を飲んだら、今度はお菓子を一つ食べて驚いている。
三者三様に違うお茶の反応を見てから、自分も紙コップに口を付ける。久し振りに飲むけど、美味しい。貴族向けのハーブティーの中でも最高級品だから当然なんだけど。お茶のランクと金額について言うのは止めておこう。向こうで高いものはマジで高い。日本人の想像よりも一桁多い。
ちなみにこれは一粒で三杯まで飲める、と言うよりも食用花を使用しているからか、一杯目と二杯目がちょっと濃く出てしまう。茶葉をそのままにして飲むと、徐々に濃くなって行く。茶葉を取り出し、飲むペース配分を変えると、最大で五杯まで行ける。五杯目まで飲んだ場合、茶葉に味が残っていないので捨てるしかない。
三人に蒸らしで使用した紙皿とカートを漁って取り出した硬化紙のフォークを渡し、このまま飲むと徐々に味が濃くなって行く事と、二杯目以降の飲み方について説明すると、三人揃って茶葉を紙皿に取り出した。濃かったのかなと思うが、自分も硬化紙のフォークを使って茶葉を紙皿に取り出したから何も言わない。
「お茶一つで、ここまで違うのね……」
大林少佐が呆然と呟いた。まぁ、最高級品だからね。そりゃ変わるでしょう。あと、加工技術も違うから、味と香りに違いが出るんだろうね。
「一条大将、何を企んでいるのですか?」
松永大佐は何やら含み笑いをしている一条大将を見て首を傾げた。
「いや、大した事では無いぞ。ただ、イギリス支部のウッティー副支部長がいるのを思い出してな」
「ああ、あの御仁は紅茶に煩い方でしたね」
一条大将の言葉を聞いて大林少佐がげんなりとした。その顔を見て、何となく理由を察した。
紅茶に煩い奴は、とことん煩いのよ。マジでもう、『自分で淹れろ!』って怒鳴りたくなるぐらいに拘りが強い。下手をすると、茶葉の品種と産地の指定して来るし、蒸らし方と蒸らす時間に使用する水(軟水か硬水の二択だが)にまで口を出し、ブレンド茶葉の配合にまで口を出すから、始末に負えん。そこまで拘るのなら、持参して欲しいわ。
「悪戯しますか? 『お茶です』と言って出せば良いだけですし」
ちょっとした悪戯を提案したら、一条大将は叱責するどころか、ノリノリで賛成した。
「良いな、それ! 紅茶と言って出す訳じゃないから、嘘は言っていないし。ハーブティーと紅茶を間違える紅茶通の悔しそうな顔。最高だな!」
一条大将は成功した時の事を思い浮かべて、大笑いしている。
「止めるべきなんでしょうが、あの御仁は紅茶絡みで面白い事を言っていましたから、良いかもしれませんね」
「確か『私の舌を騙せたら、褒美を与える』でしたっけ?」
松永大佐と大林少佐も、一条大将を止めないどころか賛同している。と言うか、イギリス支部の副支部長はそんな事を言っていたのかよ。
悪戯の詳細を詰めながら、思わぬお茶会は配った菓子が無くなるまで続いた。
和やかなお茶休憩を終えて、大人三人を前に空中ディスプレイをやや大きめに表示させてから、セタリアからの情報を告げる。
旧式短距離転移門が二つ存在する事。片方が隠蔽された状態で、地球の公転軌道上のやや内側に存在する事。隠蔽技術の流出を防ぐ為に、こちらはルピナス帝国が破壊する事。この三つを報告する。技術の流出に関しては、『この隠蔽技術は向こうの宇宙で、戦争で使用が禁止されている技術の一つなのと、こちらに侵攻している勢力が犯罪組織だから』と理由も付ける。
追加で、月面基地の傍で撃墜したターゲスにも搭載されていた事も併せて報告し、技術流出の可能性について尋ねた。今の地球の技術で解析は不可能だと思うけど、念の為に上の人間の意見を聞いておいた方が良いだろう。
「支部長も仰っていたが、残骸から技術を調べ上げるのは無理だろうな」
「それに、これまでも残骸を回収して調べているが、向こうの技術に関して百年近くも経過しているにも拘らず、何一つ解析出来ていないのが現状だ。文字の解読云々以前に、起動すら出来ていなかったからな」
「それを考えると、杞憂では言い過ぎになるが、現時点での心配は不要になるな」
「松永大佐の言う通りだ。技術があと数世紀分進化しないと、解析は夢のまた夢だ」
松永大佐と一条大将の意見を聞き、『今の地球の技術では解析は無理』と言う、自分の認識と相違が無い事を確認する。
「解析云々以前に、公転軌道上の一つを向こうが担当するのでしょう? ならば、技術流出の心配は不要では?」
「大林少佐。月面基地の傍で撃墜したオレンジ色の敵機の残数が、最低でも二十二機も残っていると聞きました」
「成程、心配はそちらの方だったのね」
ターゲスの残機数を知らない大林少佐に、セタリアから聞いて計算した残りの数を教える。すると、すぐに納得してくれた。自分が心配しているのは、これから撃墜するターゲスの残骸の扱いについてだ。
「これから撃墜しても、解析は難しいでしょうね」
「そうだな。松永大佐の言う通り、杞憂は言い過ぎかもしれないが、現時点での心配は不要だろうな」
一条大将の締め括りで、報告は一先ず終わりとなった。




