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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半

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久し振りの通信機、後に色々と知る

 再び足を踏み入れた室内は……何と言えば良いのか。

『これから殺されるのかぁ……』みたいな諦めの空気と、『殺される! まだ死にたくない。でも、逃げる方法が無い。どうしよう』と言う諦観に満ちた空気。この二つが混じっていた。

 おかしい。皆で危機を乗り越えたばかりなのに。もうすぐ七時になるのにどうしてこんなにどんよりとしているんだ?

 状況は見えないが、入室するなり松永大佐から『この部屋から出る前に起きた事』について説明を求められた。

 説明を躊躇う程の事は起きていない筈なのに、どうなっているんだ? 誰も言わなかったから自分に役割が回って来たんだろう。そう考えて簡単に説明する。ついでにボイスレコーダーも提出する。すると、ボイスレコーダーを見た松永大佐以外の全員がギョッとして、女性将官の一人が叫ぶ。

「待って! 松永大佐、何でそんなものを星崎に持たせているのよ! 星崎も素直に受け取らないで、少しは疑問を持ちなさい!」

「何が問題なのでしょうか? 訓練学校の女子はセクハラ教官の証拠残しの為に、全員ボイスレコーダーを持ち歩いていましたよ。それに、訓練学校の女子寮には『スマホの充電を忘れても、ボイスレコーダーの充電と残量確認だけは怠るな』の文字を書いた紙が額縁に入れて飾られています。交代で額縁を磨くのが女子の日課です」

『訓練学校はどうなっているんだよ!』

 首を傾げて回答すれば、室内にいたほぼ全員が叫んだ。草薙中佐と、先程叫んだ女性将官に至っては揃って頭を抱えている。

 叫ばず落ち着いていた松永大佐は、ボイスレコーダーの音声データを再生して確認していた。

 真逆で、何とも言えないカオスな光景を前に、どうすれば良いのか分からず支部長を見たが、マダオのような顔をしてこっちも頭を抱えていた。

 頼れる大人を探して大林少佐を見るも、関係無いと言わんばかりに缶コーヒーを開けて飲んでいたので頼れそうにない。仕方なく、松永大佐の確認作業が終わるまで待った。

 その間、大人組は『お前のせいだ』、『いや、止めなかったお前が悪い』、『もっと最悪の状況を想定しろ』、『止めるのなら強く主張しろ』、『強く主張しても、聞かないお前が悪い』と、泥沼状態の責任の擦り付け合いをしていた。

 醜い大人の争いが続くのかと思っていたが、復活した支部長が割って入る事で終息した。松永大佐の確認作業が終わる前に、支部長が大慌てで状況を聞いてから指示を飛ばして行く。

 そして、松永大佐の確認作業が終わると同時に、支部長と大林少佐に松永大佐と自分の四人は、月面基地に在る支部長の執務室へ移動した。



「――と言う訳で、我々三人は月面基地に来た」

「そうでしたか」

 数ヶ月振りに入る支部長の執務室で、大人三名が何故月面基地にやって来たのか説明を受ける。何時かの時のように、執務机に着いた支部長の両サイドには松永大佐と大林少佐がいる。支部長が気軽に月面基地に来て良いのか気になるけど、来てしまったものはしょうがない。

 先程の戦闘に関する報告と、敵機『ターゲス』に関する情報を述べる。ターゲスは過去の襲撃に参加していなかったのか、新型機扱いされていた。

 ターゲスはデチューンされているので、無人機運用されていたアゲラタムよりも性能が低い。持ち出した理由は解らない。聞かされても理解出来ないだろう。

「星崎。敵機がガーベラを優先的に狙った理由は解るか?」

「推測ですが、恐らくディフェンバキア王国製の剣を持っていた事が原因でしょう。戦闘中も右の剣だけ警戒していました」

「剣が原因か。……ふむ、そう言えば、あの剣の材質は解るか?」

 支部長からの質問に、『何で調べてないの?』と疑問が喉から出そうになった。首を傾げないように気を遣いながら回答する。

「芯材にはターゲスの装甲の代用合金を使用しており、芯材以外は隕鉄を使用しています」

「あの剣にも合金が使われていたのか」

 首肯すると、松永大佐からも質問が来る。

 あの剣は日本刀の『硬く、軟らかく』の言葉を再現した一振りだ。日本刀は『軟らかい鉄を硬い鋼で包む』製法だったが、ディフェンバキア王国で作った剣は、シェフレラ石の代用合金(軟らかい鉄の代わりになるように新しいものを創った)を芯材にして、包む鋼の代わりに隕鉄を使用した。

 情報を少し漏らすと、大人三人は感心した。

「随分と詳しいな」

「済みません。元になった剣を開発したのは私です」

「そうだったの!?」

「はい。開発したと言っても、昔の事ですが」

 詳細を教える必要は無い。開発者だから細かい事を知っているだけに止める。

 多少の情報を流したが、この剣を地球の技術で作るのは難しい。どう考えても隕鉄を必要量確保する段階で躓く。隕鉄が大量に確保出来た惑星セダムだったから、ホイホイ作れた。地球で必要量を確保するのは、予算的にも難しいだろう。そのお金で新品の戦闘機を一機作った方が安い。

 驚いている支部長に質問の許可を取ってから口を開く。

「ターゲスが有人機だった事は公表しますか?」

「その予定は無い。流石に混乱を招くし、撃墜者が何と言われるか分からないからな。伝えるとしても、各支部の副支部長以上限定する事になる」

 支部長の回答を聞き、『口外しない方が良い情報』だと認識を強める。本当に、何であんな欠陥機を持ち出したんだか。

「星崎は、気にならないのか?」

「なりません。言い難いのですが、向こうにいた頃は『殺人許可権』のようなものを持っていた上に、合法、非合法、超法的な事に関与していました。国に反旗を翻す連中の鎮圧部隊の隊長を任される回数も多かったですし」

 松永大佐の質問に答えて、ポロっと、向こうにいた頃の事を話す。すると、三人の顔がはっきりと引き攣った。正直に言うと、本当はもっと深く関わっている。そこまで付き合いの長い人達じゃないから、そこまで言う必要が無いだけ。

 ターゲスが有人機だった事実を公表しないってところから考えると、やっぱり、殺人は忌避する傾向が有るみたい。

「支部長。セタリアとの通信は何時にしますか? ターゲスに関しては、向こうにも知らせた方が良いです」

「それか……せめて、一条大将と一緒に受けたかったんだが」

 支部長に改めてセタリアとの通信日時について尋ねる。すると支部長は腕を組んで悩み始めた。

 これ以上セタリアを待たせると、『判断が遅過ぎる』と悪い評価を受ける事になる。セタリアは『即断・即決・即行動』を好む。だから、『返事は何時でも良い』と言う言葉は信用出来ない。絶対に『なるべく早くに返事をしてね』って意味だと思うし。

 ここは先に動くか。

「支部長。セタリアには個人的にも聞きたい事が在るので、先に私がターゲスに関する事の報告を兼ねて通信をする許可を頂きたいです」

「本音を言うと、この手の通信回数は少なく済ませたいんだが、仕方が無いか」

 一つの提案をすると、支部長は許可をくれた。ただし、『今ここで通信する』事が条件となった。聞かれて困る事は無い。アゲラタムの扱いについても聞きたかったから、逆に聞かせたいぐらいだ。

 端末から通信機を取り出し、許可を取ってから応接用のローテーブルの上に置く。ソファーに座り、通信機を立ち上げる。

 自分の感覚的には二年数ヶ月振りとなるが、向こうからすると三百四十数年振りとなる。セタリアと直接話をするのも、それぐらいの時間差が存在する。果たして出てくれるのかと期待と不安を混ぜて待つ。

 数分待ったが、何故か通信が繋がらない。会議中か、別件で出られないのかと考えた時、通信が繋がった。

 だが、空中ディスプレイに映った人物は、青紫色の短髪と黄色い瞳の青年と言って良い外見年齢の、松永大佐並の美形の男性――サイヌアータだった。

『誰だ? ウチの陛下は只今会議中――って、リチアじゃねぇか!?』

「へ? サイ!? あれ? セタリアは?」

 通信に出た人物が予想と違い驚く。予想外の人物が出て来て驚いてしまい、自分が使う言葉は日本語のままだ。

 ちなみに、リチアと言うのは、自分の襲名する前の昔の名前だ。『プリムラ』の名を襲名する前は『ストレリチア』だった。この名前を知っている人物は少なく、『リチア』の愛称で自分を呼ぶのはサイだけだ。

 映像の中のサイは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、椅子を蹴り倒して立ち上がった。

『あれ? お前、……ん? いや待てよ。リチア、今どこにいるんだ?』

 色々と言いたい事が在るだろうに、最初の疑問はそれだった。多分途中で自分の状況を思い出したんだろう。サイの様子を見て落ち着きを取り戻した自分はルピン語で話し掛ける。

『セタリアから聞いてないの?』

『聞いてないぞ。え? 俺も知って無いと駄目な案件なのか?』

『最大で三個大隊まで動かしても良いとか言っていたのに、何でサイに連絡が行っていないの? と言うか、ティスは顎で使われていたのに』

『何であの野郎のところに連絡が行ってて、俺のところに連絡も知らせも無いんだよっ』

 映像内の、サイの口元が引き攣った。

 サイはティスと仲が悪い。顔を合わせれば笑顔で嫌味の応酬が始まる。

 嫌味の応酬のみで、殴り合いに発展していないだけまだ良い。でもこの二人は、属国とは言え正式な王と、大国軍部のお偉いさんの一人だ。二人の仲の悪さを知らない第三者からすると、どう思われるのか分からないので止めて欲しい。

『えーと、サイ。セタリアは会議中なの?』

『そうだ。あと半日は掛かるぜ。んで、どうしたんだ?』

 サイから終わるまでの時間を聞き、少し考える。サイも知っていた方が良い内容だから教えるか。

『ターゲスとマルス・ドメスティカについて、セタリアに報告と聞きたい事が在ったの』

『待て、どっちも違法機体じゃねぇか。つーか、マルス・ドメスティカの方は、リチアが全部ガラクタにしたよな? 何の報告をするんだよ』

『ターゲスを十一機撃墜。マルス・ドメスティカの方も複数機見つかってて、一機撃破したけど変な改造もされていた』

『はあっ!? あのやべー機体が何で見つかってんだよ!?』

『こっちが聞きたいよ。保有していたのはキルシウムの連中だけど』

『あんの馬鹿共、何を考えてんだ!?』

 映像の中のサイが頭を掻き毟っている。

 サイの態度を見て心配そうな顔をしていた支部長が口を開いた。

「星崎」

「セタリアは会議に出席中でした。大きい国の会議なので、終わるまであと半日も掛かるそうです」

「間が悪かったな」

「そうですね」

 その通りだな。セタリアに直接報告出来ないんじゃしょうがない。

 別のところに連絡を入れよう。

『サイ。セタリアにターゲスとマルス・ドメスティカを見たって事だけ教えて。調査は喪服淑女の会かティスに連絡を入れてお願いする』

『待て。喪服女のところだけは止めろ。冗談抜きで止めろ。何が遭っても止めろ。あそこに連絡を入れたらヤバい事になる。あとディフェンバキアも止めろ』

『そこまで過激な活動はしていなかった筈だけど? 何でよ?』

『してないけど、どこから湧いて出て来るか分からないから頼るな。ここ千年ぐらい、喪服を着た女を見て、悲鳴を上げるか、泡を吹いて倒れる野郎が増えたんだ』

『……幾らなんでもそれは肝が細過ぎでしょ』

『今はそれぐらい大事になっているんだよ。それから、陛下が関わってんなら連絡を入れるの止めた方が良いぜ』

『事後報告でも駄目そうね。ディフェンバキアの諜報部が動いていたから良さそうだと思ったんだけど』

『駄目だからな。ターゲス十一機とマルス・ドメスティカを見た事だけは伝えておく』

『お願いね。それから、何か知りたいのならディセントラに聞くと良いよ』

『分かった。ありがとな』

 最後に頼み事をしてから通信を切り、大人三人に会話内容を教える。

「空ぶったが、通信機が正常に動くかの、確認は出来たな」

 支部長の言葉を首肯する。通信機が機能不全となる確率は低いが、事前に使う機会が出来たのは『良い事』だろう。他に良い面が無い。

 セタリアに直接報告は出来なかったが、サイだったら忘れずに報告してくれるだろう。さて、やる事が無くなった。支部長にもどうするか聞くか。

「支部長、セタリアが出席している会議が終了するまでに半日も時間が残っています。どうしますか?」

「半日も猶予が残っていると捉えるしかないだろうな。大至急、一条大将と相談して質問事項を纏める」

 支部長はそう言うなり机のパソコンを起動させた。松永大佐と大林少佐は、支部長の両脇から離れてこちらに来た。

「星崎、この通信機は地球で言うところのパソコンに近いの?」

「完全な別物です。中身に手が入っていますし、使用している技術も別物です」

「そうなの」

 大林少佐からの質問に答えると、考えを纏めた松永大佐が口を開く。

「先の通信相手が異様に慌てていたが、何か問題でも起きたのか?」

「起きていません。この通信機を使って『別の知り合いに連絡を入れたい』と伝えたら狼狽えただけです」

「……連絡を入れるだけでしょう。何で狼狽えるの?」

 大林少佐の口から零れた素直な疑問に、松永大佐も同じ事を思ったのか頷いた。

「連絡相手の『喪服淑女の会』は癖が強いので……」

 正直に言えないので、ここは言葉を濁すしかない。曲者揃いなので、嘘は言っていない。

 元々、乱立する女権運動家団体の『元締め』として、自分が設立した結社だったのに。どう言う訳か、斜め上の方向へ爆走している。知らない間に、内部に色んな機関が設立されていたんだよね。


 特にヤバいのが『ナイフとフォークよりも重いものを持った事の無い令嬢を、たったの一年で一流の暗殺者かスパイに育て上げる』育成機関。

 誰がこんな機関を設立したのか調べたら、五大大国の一つに数えられている王国の王妃様だった。国内の女権運動家を纏め、情報供与と資金提供をするだけに『嫌々』名前だけを連ねていた『名誉会員』だった人が、急に何故と思ったら、夫婦仲が悪化していた。

 近づく不仲による国内の混乱の対策として設立したみたいだけど……どう調べても私怨だった。

 当時のその王国では、王に近づいた馬鹿な女のせいで、複数の令息達が婚約破棄を行っただけでなく、幾つもの円満だった夫婦が離縁する異常事態が発生していた。この騒動で、被害者面した男共に公衆の面前で罵られ、名誉を傷付けられた令嬢と夫人達が泣き寝入りをしない為に立ち上がったそうだ。

 当初の一致団結した女性達は、馬鹿女が原因で離婚寸前だった王妃の許に集い対抗策を考えていた。

 王妃が馬鹿な男共の情報の提供を求めた喪服淑女の会傘下の女権運動家団体は、運が悪い事に『スパイと暗殺者の育成所』を抱えていた。育成所の存在を知った王妃は喪服淑女の会自体に『育成所が存在しない』事を知るなり、私財を投じて自ら育成機関を立ち上げた。教育担当は喪服淑女の会の伝手を使い、他所から借りた。

 不穏な経緯で誕生した育成機関の卒業生は、国家お抱えの暗殺者も真っ青な結果を叩き出して、馬鹿女と誑かされた阿呆な男共への復讐を果たした。

 この時設立された育成機関は、そのまま喪服淑女の会直属となった。ついでに設立者の王妃は正規会員になった。

 なお、この育成機関で使用される道具類は、喪服淑女の会傘下の女権運動家団体に『作った道具のモニター』の依頼を出していた自分の許に来た。『最速で結果を教えるから、最優先で回せ』と王妃本人が『非公式で、単身で乗り込んで来た』もんだから、大騒ぎになった。


「星崎? 貴女、目が死んでいるわよ」

「いえ、喪服淑女の会、関係で、ちょっとした騒動を思い出しただけです」

 嫌な騒動を思い出していたら、大林少佐が自分の顔を覗き込んで来た。

「ちょっとした騒動を思い出しただけで、目が死ぬって、何を思い出したの?」

「大国の王妃様が『公衆の面前で女に恥を掻かせる男は要らん。ぶら下げている不要なものを切り落とせ』と男に裏切られた令嬢や夫人に復讐を推奨して、自身の結婚相手の背中を踏み付けていたシーンですね」

「……草薙中佐以上に、過激ね。その変な会」

「正規会員の人になると、『浮気をされたら浮気相手の女性共々、浮気男の首を獲りに行く人』ばかりなので、恐ろしく過激な人が揃っていますね」

 資金提供と情報の供与だけの『名誉会員』については黙っておこう。自分は『永世名誉顧問』だけど言う必要は無い。

 通信機の電源を落として端末に仕舞う。今度はずっと口元に手を当てて考え事をしていた、松永大佐が口を開いた。

「先程の通信相手は、随分と親しそうだったが知り合いか?」

「はい。向こうにいた時の親戚です。先程のがサイ、サイヌアータです」

「サイヌアータ……。ああ、これから関わる回数が増えるとか言っていた内の一人か」

「そうです」

 松永大佐は名前を聞いただけでサイの事を思い出して納得した。けれど、大林少佐は半目になって松永大佐を見ている。そのまま何か言いたそうな顔をしていたが、そっぽを向いて諦めた。実に謎の行動だ。

 さて、支部長は大慌てでパソコンに向かって作業中。大林少佐は支部長に呼ばれて仕事のお手伝い。松永大佐と自分はやる事が無い。松永大佐に仕事の有無を尋ねるも『無い』と返されてしまった。

 それよりも、応接セットに対面で座る事になり、小さいタブレットを渡された。画面を見るよりも先に、支部長からアレコレと聞かれたが回答可能な範囲だった。即答してから再びタブレットの画面に目を落とす。

「……え?」

 最後まで画面が映す情報に目を通して、三度も見直し絶句した。冗談だと言って欲しい。

「ま、松永大佐これは?」

「ガーベラ弐式の企画書だ。元々は改修案だったらしいが、星崎が思っていた以上にガーベラを乗りこなしている事と、ここ二ヶ月で色々と判明した様々な事実。この二点から、弐式に改造する事が正式に決まった」

 確認を取るも、知りたくなかった事実が明かされた。

 企画書を読んだ限りだが、最大速度が今の一・八倍になっている。単純計算で約二倍の速度になる。つまり、加速時の負荷も約二倍になる。どう考えても、常人が乗る事を前提とした機体じゃない。

「改造する箇所は既に決まっている。パーツを付け替えるだけだから、短時間で済むそうだ。ツクヨミに戻ったら慣らし操縦と模擬戦を行うのは決まりだな」

 大変、嫌なスケジュール内容だ。でも、試験運用隊としてはある意味当然な内容だろう。でも、何と言えば良いのか。『詰んだ』気がするのは気のせいか?

「えぇと、月面基地出発時刻は何時になりますか?」

 必死に停止しかけた思考を回して、質問を捻り出す。こう言う時の聞き忘れはあとになって、困った場面でピンチの元になる。

「出発は、どれだけ遅くても十一時になる。模擬戦の相手は私と、佐々木中佐と井上中佐の誰かになると思うが、飯島大佐が『訓練時間が欲しいから一時間程度捻出する』と言っていたから、この三名になるだろう。高橋大佐は書類仕事が溜まっているから来ない。仮に来ても、追い返すから気にするな。それと、模擬戦の相手はアゲラタムで行う。慣らし操縦と模擬戦は作業完了時間を考えて、明日の午後になる。今日は行わない」

 スラスラと、これから松永大佐に質問しようと思っていた事を、先に説明された。

 思考を回して他に聞く事は無いかと考えて、一つの質問を受けていた事を思い出した。

「そう言えば、他支部からガーベラのパイロット派遣を受ける話が在ったと聞きましたが、事実ですか?」

「それか。確かに在ったが、基準値に届いていないパイロットだったから断った。流石に負傷したから送り返すと言った事はしたくない」

 基準値に届いていないから断った。自分がイングラムに言った仮説の一つが当たっていた。

 仮説が正解だった事に驚いていると、松永大佐から『メールを送るのか』と尋ねられた。そう言えば、ボイスレコーダーの最初の方で繰り広げた会話内容だったから、松永大佐が知っていてもおかしくは無いんだよね。

 肯定すると、今ここで送るように指示を受ける。ついでにメールの文章にも指示を受けた。何故だろう?

 変な文章にする予定は無い。『上官が言うには、基準値に達していないから断ったらしいよ。あと、けが人を出したくないみたい(意訳)』って、感じの文章を送る予定だった。

 先に文章を入力し、一度松永大佐に見せて『不要な文言が入っていない』事を確認して貰ってから送信する。

 メールはイングラムだけでなく、会話の場にいたライトにも送った。

 この時の大林少佐の、松永大佐を見る目が『不審者を見るような』ものだった事が気になった。



 このあと。

 特にやる事は無く、色々と予定を切り上げて、八時になった頃。自分は松永大佐と一緒に戦艦に乗り込んでツクヨミに向かう事になった。

 支部長は大林少佐と共に残った。月面基地に駐在している、佐藤大佐を始めとした面々と戦後処理をするそうだ。

 仕事と休みの差が激しい。軍人だからしょうがないんだけどね。

 ちなみにツクヨミの隊舎に戻ったのは、十五時過ぎだった。

 今日は明日に備えて休めと、松永大佐に言われた。でも、別れ際に佐藤大佐に関する報告漏れ、いや、新発見が在った事を思い出してその場で報告した。新発見を聞いた松永大佐の何とも言えない微妙な顔は、思い当たる事が多いんだろうね。

 最後の報告を終えて部屋に戻る。予定を超過したが戻って来れたのは良い事だ。ターゲスに関しては知りたくも無かったが。

「あとは、セタリアがどう判断するのか」

 ベッドに寝転び天井を眺めながら、今後について考える。

 キルシウムと他の犯罪組織。そして、これらの後ろにいる必ず倒さなくてはならない敵。

 最後の敵に辿り着くには、キルシウムと犯罪組織をどうにかするしかない。だが、敵の正体と拠点の位置を考えると自分一人で行かなくてはならないだろう。

「まさか、もう一回ぶった切る日が来るとは思わなかったなー。あの時は羽化する前だったけど……」

 前回、ルピナス帝国にいた頃に同種を斃している。でも、今回は時間が経ち過ぎているからどうなるか分からない。あの時は十年掛けてスケジュール調整をしてゲットした半日休暇を潰された怒りと相まって、問答無用で瞬殺した。

 そのあとに開かれた新しい対策を考える国際会議では、議長を押し付けられたり、『主義主張を通す為に全裸男が四人も出揃う』珍事が発生したりと、大変だった。

「うん。これ以上思い出す必要は無い」

 全裸共は簀巻きにして吊るしたら『妨害行為』と叫んだ。『他の出席者が不快に思う服装は慎め』と言ったら『女装して』再登場したんだっけか。

 碌な思い出が無いな!

 起き上がって頭を振る。

 これ以上変な事を思い出さない為に、夕食まで仮眠を取ろう。

 スマホのアラームをセットして眠った。


やっとストックが無くなりました。

明日、おまけ話と登場人物まとめの投稿後より、今後は更新の間隔があきます。


思い付きで投稿しましたが、週間で一位を取る事が出来たりと、予想外に色々と嬉しい日々でした。趣味作品として遅い時間に投稿したにも拘らず読んで頂けて嬉しい限りです。

応援の高評価して下さった方々、誤字脱字の報告をして下さった方々ありがとうございます。誤字脱字まみれで済みません。

感想欄を開放したいところですが、あと少しで完結する作品が何作品が在り、返信が滞る可能性が有るので、個人的な判断で一章が完結するまで閉じさせていただきます。

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