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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半

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一難去ったと思ったら、魔王が降臨した~第三者視点~

 星崎が去ったあと。

 室内に残った面々は、危機が去った事を確認してからテーブルにの上に伸びた。

 そのまま十数分間の時間が流れた。誰一人として仕事を再開しない。

「無自覚って怖いわね」「って言うか、あの子はどうやって男を二人も同時に引っ掛けたのよ」「訓練学校でも、『ああ』だったのか」「そうでなきゃ、説明出来ないぞ」「なぁ、松永に何て説明すりゃいいんだ?」「説明出来るのか?」「無理だな!」「そもそも、バレなきゃ大丈夫だよ」「そうだな!」

 バレなければ大丈夫。

 その言葉に同意して、テーブルに伸びたまま、皆で乾いた笑い声を上げた。

 直後。


「――何がバレなきゃ大丈夫、なんですか?」

 

 ここにいない筈の、余程の事が起きても月面基地に来ない人間の声が冷ややかに響いた。全員が動きを止める。

 過去最も最悪なタイミングで、日本支部幹部達に先の戦闘以上の危機が訪れた。全員で恐る恐る、音源の人物を見る。

 部屋の出入り口には、支部長と大林に――滅多な事ではツクヨミから離れる事の無い、イイ笑顔を浮かべた松永の三名が、知らない間にそこにいた。先の会話でドアの開閉音に気づかなかったのだろう。動きを止めた面々の疑問を解消する為か、察しの良い松永が笑顔のままで口を開いた。

「あぁ、私は佐久間支部長に乞われて随伴しただけですので、気にしないで下さい」

 ――無理に決まっているだろ。

 テーブルに伸びていた面々は、皆同じ事を思ったが声には出さなかった。だって疲労困憊の状態で、松永を相手に床に正座して二者面談したくないもん。

 そして支部長が戦犯だった事を知り、テーブルに伸びていた面々の目が死んだ。

 死屍累々、否、それ以上の、荒れた会議終了直後以上の凄惨としか言いようのない皆の状態に、流石に佐久間も狼狽えた。

「き、君達、大丈夫かね?」

「それ以前に、工藤中将に支部長が月面基地に赴く事を教えた筈です。どうして知らないのですか?」

 佐久間と違い、落ち着き払った大林がぽつりと疑問を零す。大林の顔には『馬鹿ね、あんた達』と書かれていた。

 大林の室内で伸びている面々を馬鹿にした態度よりも、戦犯がもう一人いた事を知り、皆の視線が工藤に集中した。視線を集めた工藤は白目を剥いた。

「では、戦犯会議を始める」

「待てぇぇええええ!? 確かに言い忘れたけど、俺一人に、責任を押し付けるな!」

 佐藤の無情な宣言を聞いて復活した工藤が叫ぶ。

「おっす、あの二人を送って来た、ぜ……」

 そこへ丁度運悪く、一人の男性将官が大量の缶コーヒーと共に戻って来た。

 ――要らない言葉と共に。

 男性将官の不要な発言が元で、新たにやって来た三人以外に、更なる絶望が襲い掛かった。室内なのに、地獄の底にいるような気分を味わう。助けを求めようにも、誰に助けを求めれば良いのか判断出来ない。少なくとも、星崎(子供)に助けを求めてはいけないのは確かだ。

 支部長と秘書官の大林の存在を忘れて、滅多な事ではツクヨミから離れない人物が、今ここにいる現実を見た男性将官は、絶望の余り、両手に持っていた缶コーヒーを床に落とした。床に落ちた缶コーヒーが派手な音を立てるも、眼前にやって来た松永(絶望)を前にした面々の耳には届かなかった。

 松永は何が起きたのか知る為に、努めて普段通りの笑顔を作り、男性将官に話し掛けた。

「おや? 『あの二人』とは、誰の事ですか?」

「何で、何で魔王が、ここに降臨するのぉおおおおっ!?」

 男性将官は恐怖の余り錯乱して、松永を指差して叫んだ。その叫びを聞いた面々は顔を引き攣らせて、『錯乱したいのはこっちだよ』と同時に思った。

「人を指差して魔王呼ばわりするよりも先に、質問に答えてはどうですか?」

 指差された松永が不愉快そうな顔をすると、筆舌に尽くしがたい恐怖を感じた男性将官はその場で迷わずに土下座した。経験上、このタイミングで階級を盾にして、松永に文句を言ってはいけない。

「違う、俺は何も関わっていない! 全部工藤が悪い!」

「何の自白ですか?」「どさくさに紛れて、何で俺のせいにするの!?」

 松永の問いは工藤の叫びに掻き消された。土下座をした男性将官が役に立たないと判断した松永は、佐藤に視線を向けた。視線を受けた佐藤は血相を変えて叫ぶ。

「あ、いや、その、星崎に聞けば分かる!」『ちょ、馬鹿!?』

 佐藤の叫びを聞いた、松永以外の殆どの面々が血相を変えた。佐久間と大林もトラブル発生と見て困惑する。

「ほぅ……」

 目を眇めた松永の声と共に、聞こえて来た吹雪の風音の幻聴で、全員で室内の温度が下がった錯覚を覚える。無関係な佐久間もビビる迫力だった。

「あー、星崎を呼びましょう。艦内にいるでしょうし」 

 本人から事情を聴くのが手っ取り早いと判断した大林が、通信機を操作した。

「さて、待ち時間の間に、何が起きたのか説明して貰いましょうか」

「うん。そうだな。状況がまったく見えん」

 松永の言葉を肯定した支部長を恨みがましく見てから、室内にいた面々はたどたどしい弁明を始めた。全員で床に正座して。

 階級の上下とか関係無い。今は『魔王状態の松永を落ち着かせる』事をしなくては、精神的に死ぬ。

 危機が去ったのに、やって来た予想外の危機に、絶望しながらも皆で乗り越える為に必死になった。

「口は禍の元ね」

 皆の必死な様子を見て呆れた大林は、床の上に転がっていた缶コーヒーを拾い集めてテーブルに並べていた。


 そして、星崎が戻って来るまでの『恐怖の時間』の内容について、誰も口外しなかった。

 けれども、松永がどれだけ『重い人間』なのかを理解した面々は『不要な発言をしない』と心から誓った。




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