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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
動き出す状況と月面基地 西暦3147年10月前半

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危機が去って~第三者視点~

 月面基地で日本支部が保有する区画内には、幹部専用の執務室が存在する。専用と言っても、幹部一同がここに集まって書類仕事をするだけの場所だ。月面基地にはミーティングルームが無い為、会議室が各部隊のミーティングルーム代わりに使用されている。その為、会議室に集まって仕事をする事は出来ない。また、幹部以外の人間に見られては困る書類などの取り扱いと管理場所が必要になり、ある程度の防犯装置と機密性を備えた部屋が必要になったから造られた部屋でもある。

 現在はそんな作られた経緯を忘れられ、『一人だけサボる人間が出ないか互いに監視し合い、協力し合う為の部屋』だと、日本支部幹部一同は認識している。

 月面基地に駐在する各支部が襲撃戦後の処理に追われている最中であるにも拘らず、室内にいる月面基地駐在の日本支部幹部達は他支部からの問い合わせの返答について頭を抱えていた。

 その内の二つ、『佐藤大佐の侮辱発言』と『ガーベラの出撃が遅かった理由』についての問い合わせは、片方は『挑発する事で士気を上げる為』だったと、発言者よりたどたどしい弁明が飛び出すも、これを採用した。もう片方は『支部長の指示』だった事も在りすぐに回答出来た。けれど、その他の問い合わせについては回答出来なかった。何しろ問い合わせの内容が、集まった幹部でも分からない事や支部長に聞かねば分からない事ばかりだったからだ。

 他支部からの問い合わせの回答について月面基地駐在幹部で話し合った結果、『ここにいる面々では回答不可能な為、支部長に聞いてから回答する』で落ち着いた。

 簡単に言えば、支部長である佐久間に丸投げしたも同然だった。けれども本当に、回答のしようがなかった。

 何故ガーベラが優先的に狙われたのか、ガーベラが持つ剣の正体と製造方法の開示を始めとした、幹部達も知らない事や支部長に回答しても良いか伺い立てねば回答出来ない問い合わせばかりだった。

 ガーベラが右手に持つ剣についてはここにいる幹部達も『敵から奪ったもの』だと知っているが、それが『知らない間に増えていたら』流石に回答のしようがない。こればかりはパイロット本人に聞かねば分からない。当の本人は支部長からの指示で現在精密検査を受けている最中なので、呼び出す事すら出来ない。出来るとしてもまだ先となる。

 回答可能な問い合わせには対応し、回答不可能な問い合わせは支部長に丸投げして、月面基地駐在日本支部幹部一同は襲撃戦後の処理を進めていた。

 各部隊から送られて来る報告書類がメールで届くので、直接受け取る必要性は無くなったが、その代わりに変わり映えの無いパソコンと長時間睨み合わねばならなくなった。しかも座りっぱなしなので、体の節々が凝り固まる。

 指先がキーボードを叩く音のみが響く沈黙の中で、誰かが音を立てて椅子から立ち上がれば、室内にいる全員の視線が突き刺さる。視線を受けたものは逃亡する訳でも無く、軽く伸びをしてから椅子に座り仕事に戻る。それを確認したら視線は消えると言う、互いに監視し合う実に不毛な事が行われていた。

 勿論、休憩は皆で一斉に取る。それが暗黙の了解なのだが、たまに忘れる人間がいる。

「糖分が欲しい。と言う訳で買って来る」

 室内にいる人間でその暗黙の了解を、大体何時も忘れるのは佐藤である。室内にいる面子の中で最年長だからか、階級に関係無く文句が言い難い。

「何がと言う訳なんだぁあああああっ!!」

 椅子から立ち上がった佐藤に向かって、額に青筋を浮かべた工藤が椅子を蹴り倒して立ち上がり吼える。

「い・い・か! 休憩は! み・ん・な・でっ、同時に、取るもんだと、何度言えば、理解すんのよぉおおおっ!?」

 工藤が机を叩いて抗議するも、佐藤には届かない。

 ……こんな時に飯島(飼い主)松永(魔王)がいれば、問答無用で佐藤を椅子に座らせてくれるのに。こう言う時に限って、どうしてあの二人はいないんだろう。

 そんな事を思った工藤以外の面々は肩を落として仕事を再開するも、内心では深くため息を吐いていた。

 その間も佐藤と工藤の攻防は続いている。

 終わりの見えない二人の攻防を誰が止めるか。視線で押し付け合っていると、割って入るかのように電子音が響いた。どこから鳴っているのか。皆で顔を見合わせていると、工藤が椅子に座り対応を始めた。

「おっ、星崎の精密検査が終わったぞ」

 パソコンの画面を見ていた工藤がそんな事を言った。内容が下級士官に関するものだっただけに、皆怪訝そうな顔をする。

「それって、こっちに報告する程の事か?」

「支部長が言い出した事だからじゃねぇの? 知らねぇけどよ」

『ああ……』 

 工藤が支部長の名を出して適当に回答した。適当な回答だったにも関わらず、皆それで納得した。皆が納得した理由はそれだけでは無い。

 いかに下級士官とは言え、星崎は日本支部にとって貴重な戦力となっている。同時に敵勢力に関する情報を保有している唯一の人物なので、色々と気に掛ける存在でもある。本音を言えば、星崎の身に何か起きると保護者(松永)との二者面談が待っている。浴びたく無い余計な火の粉から逃れる為に気にしたと言って良い。

 妙なところで自分本位の、皆の思いは一致した。

「星崎の精密検査の結果はどうだったんだ?」

「異常無しだ」

 男性将官の一人が工藤に精密検査結果を尋ねる。工藤は簡潔に答えた。

「マジで?」「流石に今回ばかりは、どこかに異常が出ると思ったんだが」「飛翔ブースター使ったら、何G掛かるんだっけ?」「三十近く掛かる筈だ」「……良く死ななかったな」「重力制御機を新式に入れ替えたから、負担が少し軽くなったんじゃねぇの?」

 真実を知らない面々は、口々に素直に驚いた。その隙に工藤は星崎に指示を出した。

「ツクヨミへ再出発するまでにまだ時間が掛かる。飯食って適当に休んでいろって伝えときゃいっか」

「おい、適当過ぎないか?」

「他に何か言う事があんのか? 例えば、『仕事を手伝いに来い』とかよ」

 先程とは違う別の男性将官が『適当過ぎる』と工藤を注意するも反論されて、何も言い返せなかった。

「確かに、言う事はねぇな」「松永の許可無く星崎に仕事を手伝わせた事がバレたら、不味い事になるぞ」「何時間、床に正座すれば許されるんだ?」「つーか、そんな事を言った事がバレたら、松永が月面基地(こっち)に乗り込んで来そうだな」

 男性将官陣は最後の意見に納得したのか、頷き合っている。しかし、その様子に疑問を覚えるものが出た。

「ずっと疑問だったんだけど、松永大佐って星崎に対して過保護過ぎない?」

 そんな事を言い出したのは草薙だった。何人かが同意するも、彼女の意見に同意するものは日本支部に在籍して十六年以上経過していないものばかりだ。逆に、十六年以上在籍しているもの達は一度顔を見合わせた。代表して、意外な事に佐藤が口を開いた。

「今から十六年前、松永と仲の良かった女パイロットが事故に見せかけて殺された、実に胸糞悪い事件が起きた。事を起こした女准将に大した処罰は下らなかったが、十年前の作戦で激戦区に送られて死んでいる」

『は?』

 十六年以上昔の、星崎と全く関係無さそうな事を佐藤が言い出した事で、謹聴していた面々(特に男性陣)は揃って首を傾げた。だが、勘の良い一部と女性陣は、話の繋がりに気づく。気づいた内の一人の草薙が代表して佐藤に問い掛ける。

「ねぇ、まさかだけど。その女性パイロットと星崎がそっくりって事は、流石に無いですよね?」

「困った事にそのまさかだ。俺も星崎と何回か会ってやっと思い出したぐらいだから、他の奴はそう簡単に思い出せないだろうな。ま、髪の長さが違うから気づき難いだろうな。松永だったら一目見て気づいている筈だ」

 佐藤の言葉を聞き、謹聴していた面々は何とも言えない顔になった。

 ある日突然、部下としてやって来た少女が殺された元カノそっくりだった。そんな娯楽小説のような事が実際に起きている。松永が困っているところを見た事は無いが、別の意味で扱いに困る人物が転がり込んで来ている事実にだけ、皆で同情し、ふと疑問が誰かの口から出る。

「あれ? 松永大佐は手元に来る前に、星崎の顔を写真で見なかったのか?」

「そう言えば支部長も、写真を我々にも見せなかったな」

「……支部長、絞られていそうだな」

 写真を見せ忘れると言う、初歩的なミスを犯した支部長への同情は無かった。けれども、佐藤から訂正が入る。

「いや、それは松永の自業自得だ。どう接するか直接会ってから決める方針らしく、松永は自分の下に来る奴の顔を事前に写真で確認しない」

『うん。自業自得だ』

 佐藤の訂正で支部長への疑いが晴れた。だが、別の事に気づいた女性将官の和田が声を上げる。

「ねぇ、さっき星崎に、適当に飯食って休めって、指示を出さなかった?」

「出したな。出したがな、星崎が基地内の食堂に一人で行くと思うか? 本人も『一人で食堂を利用出来なかった』って言っていたんだぞ。適当に持ち帰り用のパンを艦内で食べるだろ」

「確かに言っていたわね。でも星崎は良くも悪くも、こちらの想像を超える事を仕出かすのよ。知り合いに出会うか、誰かに似ている人物と間違えられて絡まれて弁明の為に一緒に食堂に行く。そんなパターンもあり得そうね」

「和田は想像力豊かだな。だがな、訓練学校の去年と一昨年の卒業生は、まだ月面基地駐在兵に選出されていない。だから知り合いと会う可能性は無い。もう片方は十何年も昔の事で、知っている奴の数自体が少ないだろ? それにな、仮に星崎が似ている事に気づいたとしても、『何で生きているんだ?』って、中尉階級の奴に話し掛けられると思うか?」

「そこまで考えると、確かに……」

 工藤の意見を聞き、和田は考えを改めた。だが一部は、他の懸念点を想像したのかなお言い募る。

「けどよ、何かが起きて知り合った奴と一緒に食堂へ行くパターンもあり得そうだな」

「あり得そうだけどな、星崎の見た目を考えろ。男が下手に話し掛けたら『ロリコン扱い』されるぞ。それに星崎は同年代の女と仲良く無かったって言っていたから、余程の事が無いと女も声を掛けないだろ」

『……ああ、確かに』

 工藤の意見の方が信憑性の在る仮説だったからか、皆納得の声を上げる。工藤は話の途切れ目を狙い、手を叩いて話題を切った。

「と言う訳で、星崎に関する話題はここまでだ! 仕事に戻れ。休憩はまだ先だから、佐藤も座れ!」

「ちっ」

「舌打ちするな!」

 工藤はどさくさに紛れて退出しようとした佐藤を捕まえ、椅子に座らせた。工藤が佐藤に舌打ちされるのは何時もの事なので気にしない。



 だが暫くして、『どうしてこの時に、もっと想像力を働かせなかったんだ』と、月面基地に支部長と共にやって来た松永を前に皆で心から後悔した。


個人的な報告になりますが、あと少しでストックが無くなります。

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