月面基地に迫る危機
松永大佐との通話を切り、スマホをパイロットスーツのウエストポーチに仕舞う。魔法で荷重を相殺していなかったら、通話に出られなかった。
「しかし、ターゲスが残っていたのか。解体された筈なのに、何で残っているんだ? セタリアに聞く事が増えたな」
望遠カメラ使い、敵機こと、ナスタチウムとキンレンカよりも細身のターゲスの姿を再度確認する。
松永大佐はターゲスの色を『オレンジゴールド』と称したが、厳密に言うとオレンジ色で合っている。光の反射でゴールドに見えるだけで、実際は少しくすんだオレンジ色だ。
シェフレラ石を地球の鉱石で例えると、サンストーンが近い。内包されているラメっぽい別の鉱石が光を反射する事でゴールドに見える。このラメが原因で加工が難しくなり、面倒な特殊な加工を必要する。
産出国のシェフレラ共和国が値を吊り上げていたところに、九十九パーセントそっくりで加工が簡単な合金が誕生してしまった事により、『宇宙で最も価値の無い鉱石』と評価されてしまった。一パーセントの違いはこのラメに在るんだけど、今ここで語る必要は無い。
ターゲスがかなり近づいて来た。いや、こっちから近づいているのか。ターゲスは重量こそアゲラタムの三分の二しかないが、操縦方法が特殊な為、あんまりかっ飛ばせない。デチューンした結果、ナスタチウムとキンレンカより『少し速い』程度の速度しか出ない。これは、合一化の弊害と言う訳ではない。単に合一化技術が完全では無いから起きる技術力不足だ。先史文明時代では、当たり前の技術として使われていたが、それは解除技術も完全だったから利用されていただけ。
合一化の技術は、体が弱い人向けの医療技術にも使用されているから、再現度は高い。逆に解除技術は必要とされる場面が少なかった事から、未だに不完全だ。
ガンダムシリーズの『モビルトレースシステム』みたいな感じにすれば良かったのに、何故合一化に拘ったのか。さっぱり分からん。
「うわっ」
こちらに気づいたターゲスがライフルを発砲した。移動しながらで、後ろを見ていないので明後日の方向に放たれた。でも、気づかれた事実は重い。
自動操縦を解除し、操縦桿を掴む。移動速度はターゲスよりも、飛翔ブースターを付けたガーベラの方が速い。彼我の距離が徐々に縮まって行く。
「さーてと、どうするか」
第一目標は『月面基地から遠ざける』事で、第二目標は『連れて戻る』事だ。月面基地までの道中で敵機撃破が最も望ましいんだけど、現在の移動速度では厳しい。やっぱり『押し出し』みたいな感じで、月面基地前を突っ走るのが良いかな? どうやるにしても、先ずは『捕獲』しないと始まらない。捕獲と言っても、剣で背中から腹部を貫いてそのまま飛ぶだけだ。
『ガーベラ! 応答しろ!』
通信機からいきなり怒声が日本語で響いた。ただ、通信が入るとは思っていなかったので驚きの余り声が出そうになった。
『俺だ、工藤だ! 通信室にいる! 応答しろ!』
一瞬誰かと思ったが、工藤中将だった。出ても問題の無い相手なので、通信機を操作して応答する。
「こちらガーベラ、工藤中将どうかしましたか?」
『支部長から連絡が来たんだよ! おんめぇは、何やってんの!?』
「止めた方が良いですか?」
『そう言う意味じゃねぇ!』
どう言う意味だよ。そんな言葉が出掛かった。てか、この人は何が言いたいんだろう?
『つーか、よく一人で来る気になったな!』
「佐藤大佐が飛翔ブースターを付ければ二十分で着くと仰り、それを聞いた艦長が移動時間を計算して同着になると仰いました」
『えっ!? ガーベラ用の飛翔ブースターを持って来てたの!?』
「はい。支部長が『実際に作戦に参加する事を想定した荷物を持って行け』と仰ったそうです」
『諸悪の根源は支部長か!!』
何故だろう? 頭を抱えて叫んでいる工藤中将の姿が浮かんだ。これ以上の無駄話をする時間は残っていないので単刀直入に質問する。
「ええと、工藤中将。敵機の押し出しとUターンのどちらが良いですか?」
『Uターンが望ましい。けど、その速度じゃ厳しいだろ』
流石にこちらの状況を理解していた。伊達に将官の一人じゃないんだね。
「押し出しで良いですか?」
『ん~、オレンジがどう動くか分からんし、飛翔ブースターの燃料の残りを考えると、……押し出しだな』
工藤中将の意見を聞き、飛翔ブースターの燃料の残量を忘れていた事に気づいた。
燃料ゲージを見ると、確かに残りは少ない。使い捨てらしいが、加減速出来ると聞いていたから残量調整出来るだろうと、無意識に思っていたのかもしれない。そもそも、存在自体知らなかったんだよね。教科書は何度か全部読んだけど、書いてなかった。演習か授業で知らされる予定だったのかな?
『とりあえず、お前は敵機を月面基地から引き離す事だけを考えろ。飛翔ブースターの燃料が尽きたら戦闘に移行しろ。手助け出来るかは分からん。他支部にはこっちから連絡を入れる。頼んだぜ』
やや早口で指示を飛ばし、最後に一言言ってから工藤中将は通信を切った。通信機を操作して、自分も通信を切る。
「さて、押し出し、押し出し」
やる事を口に出して、己に言い聞かせる。押し出しの方法に指定は無かったから、予定通りで良いだろう。と言うか、正面から行ったら危険だ。確か、バルカンの類は持っていなかった筈。装備は大型に改造した銃槍ライフル(アゲラタムのオプション武装を改造したもの)と暗器のように使う収納式の短剣のみ。
中途半端な合一化をするからか、内蔵式の武装の類を装備する事は出来なかったらしい。
解除技術を確立させてから挑戦すれば良かったのに、どうして先走った事をやったんだか。自ら止めを刺しに行くってどうよ? 商売下手が馬鹿やって自滅した国だから、同情はしない。
恨むのなら、あの時ルピナス帝国で建材が高騰していた事を恨め。と言うか、完全に間が悪かったな。
開発者の自分も『偶然開発した合金がシェフレラ石の代用品になる』とは思わなかったぞ。
余計な事を思い出していたら、ターゲスとの距離がかなり短くなっていた。牽制にもなっていない威嚇攻撃が飛んで来るけど、狙いは適当の一言に尽き、明後日の方向に飛んでいる。
ガーベラの左手に装備した剣で刺突の構えを取る。後ろにぴったりと張り付いてから、距離を縮めて、背後から突き刺した。
『ギィァアアアアアッ!?』
剣で貫いた直後、ルピン語の絶叫が通信機から漏れた。すっかり忘れていたが、合一化しているから、機体が受けた損傷が痛みとしてパイロットにフィードバックされるんだっけか? 詳しくは知らん。
疑問はさておき、このまま少しずつ直進軌道を変える。ターゲスの向こうに見える月の、右と左どっちにすればいいんだ? 聞き忘れたけど、燃料の残りが少ないからどっちを選んでも大して引き離せないな。
月と地球の位置を思い出そうとしたが、逆にどっちか分からなくなった。勘で左にした。とりあえず月の外側を選べば良いだろう。
機体に負荷が掛からないように軌道をゆっくりとずらして、自分から見て左に向かう。月と地球の間、月の向こう側、このどちらを選ぼうが、月面基地から引き離す事を優先しよう。間違っていたら通信が入るだろう。
ターゲスが剣を引き抜こうと藻掻いている。今になって気づいたんだが、どうして通信機経由で悲鳴が聞こえて来たんだ? 周波数を合わせた覚えは無い。
『クソ、こんなところで、死ねない。血清が無くても、俺達キルシウムは……』
ルピン語の独り言が聞こえて来る。しっかし、馬鹿な寝言をほざいているな。血清が無ければ変調期を乗り越えられない身の上で、よくこんな事が言えるものだ。
お前の先祖は、血清を求めてルピナス帝国の帝国民になる事を選んだんだぞ、と言ってやりたい。我慢したけど。
ターゲスが藻掻いている間も、軌道は徐々に月面基地から遠ざかるコースに入った。このまま行きたいけど、燃料も残り僅かだ。
どこまで行けるかと思いきや、接敵を知らせる警報音が鳴った。
「え? 反応……、左!?」
ギョッとして左を見ると、そこには大型ライフルを携えた一機のターゲスがいた。大型ライフルの銃口が光る。
得体のしれないヤバさを感じて、大慌てで飛翔ブースターの手動パージを試す。けれど燃料は残り僅かで、数秒後に使い切り、飛翔ブースターは勝手にパージされた。大至急ガーベラのバーニアを吹かし、正面のターゲスの背中を踏み台にして上に向かって飛び、ついでに蹴り飛ばす勢いを利用して剣を引き抜く。
中々にアクロバティックな操縦だ。機体に負荷を掛けてしまったけど、ギリギリ大型ライフルから放たれた閃光の回避に成功した。この攻撃は地球で言うところの、陽粒子砲とはまた違う種類のエネルギー砲弾に該当する。ターゲスに関する情報に限りうろ覚えだが、あれは高い貫通力を誇るレーザー系だった筈。
今になってそんな事を思い出している余裕は無い。戦闘中だし。
蹴り飛ばした方のターゲスが突撃して来た。何の捻りも無い、右上腕部に内蔵されている短剣を突き出した状態で行う突撃。バーニアを全開にしても、ナスタチウムとキンレンカより少し速い程度の速度しか出せないターゲスでは、ガーベラを捉える事は出来ない。
ここで一機撃墜してしまおう。二対一の不利な状況は作らないに限る。
そう判断してガーベラを操縦する。右肩の剣を抜いて、こちらからも突撃する。ガーベラの剣の長さは、ターゲスの短剣の三倍の長さを誇る。突撃して先に剣先が届くのは、ガーベラとなる。仮に向こうが回避を選択しても、移動速度もガーベラの方が速い。
ターゲスがガーベラよりも勝っているものは何か。そんな事を聞かれたら、絶対、回答に困る。ターゲスみたいな機体は、例え武装が少なくても、熟練のパイロットが乗ったら脅威の一言に尽きるが、逆に素人が乗ったら思ったようには動かせないだろう。装備からして『暗殺向け』かと疑われる機体だけど、そもそもターゲスは、ベテランが乗る事を前提にした格闘戦主体の機体だ。
実際に造ったら予定とは違う代物が出来上がった失敗作でもあり、ぶっちゃけると、元のアゲラタムの方が高性能だ。魔改造の失敗例としか言えん。
対してガーベラはパイロットの安全を無視した設計だけど、その分ターゲスよりも高性能だ。何より手にしている剣はディフェンバキア王国で作られた逸品である。
その判断は間違っていなかった事を証明するように、右の剣はターゲスの剣ごと右肩を切り落とた。ターゲスの脇を抜けてすぐに反転する。通信機経由で聞こえる絶叫を無視して、背後に回り込み縦に切り裂く。横ではなく、縦に切り裂いたのは、単純にコックピットの位置を覚えていなかっただけだ。
縦に中央を切れば外さないだろうと、爆散する様子を見ながら思った。脱出装置が搭載出来ない機体でもある。
安直な考えだが、救援が無い状況下での戦闘だ。不利な状況を作らず、確実に撃墜するしかない。増援は一回あったけど、二度目の増援は無いとは言い切れない。
一機撃墜したら、残っているもう一機を墜としに掛かる。大型ライフルによる攻撃が来るが、射撃は苦手なのか、それとも素人が乗っているのか。動きは遅く、狙いは甘く掠りもしない。近づく事も無く、ガーベラの陽粒子砲で撃墜出来てしまった。
二機も撃墜したが、ターゲスの生産数は六機と聞いている。セタリアの手紙には『シェフレラ共和国は解体した』と書いて在ったが、増産された可能性は残っている。
細心の注意を払って周囲の探索を続けるが、集中力を削ぐように通信機から工藤中将の歓喜の声が漏れ響く。耳障りに感じるが、月面基地にいた人間としては、目の前の危機が去った事を素直に喜んでいるだけだ。皆で危機が去った事に抱き合って喜んでいる姿が目に浮かぶ。そこへ水を差しては、野暮と言われるだろう。
気が抜けて、帰還の為に操縦桿を握り直したところで、ふと、二機目のターゲスが『どうやって隠れていたのか』判明していない事に気づく。ついでに掛けたままの、重力軽減の魔法も解除する。
攻撃に移ると解除されるステルス機能。ターゲスについて知っている事は少ないが、向こうの宇宙では人型戦闘機に『ステルス系の機能を搭載する』事自体が、戦争に関する条約で禁止されている。向こうのステルスは『鏡面反射』と『光学迷彩』の二種類が存在し、鏡面反射は『周囲の色を反射して紛れ込む』ようなものだ。宇宙空間以外では使い道が無さそうな代物だけど、光学迷彩と使い分けられている。
宇宙一つ敵に回す条約違反をしている馬鹿の集まりが、この条約について今になって気にするとは思えない。
久しく使っていないが、千里眼と透視を併用して周囲を探す。
『おい、ガーベラ。工藤だ。何時までもウロウロしてねぇで、そろそろ帰還しろ』
「済みませんが、敵機はステルス機能を用いて隠れていた可能性が有ります。もう少し調べてから帰還します」
『あぁ、それか。今こっちでも調べているが見つかっていない。見つけられていないだけかもしれないがな』
「熱源探知と、エコーロケーションのような調査方法と、通信の周波数が合っているみたいなので、周波数の探知などは出来ますか?」
『お前は本当に物知りだな! 大至急その方法での調査を行うが、もう少し基地寄りの位置に戻れ。そんだけ離れていると、支援のやりようが無い』
支援のやりようが無いと言われて、そう言えばそこそこ離れたところに単身でいる事を思い出した。確かに戻った方が良さそうだ。
「分かりました。帰還します」
『おう、早急に戻れ。敵影が見つからなかったら、そのまま精密検査を受けろ。支部長からの命令だからな。敵機の残骸はこっちで回収するから気にするな』
何故と思ったが、出撃時に魔法で荷重を相殺しなくてはならない程の負荷を受けていた。確かにあの荷重を受けたから、検査は受けるしかないか。
工藤中将との通信を終え、千里眼と透視も止めて、念の為に魔法による未来視で十分先までの異常の有無を確認する。
異常は無い。考え過ぎでは無いと思いたいが、一先ず月面基地に戻ろう。
バーニアを吹かし、ガーベラを月面基地に向けて移動させた。
移動中もあれこれと考えたけど、答えは出なかった。
十分が経過しても異常は起きず、結局、戦闘終了から二十分近くが経過した頃に、自分は月面基地に辿り着いた。工藤中将からの指示で一度補給を受ける事になり、メインモニターに表示されるガイド表示を頼りに、搭乗したまま格納庫へ移動する。
その間も、ターゲスについて色々と考える。
遅れてもう一機現れたのは何故か? そしてどこに隠れていたのか? ステルス機能を持った戦艦に乗っていたのか?
確かに向こうの宇宙にも戦艦は存在するけど、ターゲス並みの大きさの戦闘機が運べるような戦艦を保有するには条約に則り、繁雑な手続きをしなくてはならない。
犯罪組織もアゲラタムを始めとした戦闘機を保有しているけど、大体『拠点防衛にだけ』使っている。それ以外は見ていない。そして、戦艦も所有していない。
向こうの宇宙には、『転移門』と呼ばれるSF系によく登場するワープ装置が存在し、犯罪組織は主にこちらを使用する。この転移門をどこまで小型化出来るかで激しい国際競争が起きていたが、地球には関係無いので割愛する。
この転移門と言う名のワープ装置が存在する為、向こうでは国家間で戦争が起きない限り戦艦は登場しない。それに戦争は、殆ど惑星内でしか起きないので、宇宙空間での戦闘も殆ど行われない。惑星国家よりも上の版図を誇る国では、戦争はコスト面を考えて忌避される傾向なのだ。
向こうのワープ装置は『移動式』が主流なので、どうやって敵の目を掻い潜って設置するかが勝負なのだ。そしてこの転移門には、旧式と新式の二種が存在する。
旧式は『高い技術を必要としない代わりにコストが高く、大型しか建造出来ない』点が有る。
新式は『高い技術を必要する代わりにコストが低く、小型から大型まで建造可能』と言う点が存在する。
双方共に良し悪しは有るが、コストの低さから新式が好まれている。
向こうの宇宙の戦争事情まで思い出したところで、そろそろ佐藤大佐達が到着する頃だと思い出す。格納庫へ入る前に何となく背後を見る。
黒一色の空間が広がるだけで何も無い――筈だった。
奇妙な胸騒ぎがしたので、再び飛び立つ。通信機から工藤中将の声が漏れるが無視して、再び千里眼と透視を併用して注意深く観察する。
「…………そこか」
奇妙な動く影を見つけた。しかも、複数機存在する。
『おいっ! いい加減返事をしろ! 幾ら何でも、返事をくれないと泣くぞ!』
「泣きたければどうぞ。そんな事よりも、隠れている敵機を見つけました」
『え゛っ!?』
工藤中将の叫び文句に返してから、剣を持ち換えてから陽粒子砲のチャージを始めて構える。威嚇だから十パーセントで良いかな?
「炙り出します」
『ちょっ、待てっ、マジでいんの!? 心の準備をする時間、ないの!?』
ギョッとした工藤中将の叫びを再度無視する。心の準備をしていたら危機が訪れると思う。
動きを読んでから、陽粒子砲を放つ。閃光が真っ直ぐに伸びて、見えない何かに弾かれて散った。同時に、先程撃墜したオレンジ色の機体こと、ターゲスが姿を現した。その総数は、二個小隊分だ。
『本当にいたぁああああっ!?』
工藤中将の絶叫から一拍間を置いて、月面基地の警報音が鳴り響いた。
その二つを聞きながら、自分は顔を引き攣らせていた。
……おい。最終生産数と数が合わないぞ。二機撃墜したら、追加で六機出現するって事は、一体何機が増産されたんだ?
ターゲスの増産と言う、嫌な事実が発覚した。
いかにターゲスがパイロットに合わせてデチューンされているとは言え、基本的な機体性能はナスタチウムとキンレンカよりも上だ。それに、陽粒子砲を防いだ点を考えると、先の二機よりも熟練者が乗っているだろう。
自分の予想を裏付けるように、六機のターゲスは『く』の字のような隊列を組んで行動を始めた。記憶が確かなら、あれは突撃の隊列だった筈。
『ガーベラ、戻れ! 燃料補給だけでも受けろ!』
操縦桿を握る手に力を入れたところで、工藤中将からそんな指示が飛び、思わず眉間に皺を寄せる。
「工藤中将、ですが」
『でもも何もねぇ! 戦闘中に燃料が尽きたらどうする気だ! 一回戻れ』
工藤中将から指摘を受けて、残りの燃料を確認する。戦闘後に二十分近くも移動した結果、燃料は残り半分となっていた。確かに、連戦したらちょっと怪しいな。
「分かりました。一度帰還します」
『大至急そうしろ! あとな、補給を受ける時間ぐらいは在るんだぞ! 忘れんな!!』
返答しながら踵を返して格納庫へ急ぎ、その途中で『補給を受ける時間ぐらいは在る』と言う言葉に苦笑する。これは多分、自分の初実戦の事を言っているのだろう。あの時は戦闘終了後に燃料切れとなった。思い返すと、戦闘中に燃料切れとならなかったのが不思議だった。
格納庫の入り口へ移動し定位置に着くと機体が固定されて運ばれる。格納庫へ到着するなり補給が始まった。その少し前、入れ替わりで出撃して行くナスタチウムとキンレンカを見送った。その総数は少ない。七割方が既に出撃している状況下での戦闘だから、どうしようもない。補給が終わり次第出撃するしか出来る事はない。
『燃料補給完了まで残り十分』
アナウンスが流れ、その内容に思わず眉を顰める。思ってた以上に時間が掛かる模様。戦闘中に補給を受けた経験が無いから、長いのか短いのは判断出来ない。いざとなったら、途中でも出撃するしかないな。
祈るような気分で長い十分をコックピット内で待った。




