永遠の秘密
大家先生が逮捕され、文化祭が終わってから一ヶ月が経過した。初めの三日間こそ、学校にマスコミが殺到して大変なことになっていたけれど、次第にマスコミの人たちは新しく起きた爆破事件に関心が向き始め、この間までの喧騒が幻だったかのように、学校に平和が訪れている。
生徒たちも、始めこそ緊迫した空気が漂っていたけど、文化祭の片付けが済んでいくのと同じくして代理の担任の先生が立てられ、事件について話をする人は減っていった。
「はーあ、ごはんごはん……」
食堂の座席につくと、真木くんはシチューの置かれたトレーを置いてぐったりと突っ伏した。私は彼の隣に煮魚定食を置いて席につくと、手を合わせる。
「いただきます」
「いただーき、ます……」
真木くんもおぼつかない手つきで手を合わせてから、シチューを食べはじめた。学食の奥、一際人だかりがある方向には、沖田くんがバスケ部の面々を引き連れながら、楽しそうに食事をしている。その黄色とも白とも言えない、ミルクティーカラーの金髪は光を受けキラキラ輝き、人目を惹いていた。
沖田くんは、文化祭明け、髪の毛を金髪に染めてきた。本人曰く、元々やってみたかったらしい。お兄さんを見て、いいなと思っていたとも言っていた。幸い校則に染髪の規定はなく、違反していないけれど、どちらかといえばダークカラーの髪色が多い天津ヶ丘生の中では、金髪はよく目立った。しばらくの間はわざわざ見に来たりする生徒もいたけど、今はだいぶ落ち着いている。そして、金髪の沖田くんは女子生徒の人気がドッと出たようだ。ファンクラブも出来て、バスケ部は入部希望のマネージャーが殺到しているらしい。
そして沖田くんの反対方向では、吉沢さんと和田さんが一緒にラーメンを食べていた。吉沢さんはネギを和田さんの丼にせっせと移し、和田さんは刻み海苔を吉沢さんの丼に移しているように見える。ちょこちょこ雑談を交えながらお互いのラーメンを自分好みに変えていく二人とは、文化祭が終わっても話をするようになった。てっきり文化祭が終わったら話せなくなってしまうのかと、おそるおそる声をかけたら、体育の着替えを一緒に行ったり、授業の合間に話をしたり、交流が増えた。
始めこそ、くじ引きで外れてしまった……と思った文化祭だけれど、文化祭をきっかけに話をしたことのない子と話せるようになったし、友達も出来た。
「あ、そういえば真木くん」
「なあに」
「夏に、真木くん吉沢さんになんて言ったの? 何か、私のことで質問されたって聞いたけど……」
沖田くんの様子だと、たぶん真木くんは何かとんでもないことを言ったような気がしてならない。少し時間は過ぎてしまったけれど、あまりにもとんでもないのなら、謝っておいたほうが良いだろう。しかし真木くんは「あー……」と空を仰いで、首をこてんと傾げた。
「覚えてないや……」
「ええ、真木くん変なこと言ってないよね?」
「わかんない……」
「わかんないって駄目だよ!」
「じゃあ……ないしょ」
真木くんは、うっそりと笑う。その様子がなんだかいつも子供っぽい彼らしくなくて、でもやっぱり彼らしいと感じて、私は脱力したのだった。




