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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第三章 紅の残虐姫
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82話 朝の教室

 たとえ同じ場所、同じ風景といえども時間帯によってその風景には違いがある。

 それは普段は生徒の喧騒、青春の悲喜交々が飛び交う教室もまた同じのようだ。


「流石にこんだけ早いとねむいな……ふわあぁ」


 欠伸を噛み殺しながら目をこする。

 普段真面目な訳でもなんでもない自分のような生徒にはこんな静かな教室は余計慣れない。


「そこんところ行くと委員長は流石だよな」


「流石ですか?」


「ああ、いつもきちんとしてるし早起きのプロって感じだ」


 早朝に起きられるだけでも尊敬に値するというのに、その立ち振る舞いは清々楚々としていて気怠さや憂鬱さを感じさせなかった。

 突然振られた話題にきょとんとする委員長だったが、合点がいったように頷く。


「子供の頃から習い事の関係で朝が早かったんです、でも朝が早いか遅いかなんて単純に体質とか習慣の問題だと思いますよ?」


 黒板消しを専用のクリーナーに当てながら委員長はそう答える。

 ぶぉーんという間の抜けた機械音を奏でながら黒板消しについたチョーク粉を取り払っていく。


「神無君もこれを機に早起きしてみますか? 朝の空気は新鮮で美味しいし、健康にも良いらしいですし」


「あー、誘ってくれて嬉しいけど俺には無理だわ。見たい深夜番組もいっぱいあるしな」


 他にもゲームやらアニメやらと深夜は誘惑がとても多いのである。

 健全な男子高校生たるもの12時よりも前に就寝するなど病気以外では考えられない。


「委員長は習い事とか何してたんだ?」


「茶道に生花、他には日本舞踊などもやってましたよ」


「おお、なんか良家のお嬢様って感じだな!?」


 清楚で礼儀正しい雰囲気の委員長がやればさぞ絵になる光景に違いない。


「いえいえ、それほど大層なものじゃないんですよ。親に言われてやってるだけで思い入れもないですし、自分の好きなことを思いっきりやってる人のことすごいなあって思います」


「分かる気がするなー、俺も自分にはこれしかないんだ!ってものはないし、とりあえず興味を持てそうなものを手当たり次第って感じだ」


 興味というものが持続しないのか何か一つを決めてやり切るということが全然できたことがない。

 だが、それを悪いと思ったことはない。

 好きな時に好きなことをやる。

 こういう生き方が自分には合っていると思うからだ。 

 

「でも、何か神無君らしいですよね」


「ん?そうか?」


「なんというか糸の切れた凧見たいなところが」


「お、委員長も言うねえ」


「ご、ごめんなさい私ったら……失礼なことを言ってしまって」


「違う違う、友達なんだからよ。これぐらい気さくな方がいいって」


「……えっ?と、友達ですか?」


 俺がそう言うと委員長は一瞬何を言われたかわからないような顔をした。


「あ、悪い。もしかしてなれなれしかったか?」


「そんなことあらへん!またそんな風に言ってもらえるやなんてウチ思っておらんくて」


 突然聴き慣れない話し方をする委員長にも驚いたが、俺にそれを聞き出す余裕はなかった。


「あー、えっと……大丈夫か?」


 委員長が大粒の涙をこぼしながら泣いていたからだ。

 何か気に触るようなことを言ってしまったのだろうか?

 しかし心当たりなど俺には何もない。

 どうしたらいいのかと狼狽していたその時だった。

 ガラガラと扉が音を立てて開かれて一人の少女が現れる。

 血のように真っ赤な髪を二房に分け、その愛くるしい外見に似合わない獣のように獰猛な瞳が獲物でも見るかのようだ。


「なんだなんだ朝っぱらかイジメか? 弱い者虐めは大歓迎!この世は所詮弱肉強食!さぁ、俺様も混ぜろ!!強いのも弱いのも纏めて俺様がペロリといただくぜ?」


 プリンセスのはずなのに何故か転入生として俺のクラスにやってきた少女。

 メチア・ブラッディー・スカーレットという存在が入ってきた、ただそれだけのはずなのに静謐な教室の空気が少し血生臭くなったような気がした。

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