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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第三章 紅の残虐姫
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81話 そこに居たのは?

 仲のいい女子と並んで一緒に学校へと登校する。

 そんな場面を健全な男子高校生ならば一度は空想したことがあるだろう。

 これまで女っ気のない人生を送ってきた俺が今まさにそんな場面を体験している。

 学園まで通う歩き慣れた道、いつもと同じ風景なのに普段とは違う緊張感がそこにはあった。


「ふふっ、なんかドキドキしますね? 2人きりで登校だなんて」


「ん? ああ、そうだな」


 昔からあまり交友関係が広い方じゃない。

 特に友達といえば同性の小太郎くらいで男子はともかく同い年の女子と通学路を共にするようなイベントは発生したことはなかったので妙な居心地の悪さを感じてしまう。


(やべえ、なんかちょっと緊張してきた)


 昨日はナニィ達が一緒に居たから気にならなかったが、二人きりになるとどうしても意識してしまう。

 しかし委員長の方はそうでもないのかくすくすと楽しそうに笑いながらはきつい坂道すら何ともないように登っていく。


「なんだか恋人同士みたいだなんて………ってこんなこと言ったら神無くんの彼女に失礼かな?」


「いやいや彼女なんていねえよ、出来たこともねえし」


 恋人いない歴=年齢の身としては悲しいことだが、そもそも恋人どころか女友達すら碌にいないのだ。


「そ、そうなんですか? ちょっと意外かもです。神無くんは活動的ですし、そういうのも体験済みなのかなって………他に好きな子とか気になる子とかはいないんですか?」


「うーん、居たような気はするんだが………諸事情あってよく覚えていないというか」


 試練関連の話をする訳にはいかないのでその辺はぼかすのだが居たのに覚えていないというのは自分でも苦しい言い訳だと思った。


「くすくす、なんですかそれ? でも確かにこういうのってちょっと気恥ずかしかったりしますよね」


「いや、隠してるとか本当にそういうのじゃなくてだな」


 とはいえ下手にはぐらかすとそんな風に見えてしまうのも仕方ないかもしれないと思い、否定するより話題を変えることにした。

 

「そういえば委員長はなんでこんなに朝早いんだ? 部活の朝練とかか?」


 ナニィと歩いている場面を人に見られたくなかったために早めに家を出たので特に理由がないならこんな時間に出るはずもないのだが……


「私は部活には所属していませんよ? 今日は日直なのでいつもより早いんです」


 星見ヶ原学園では日直は持ちまわりだ。

 普通の奴は休み時間に精々黒板消しだけやっているのだが、一部の真面目な生徒はチョークやらの消耗品があるかも確認したりするらしい。

 委員長らしく真面目なのだろうと思い、相槌を打ちながら隣を歩く。


「へえー、すごいな。俺は面倒だからそこまでは出来ないな」


「私なんて全然すごくないですよ、ただこう見えて一応委員長ですからやってるだけなんです」


「いやいやそういうところがすごいんだって、もしも逆の立場だったら俺は絶対しないしな」


 器用な奴ならそこから会話を広げていくのだろうがいかんせんそんな対人スキルは俺にはない。


「ここからは本当に遠くまで景色が見えますね……」


 所在なさげに頭をボリボリ掻いていると委員長がそう呟いた。

 その黒く澄んだ瞳は遠く市外の森の方角を見つめていた。


「神無くんはこんな話聞いたことありますか? あの森の奥深くには幽霊屋敷があるそうなんですよ?」


「ん?幽霊なんていなかったぞ。あそこに居たのは……」


 居たのは? すらっと自分の口から出た言葉に違和感を覚える。

 着物を来た人影が頭の中でゆらゆらと揺れるが、その幻影は像を結ぶことなく頭の中で溶けて消えていった。


「何か、心当たりがありますか?」


「……いやそういう訳じゃないんだ。なんか聞き覚えがあるような話だったからな」


「そうですか、ふふっ、まあ幽霊なんて居る訳ありませんしね。きっと何かを幽霊と取り間違えたのでしょう」


 委員長はそういって坂道に転がっている小石を蹴り飛ばす。

 ころころと転がってついには坂道から落ちて見えなくなってしまった。


「……」


 崖下へと落下していく小石を見送りながら委員長の妙にやさぐれた様子に、何か気に触ることを言ってしまったのかと不安になる。


(あれ? もしかして俺なんか気に触ること言ったかな?)


「神無くん?」


 内心で冷や汗を流していると委員長が不思議そうに見ていた。


「どうかしたんですか?」


 その誰かを思いやる姿勢には不機嫌な様子など見受けられない。

 

「お、おう? いや、何でもねえよ。ちょっとぼーっとしてたみたいだ、朝早かったからなあ」


「ふふっ、そうですよね。まだまだ早朝ですから寝ぼけてしまうのも無理ないかもです、でもメチアさんが転入してきましたし恥ずかしいところをお見せしないようにがんばらないとですね!」


「……ああ、ほんと頑張らないとな、胃が痛えよ」


 委員長の張り切る姿に俺は苦笑いするしかなかった。

 果たして俺は今日も無事に日常を過ごすことができるのだろうか?











挿絵(By みてみん)


暑中見舞いで描いた水着ナニィです。

気づいたらもう10月だったよ……

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