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プリンセスセレクション  作者: 笑顔一番
第三章 紅の残虐姫
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72話 レッツ福引

「んー、今日は良い天気ですねー」


 穏やかな気持ちで外を散歩する。

 こちらに来てからというもの外出の機会が増えているがこんなにのんびりした気持ちで出歩くのは初めてだ。

 普段はどこに敵が潜んでいるのか分からないので心の何処かで警戒しているが今は予選が終了しての準備期間のため、敵に狙われる心配をする必要はないのだった。


「ムクロさんは学校ってとこに行っちゃいましたし、今は予選が終わってプリンセスも攻撃してきません。今なら安全にエミィ姉さま達を探すことが出来ます……けど」


 こちらの世界に来ているはずの二人の姉妹に思いを馳せる。

 自分がこの世界に来た理由はあくまでも二人のサポート。

 成り行きで色んなことに巻き込まれはしたが、それは変わることのないことだ。

 二人に会って、ムクロさんの中にある宝珠を取り出してあげられればもうムクロさんが危ない目に会うこともないし、使い方は知らないけれど、宝珠は仮にもワロテリアの家宝……姉妹の戦力増強に繋がるはず。

 そうしたら私もお払い箱、元の世界に戻ってそれから……それから?


「姉さまもネミィちゃんもいない世界で、私はどうすればいいんだろ?」


 プリンセスセレクションはしばらく続く、エミィ姉さまやネミィちゃんが早々に負けるなんてことはまずない。

 そうなると味方が誰もいない王城で二人が戻ってくるのをじっとして待ち続けるしかない。

 そんなことはこの試練が始まる前からずっと分かっていたことのはずだ。


「こっちの世界に来てから……楽しかったなあ」


 いきなり赤髪の少女に襲われたこと、病院でのジャウィンとの邂逅、離島でのヘカテアと戦って初めて誰かに勝ったこと。

 色んな厄介ごとに巻き込まれたが、この世界で過ごした日々は元の世界に居た場所では得ることができないものだった。

 知らないことだらけだったけれど私の隣にはいつも……ムクロさんが居てくれた。

 心細くて不安な気持ちだって一緒にいると不思議と薄れていく。

 そんなムクロさんとも姉妹と会ったらお別れしなきゃならない。

 それは何故だか、とても寂しい気がする。


「あははっ、私ってば変ですよ。あんなに二人に会いたかったはずなのに、今は会いたくないと思ってるなんて」


 こんなの絶対に変だ。大好きな二人に会いたくないなんて絶対に変だ。


「まあ二人に会う方法なんてないんですけどねー」


 そんな変な自分を認めたくないから言い訳して誤魔化す。

 現実として二人を探すような方法を自分は持ち合わせていないし、見つけ出してくれることを待つしかない。

 それにこっちの世界は大分広い、何の手がかりもなしに誰か一人を見つけ出すのは容易なことではない。

 あの姉妹達も自分を見つけ出すまでには恐らく長い時間がかかるはず。


「だから、二人が来るまでの間だけ……ほんのちょっとだけ、私も……」


 離島でのヘカテアさんとの戦いで、初めて経験した勝利のせいか浮き足立っているのかもしれない。

 でも今は、自分にだってきっと出来るってこの気持ちに従っていたい。


「そうと決まれば、必要なものを揃えないといけないですからね 」


 今までは戦いに生き残るのに必死であまり準備できていなかった着替えなどの生活必需品をこの機会に揃えておくつもりだった。


「ムクロさんから借りたお金、どうやって返そうかなー?」


 ただでさえ試練に巻き込んでしまって申し訳ないというのに、援助まで受けてしまっている。

 誇り高きワロテリアのプリンセスたるもの、ただで施しを受ける訳にはいかない。


「やっぱりこの身体でお支払いするしかありませんね!」


 仮にもプリンセスとしか教育を受けてきた身だ。

 多少のお手伝いなら出来ることがあるはずだ。


「そ、それとも別の意味で身体を要求されるなんてことは? い、いけません! プリンセスは成人するまで純潔を守らないといけないんです!」


 自分とて年頃の娘、そういうことに興味がない訳ではない。

 頭の中で強引に迫ってくるところを想像し、頬を染めながら腰をくねらせる。


「ってムクロさんに限ってそんなことありえないかー」


 こっちに来てから居候させてもらい寝食を共にしたが、手を出してくる気配はない。

 今朝だって寝惚けて布団に潜り込んでしまっていたようだが、身体に異常は見受けられなかった。


「異性として認識されてないんですかねー? それはそれでなんか悔しいというかなんというか」


 コンプレックスでもある膨らみすぎた自身の胸に手を当てる。

 背丈は伸びないのに、反比例してすくすく育ったそれを軽く持ち上げてみる。

 ネミィちゃんは喜んで揉んでたけど、ムクロさんはあまり興味がないんだろうか?


「そういえば最近また大きくなったような気がするんですよね」


 いったいこの膨らみはどれだけ重荷になってくれるつもりなんだろうか?

 服などはムクロさんのお母様の物を拝借させてもらっているが、下着は流石に人様の物を借りるわけにもいかない。


「とりあえず下着から買いに行こうかな?」


 これから必要になるものを頭に思い浮かべながら、私は町へ買い物へと繰り出した。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「ふぅー、随分と時間かかっちゃったなー」


 それから数時間後、各種必要なものを買い集めて戻ってきていた。

 流石に見知らぬ町での買い物はどこに何があるのかわからないので時間がかかる。


「近くの町も見て回れたし、そろそろ帰ろうかな?」


 ムクロさんも昼には戻るって言ってたし、荷物を持ちながら歩くのもしんどいので一度家に戻ったほうが良さそうだった。

 そうして来た道を引き返し、居候させてもらっているムクロさんの家へと向かう。

 その道中でガラガラと何かを回しているような音が聞こえて来た。

 何だろうと思ってみると『福引き抽選会』と書かれたテントで主婦が木箱のような物を回していた。


「あちゃー、残念はずれのティッシュね」


「あら残念、せめてお米が欲しかったわー」


 木箱から吐き出された白玉を見て、店員さんがポケットティッシュを手渡しているところだった。


「そういえば私ももらってたよね? 福引券ってやつ」


 ごそごそと買い物袋からもらった福引券を一枚取り出す。

 それはこの商店街で買い物した際に手渡されたものだった。 

 当たれば何がもらえるのだろうかと景品の一覧を見ると、5等賞にお米一袋と書かれていた。


(お米があればムクロさんも助かるよね?)


 それにお米はハズレを除けば1番低い等級、当たっても全然不思議じゃない。

 脳内でお米をもらって喜ぶムクロさんの姿が再生された。

 このまま福引券を大事に抱えていてもしょうがないし、折角だから使うことにする。


「すみません! 私も一回お願いします!!」


「はい、あれ? 外人さんですか? 使い方わかりますかね、この取っ手を持って回してくださいね」


「これを、回せばいいんですね?」


 店員さんに福引券を手渡して、木箱からでている取っ手を掴んで見よう見真似で回す。


(お米お米お米お米ぇえええええ!!)


 念を込めながら回し、ガラガラと景気よく回転した木箱から吐き出されたのは……鮮やかな赤色。

 先程残念賞は白色だったのでハズレではない。

 期待を込めて店員さんを見ると、色を確認した店員さんが微笑みながらチリンチリンと持っていた鈴を鳴らした。


「おめでとうございます! 4等賞の遊園地ペアチケットになります!」


 そうして店員さんに手渡されたのは二枚のチケットだった。どこかの遊園地らしい写真が印刷されているのが見える。

 目当ての品と違うことに落胆を隠せない、どうせ当たるならもっと上の大型TVだとかが当たっても嬉しかったのにお米よりも微妙なものが来てしまった。


「……これ、お米と交換できます?」


「あははっ、もちろん出来ませんよ」


 一縷の希望を込めて交換を申し出るが、店員さんに愛想よくバッサリと切り捨てられる。


「ですよねー」


 しかしそれも当然の事、当たった物が交換できてしまったらクジが成り立たないのでしょうがない。

 結局店員さんからもらった食べられない二枚の紙切れを握り締めながら、家に帰る。

 ムクロさんが喜んでくれるかはわからないけど、一応渡しておこう。


「そういえば学校ってところに居るんですよね」


 小高い丘の上にある大きな建物を見て、あそこまで行ってみるのも悪くないかもとそう思った。

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