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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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セリーヌに付き添われるように王太子室に入ってきたクロエは、

見るからに緊張しているようだった。

王太子である私の前に出ても堂々としているセリーヌとは対照的に、

おどおどと自信なさげにしているクロエ。


金髪緑目で見た目から高位貴族なのがわかるセリーヌと、

茶髪茶目で平民と変わらない色をもつクロエ。


もちろん女官として採用されているクロエが平民なわけはない。

少なくとも貴族令嬢で、学園で優秀な成績をおさめているはず。

それなのにこの落ち着きのなさはどういうことだろう。


顔色が悪いのかと思ったが、厚塗りの化粧のせいで真っ白に見える。

地味な印象を受けるのに、白粉だけは厚塗りなのが気になる。


「王太子様、クロエを連れてまいりました。」


「ありがとう。それではセリーヌは退室していいわ。」


クロエから話を聞くのにセリーヌを同席させるわけにはいかない。

これから報告書の筆跡が四人も同じことを確認することになる。

どう見てもクロエが清書しただけではないとなると、

誰かが仕事を押し付けられていることが考えられた。


一応はセリーヌも疑わなければいけない対象だ。

そのためクロエだけを残そうとしたら、二人とも動揺している。


セリーヌはクロエを見て心配そうにしているし、

クロエはセリーヌに縋るような目をしている。

…仲良しなのはわかったけど、クロエから話を聞かなければいけない。


少しの間をおいて、セリーヌは礼をして退室した。

最後まで不安そうな顔をしているクロエを気にしながら。



「急に呼び出してごめんなさいね。

 この、セリーヌの報告書なのだけど、クロエが清書したので間違いない?」


「えっ。あ、はい。」


「セリーヌが書いた報告書をそのまま清書したということ?」


「は、はい。そうです。間違いのないようにそのまま清書しました。」


なるほど。では、この報告書を作ったのはセリーヌでいいらしい。

では、残りの三人の報告書は誰が?


「クロエの字はとてもきれいな字ね。

 丁寧に書いてあってとても読みやすいわ。

 セリーヌの他にも清書を頼まれていたりする?」


「……いえ。セリーヌだけです。」


「…そう。わかったわ。」


清書を頼まれているのはセリーヌだけ。

その言葉に嘘はないような気がするけれど、では他の三人はどうして。

聞こうと思ったら、クロエの手が震えているのが見えた。

左手を右手で握りしめるようにぎゅっと押さえつけている。

その手を見て、既視感を覚える。


…これは、クロエから聞き出すのは無理かもしれない。

そういうことなのね。


「ごめんね。クロエの字がとても綺麗だったから気になったの。

 セリーヌの清書のことも本人から聞いているわ。

 女官長の目が悪いから、読みやすいように清書しているって。

 これからも頑張ってね。」


「あ、ありがとうございます…。」


ホッとしたようなクロエに、もう退室していいと告げる。

最後までおどおどした態度のまま、ぎこちなく礼をしてクロエは退室していった。


「すぐ帰しましたね。クロエに聞かなくて良かったのですか?」


なぜクロエに直接聞かなかったのか、デイビットは不思議そうに尋ねてくる。

わざわざ呼び出したのに聞かずに帰したのだから、

デイビットが疑問に思うのも無理はない。だけど…。


「…クロエ、多分誰かに暴力を受けているわ。」


「え?」


「隠してた左手の甲が少し見えたの。痣になってた。

 それに、化粧で隠してたけど、頬がはれてた。誰かに叩かれたんだわ。」


「…それがあの報告書に関わっていると?」


「それはまだわからないけれど、かなり怯えていた。

 無理に聞き出すのはまずいかもしれないと思って聞かなかったの。」


握りしめていた手が赤黒くなっていたのが少し見えた。

自信の無さそうな態度、怯えて震えていた身体。

…いつかの、前女官長の前に立たされた自分を思い出す。

あれはもうずっと虐げられている者に見えた。


「そういうことでしたか。

 クロエの資料ありましたよ。クロエ・バランド。

 バランド伯爵家の長女ですね。

 女官になってから担当者になったことはないです。

 ずっと雑務担当ということになっています。」


「どうしてずっと雑務担当なの?

 セリーヌと同期なのでしょう?」


「そうですね…もう女官になって七年もたってますし、

 普通ならニ、三年でどこかの担当者になっているはずです。」


デイビットもおかしいと思うのか、首をかしげている。

もっと詳しい資料は無いかとデイビットに聞いたら、

クリスがクロエのことを知っていた。



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