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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「お呼びでしょうか?ソフィア様。」


午後になってすぐに王太子室に来たミランは、いつも通りにこにことしている。

小柄だが少しぽっちゃりしていて、白髪に近い金髪を後ろで一つに結んでいる。

お祖父様よりも少し年下ではあるが、本当ならもうとっくに引退している年齢だ。


というよりも、一度退職したのを無理にお願いして戻したのだから、

あまり無理は言えない。


「ごめんなさいね、ミラン。

 これを確認してもらいたくて呼んだの。

 この報告書の字が誰のものかわかるかしら?」


報告書を手渡すと、ミランは手元から離したり近づけたりしている。

…もしかして、目がよく見えていないのかも。


「…申し訳ありません。数年前から目がかすむようになって、

 こうして見るとなんとか読めるのですが、字がぶれて見えるのです。

 筆跡だけではちょっとわかりません…。

 この報告書がどうかしたのでしょうか?」


「そういうことなのね。

 これらの報告書は筆跡が同じだから、同じ人が書いていると思うのだけど、

 報告書の名前が別々だったの。

 四人もいたのだけど、誰が書いたのか気になって。」


「四人ですか?聞いてもよろしいですか?」


デイビットが四人の名前を告げると、意外なことを言い始めた。


「あぁ、その中の一人、

 セリーヌはソフィア様に会っていただこうと思っていたものです。」


「私に会わせる?」


「ええ。女官長候補として推薦しようと思っておりました。

 とても優秀で真面目で、信頼できる者です。」


「じゃあ、その女官が書いたものなのかしら。」


ミランが信頼できるというのなら、人柄は問題ないのだろう。

そうなら、この者が他の三人の報告書も書いている?

だが、それならそれで、どうして他の者の仕事もしているのか疑問は残る。 


「ソフィア様、女官長が会わせたいと思っている者なら、

 直接呼んで聞いてみたらどうですか?」


「セリーヌをここに?」


「ええ。その時に他の三人の報告書のことも聞いてみてはいかがですか?」


四人全員を呼んで聞くわけにもいかないし、誰か代表を呼んで聞くのなら、

そのセリーヌを呼んでみたらいい、デイビットの考えはそういうことらしい。


仕事の手を休め、こちらの話を聞いていたクリスとカイルに目を向け、

二人の考えを聞いてみる。


「うん、俺もそれが良いと思う。」


「気になるなら、呼んで聞けばいい。

 それでも疑うなら、影に調べさせればいいんじゃないか?」


「カイルとクリスもそう思うのなら…。

 わかった。ミラン、セリーヌに来るように言ってくれる?」


「わかりました。何か調べたいことがあるのですね。

 それでは、セリーヌには用件を告げないでおきます。」


ミランが信頼しているというセリーヌを疑っているようなことを言ったのに、

セリーヌには用件を告げないで呼び出すという。

気を悪くしないのかと思ったのに、ミランは朗らかに笑った。


「ふふふ。疑われても大丈夫なものでなければ女官は勤まりません。

 疑われているのなら、セリーヌがそれを説明する義務があるでしょう。

 お好きなように問いただしてください。」


「そういうものなのね。

 わかったわ。セリーヌに聞いてみる。」


多分、ミランはそれだけセリーヌのことを信じているのだろう。

それならば、私も気にせずに疑問をぶつけてみよう。


セリーヌが王太子室に来たのは、それから一時間後のことだった。

長身のセリーヌは突然の呼び出しにも関わらず、

それに動揺しているような風には見えない。

綺麗な所作で礼をし、頭を下げたままのセリーヌに顔を上げるように言う。


化粧気のない素朴な顔立ちだが、緑色の瞳がまっすぐに私を見つめる。

後ろめたいことなんて一つもなさそうに見える。

ミランが信頼できるという女官。


「仕事中に急に呼び出してごめんね。

 この報告書を書いたのはセリーヌよね?」


セリーヌの名で署名されている報告書を見せると、「はい。」と頷いた。

その返事に迷いは無さそうだ。


「何か問題がありましたか?」


「いえ、とても綺麗な字だし内容も問題ないわ。」


「あぁ、字は同僚が清書しておりますので、問題ないはずです。」


「え?清書?」


「はい。わたくしは字が汚いというか、くせ字のようでして…。

 数年前から女官長が読みにくくて困っているのがわかり、

 字が綺麗な同僚に清書してもらってから提出しています。」


清書!なるほど。

字が汚いことが恥ずかしいのか、少しだけ表情が崩れる。

それでも隠すことなく話しているは問題ないと思っているのだろう。

もしかして他の三人も清書して…いや、そんなはずはない。


あきらかに報告書の書き方が似すぎている。

清書しただけなら、もっと違いが出るはずだった。


「誰が清書しているの?」


「クロエです。わたくしと同期の女官です。」


同期の女官。

セリーヌは二十代後半といった感じだろうか。

同期というのなら、クロエも同じ年齢なはずだ。

だが、クロエという名で書かれた報告書は見たことがなかった。

…この年で担当の仕事がない女官?

それはそれでおかしな話になる。


「…クロエを呼んできてくれないかしら?」



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