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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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96/194

96(カイル)

「そう。自分たちが間違ってたと後悔しても、

 もうお母様は亡くなってしまっているでしょう?

 罪を償おうと思っても、もう遅い。

 かといって、罪を背負うにも重すぎて耐えられない。

 だから、カイルに冷たくすることで、

 やっぱり自分たちは間違ってないって思いたかったんじゃないかな。」


「そう言われてみたらそんな気はする。

 ずっと俺に会わないで放っておくこともできたはずなのに、

 わざわざ会いに来てまで石を投げてきた。

 本当に嫌いなら、会いに来なきゃいいのにって思ってた。

 クラウスはなんというか、追い詰められているような顔をしていた。

 もしかしたら、あの頃から薄っすら気が付いていたのかもしれないな。」


「それでもつらかったのはカイルとお母様だわ。

 …無理に理解しようとしなくてもいいと思う。」


思い当たることはいくつかあった。

俺に石をぶつけて気が済んだのなら、

もっとすっきりした顔をすればいいのにと思っていた。

痛いのも苦しいのも俺なのに、

クラウスが傷ついたような顔をするのは理不尽だと感じていた。


時がたって、客観的に考えられるようになった今なら、

クラウスのほうもつらかったのかもしれないと思える。

幼かったクラウスが置かれていた環境もひどかった。

母親から引き離され、悪意を吹き込まれ、それを信じるしかなかった。

閉鎖的なアーレンスでは逃げ場も無い。


それは今もそうなのかもしれない。

クラウスはこれからもアーレンスに居続ける。

アーレンスから、過去から逃げることはできない。


俺はもう二度とアーレンスに戻ることは無いだろう。

もうアーレンスにも母親にも囚われていない。


姫様が、ソフィアが俺を救ってくれたから。




「ソフィアだよ。

 ソフィアが俺を必要としてくれたんだ。

 俺がそばにいたらさみしくないって。

 ずっと一緒にいてって言ってくれたんだ。」


「私がカイルを救ったの?」


救った本人はまったくそんなつもりは無かったんだろうけど。

あの時、ボロボロになるまで虐げられても、ソフィアの目は綺麗なままだった。

どれだけ強い意思があれば、折れずにいられるのだろうと思った。


「俺はソフィアのそばで生きようって決めた。

 誰よりも強くなって、もう二度とソフィアを傷つけられることがないようにって。

 まぁ、こうやって何度もアーレンスのことで考え込んだりするけど、

 おれはもう辺境伯の人間じゃないってちゃんとわかっている。

 だから、少しだけ申し訳ないと思っているのかもしれない。」


「申し訳ない?」


「俺はもう幸せになっている。

 クラウスを見ると、とても幸せには見えなかった。

 過去を恨んでいないわけじゃないけど、もういいかなって思う。

 もう関係のないところで幸せに生きてくれてかまわないって。」


俺が過去を振り返らなくなったのと同じようには無理かもしれないが、

それでも父親や兄たちに不幸になってほしいなんて思わない。

死んだ母親から見たら薄情かもしれないけれど、もっと大事なものができたから。


「…そっか。

 今、カイルが幸せならそれでいい。」


「うん、俺なら大丈夫。

 こうしてソフィアを抱きしめていられる。

 だから、俺は幸せだよ。」


成長しても小さなソフィアは抱きしめると腕の中にすっぽりと収まる。

細くて壊れてしまいそうな身体に、渦巻くような強い魔力。

生命力にあふれているソフィアを抱きしめていると、

俺もちゃんとここで生きているって実感する。


少しだけ強く抱きしめたら苦しいかと思ったら、

うれしそうに笑って俺の胸に頬をあてる。

俺のしたいようにさせてくれるのがうれしくて、

タガが外れそうになるのを必死でおさえる。

幼いころとは違い、抱きしめると柔らかな感触がある。

もう大人になったのはわかっているけれど、

抱きしめるとそれがよりはっきりと伝わってくる。


…アルノーの件で学んだはずだけど、それでも答えは出ない。

ソフィアは俺だけのものにはならない。

女王として、この国のために生きると決めているのだから。


わかっている。だけど、心までは割り切れない。

本当は俺だけのソフィアでいてほしい。

汚したくはないけれど、俺のものにしてしまいたい。


婚約者として慣れて欲しいと言って、こうして抱きしめているけれど、

性的なことはまだ何もしていない。


いつもならもうとっくに寝かせている時間だけど、

ソフィアが何も言わないのをいいことにずっと抱きしめている。


そのうち眠くなったソフィアが腕の中でウトウトし始めても、

離れることができずに寝顔をながめていた。




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