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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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94/194

94(カイル)

「ようやくわかった、だと?」


「はい。ようやく、です。

 あれほど大好きだった母様を裏切り者だとののしり、苦しめて追い詰めて、

 …母様を殺したのは俺や兄様や父様です。

 血のつながった弟を汚れていると決めつけ、無視し、石を投げて遠ざけました。

 それが父様をアーレンスを守るのだと、正義だと思っていました。」


「違ったと認めるわけだ。」


「妻は俺を裏切ってなどいません。

 妻が産んだ娘は銀髪でも俺の娘に違いありません。

 だけど、アーレンスの者たちはやっぱり疑いの目で見るんです。

 妻が俺を裏切ったんじゃないかと。

 呪われているんじゃないかと思っている者すらいる。」


「なぜ、そんなことに?

 王弟の血をひくとわかっただろう?」


「それは…父様が領民に公表していないからです。

 カイルが、私たちが王弟の孫だと。」


「は?いまだに公表していないっていうのか?」


「一部には知らせました。

 母様の生家にも…でも、自分たちの非を認めたくはないのでしょう。

 大々的に知らせることはしませんでした。

 父様が王弟の子だと聞いても、お祖父様の子だと信じたい者たちもいます。

 元辺境騎士団長だったお祖父様を慕うものが多いからです。

 今さらお祖父様の血をひいていないと言われても信じたくないのでしょう。」


そういうことか。公表したくてもできない。

それだけ辺境騎士団長だったお祖父様の力が強かった。


「…お祖父様が英雄扱いだったのは知っている。

 お祖父様の血をひいていることが誇りだったのも。

 知ったところで認めたくないと思うのも仕方ないかもしれない。」


「…クラウス王子、カイルは早くからこの事実を知っていた。

 それでもあなたたちにそのことを知らせなかったのは、

 あなたたちがそれを知れば傷つくとわかっていたからだ。

 虐待していた弟にそうまでして守られていたのに、

 あなたたちがしてきたことはどうなんだ?」


「…わかっている。情けないことを言っているのはわかっている。

 銀髪の娘が産まれて、ようやく実感できた。

 俺が、俺たちがしてきたことがどれだけ非道だったのか。

 申し訳ない…もう取り返しがつかないとわかっている。」


深く深く頭をさげ、謝り続けるクラウスに、声をかけることはできない。

今さら、こんな風に謝られたところで、何が変わるというのか。


「クラウス王子、それはなんのために謝っているんだ。」


「申し訳ない…今さらなのはわかっている。

 許して欲しいわけではない、こんなことで許されるなどと思っていない。」


「じゃあ、なぜこんなことをしにきた。

 こんなことを話すためにカイルに会いに来たのか?」


「いや、そうじゃない…すまない。話の途中だった。

 俺は春にアーレンス国王になる。

 ソフィア様に渡された書類に書かれていた、

 ユーギニス国に戻る時の条件をすべて受け入れるつもりだ。」


「もう一度ユーギニス国に戻ると?」


「ああ。だが、今のままでは戻ったとしてもダメになる。

 俺は…一度アーレンスを壊そうと思っている。」


「「は?」」


「アーレンスの価値観をすべて壊して、

 ちゃんと何が正しくて何が間違っていたのかを認識させる。

 父様と後妻、イリアとアンナは実権から切り離して、責任を取らせる予定だ。」


「そんなことできるのか?」


「もうすでに穀物がつきかけている。魔獣の被害も出始めた。

 この責任は誰が取るんだという声が出ている。

 王弟の子だと隠していたことも含め、今までのことはすべて公表する。

 何の罪もない母様が殺され、血のつながった弟が虐げられていたことも。

 

 アーレンスの民すべてに隠し事せずに、役に立たない領地だと説明する。

 チュルニアでもユーギニスでもいらないと思われている領地なんだと。

 そうでなければ、アーレンスは生き残れない。」


「それはそうかもしれないが、ものすごい反発が来るんじゃないのか?」


「来るだろう。だが、その責任は俺が取る。

 母様とカイルにしたことの償いにはならないとわかっている。

 だけど、このままではいられないんだ…。

 俺がしたことの罪は重い…何かしていないとダメになってしまいそうなんだ。」


「…俺はアーレンスの未来を思えばそれが良いと思うが、

 カイルはどう思う?」


これ以上クラウスを責めても仕方ないと思ったのだろう。

クリスが俺を見る目が柔らかいものに変わっている。

許せとは思っていないだろうが、もういいんじゃないかと言っているように感じる。


そうだな。もういいんじゃないだろうか。


「俺はユーギニス国に戻る時に、

 アーレンスの領民がきちんと認識できているならいいと思う。

 苦労するだろうが、クラウス王子が思うようにやってみたらいいんじゃないか。」


「そ、そうか。……ありがとう。」


まるで暗闇の中に光が差し込んだように、まぶしそうな顔をするクラウスに、

クラウスもまた被害者だったのかもしれないと少しだけ思った。

当時五歳だったクラウスが大人たちから思い込まされた結果なのだから。

大好きだった母様を憎みたくて憎んだわけじゃないはずだ。


これでアーレンスは変わるのかもしれない。

まだ寒さが一番厳しい時期で、ユーギニス国に戻るまでは時間がある。

その間にどれだけ被害が出るのかわからないけれど、

痛みを伴わなければ変われないのも事実だから。



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