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「以前、アルノーを王配にどうかって勧められたでしょう?」
「「「「え?」」」」
エディとアルノーだけじゃなく、私の隣にいたカイルとクリスも驚いている。
カイルはお茶が気管に入ったのか、ゲホゲホと咳き込んで苦しそうだ。
え?そんなに驚かなくてもいいと思うのに。
「姫さん。今、返事をするのか?早くないか?」
「え?うん。こういうのは早いほうがいいと思って。」
「そ…それはそうかもしれないけど。」
なぜか変な顔になるクリス。
真面目な話をしようとしているんだから、邪魔しないで欲しい。
「それでね、アルノー。」
「…はい。」
「あなたを王配候補にはできないわ。」
「「「「ええ!?」」」」
断ったら全員に驚かれた。
あぁ、やっぱり私が断るとは思われていなかったんだ。
それはそうだ。アルノーに何か不満があるわけじゃないし、
アルノー以外に王配にふさわしいと思う人がいるわけでもない。
だから、こんなにすぐに私が答えを出すとは思っていなかっただろうし、
それがアルノーを王配に選ばないという答えだとは思わなかっただろう。
一番そう思っていなかったらしいエディが席を立ちそうな勢いで抗議してくる。
「どうしてなの!?
アルノーは優秀だよ!」
「うん、知ってる。とっても優秀だと思う。
その上、剣技の腕も魔術の腕も間違いない。
他国の事情にも詳しいし、人柄も問題ないわ。」
「じゃあ!どうして!アルノーの他に誰かいるっていうの!?」
「ううん。他に誰かいるからっていう理由じゃないわ。」
「ええぇ?じゃあ、なんでなの?」
そうなんだよね。アルノーはとっても優秀。
ここで断ってしまうのがもったいないくらい優秀。
それなのに断る理由はただ一つ。
「だって、アルノー。
私の王配候補になってしまったら、エディの護衛騎士はできないのよ?」
「「あ!」」
今気が付いたとばかりに顔を見合わせるエディとアルノー。
クリスとカイルはその一言でわかったようで、納得して頷いている。
「いくらなんでも王配になるのに、エディの護衛騎士ではいられないでしょう?
私の護衛騎士ならまだしも。他の王族につくわけにはいかないわ。
ねぇ、アルノーはエディから離れられる?」
無言で首を横に振るアルノー。
「エディはアルノーがいなくても頑張れるの?」
「…無理かも。」
「そうでしょう?
エディはアルノーがいるから安心して生活できるのでしょう?
アルノーはエディが危ない目に遭うかもしれないとわかっているのに、
エディから離れて私のそばにいるのは無理よね?」
二人が素直にうなずくのをみて、やっぱり断って正解だったと思う。
ずっと二人は一緒にいたのだもの。
王配になるからという理由であっても、離れるのは無理だと思う。
それに、私としてもエディを一人にするなんてできない。
エディにはアルノーがいるから安心していられる。
他の護衛騎士に任せるなんて考えられなかった。
「そっか…アルノーが王配になるって、そういうことだよね。
僕はそこまで考えてなかった。
アルノーがソフィア姉様の王配になれば、役に立てる、
そう思っていたんだけど…。」
「エディの気持ちはうれしかったわ。ありがとう。
でもね、アルノーは今のままでも役に立ってもらえるから大丈夫よ。」
「え?」
「エディとディアナは王族としてだけじゃなく、
結婚後は私の側近としても働いてもらうことになるわ。
もちろん、二人を守る護衛騎士のアルノーも一緒に。
三人とも私の仕事を手伝ってもらうことになるから。よろしくね?」
「う、うん!もちろんだよ!ね、アルノー!」
「はい。そういうことでしたら喜んで!」
結果的に王配としては断ったけれど、
考えてみたら今のままでも十分役に立ってくれている。
わざわざ王配にならなくても他国の情勢を聞けるのだから。
断ったのにうれしそうな二人を見て、
私の判断は間違ってなかったと思った。
「ふふ。良かった。三人に手伝ってもらえたら助かるわ。
ね、クリス。カイル。」
「ああ。びっくりしたけど、そういうことなら問題ない。」
「そうだね。俺とカイルだけじゃ側近足りないから。
エディとアルノーがいてくれたら心強いな。」
カイルとクリスも納得してくれたようだ。
二人には相談しないで決めてしまったから少し不安ではあったけど、
この答えで間違えていなかったと私もほっとする。
三人目の王配はまた一から探さなきゃいけないけれど、それは仕方ない。
女王になるまであと数年あるから、気長に探すしかない。
実はこんなに早く答えを出せたのには理由がある。
婚約者選びのお茶会の護衛をするアルノーを見て、
心配性のアルノーをエディから離すのは無理だと思った。
だって…どこからどう見ても心配するお母さんみたいだったから。
それでもいいと思ってくれる令嬢がいるのかどうか。
アルノーの相手を探すのはけっこう大変かもしれない。




