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「うるさいわね!私が良いって言ったら良いのよ!
何よ!せっかく私が結婚してあげるって言っているのに!
もういいわ!エディ様なんて嫌い!
アーレンス領は独立するんだから!!」
「………あぁぁ。遅かった…。」
こうなる前に止めたかったが遅かった。
アンナ嬢が大きな声で宣言したために、他の学生たちにも聞こえたようだ。
教室の窓から顔を出して覗き込んでいる者たちもいる。
慌てたようにこちらに向かってきている学園長が見えた。
もう無かったことにはできない。
これだけ多くの人の前で発言したのだから。
私たちの一存で無かったことにしたら、それはかなりの問題になる。
仕方ない。これはもう独立宣言を受理しなきゃいけない。
「…ソフィア・ユーギニス。
ユーギニス国の王太子として、聞き届けた。
これよりアーレンス領は独立国として扱う。」
「「「「「はっ!」」」」」
私の周りのものすべてが頭をさげて承諾を示す。
それを見たアンナがぽかんとしている。
…自分がどれだけ大変なことをしたのか理解する日は来るのだろうか。
「もう!なんなのよ!もう知らない!」
なんとなくここにいてはまずいと感じたのか、
アンナがどこかに小走りで逃げる。
それとすれ違うように学園長が着いた。
さきほどの言葉が聞こえていたのか、あきらかに顔色が悪い。
「ソフィア様!今のはいったい!?」
「…アンナ・アーレンスが独立宣言をしたので受理したわ。」
「…それは正式に、でしょうか。」
「正式に、です。
残念ながら条件を満たしてしまっているの。
これだけ人目のある場所で宣言されてしまったら、
私たちの考えだけで無かったことにはできない。」
ため息をつきたくなるのをこらえて学園長に説明をする。
こうなってしまったら、粛々とことを進めるしかない。
学園長もそう判断したようで、これからの話に変わる。
「アンナ・アーレンスの学籍は除籍になります。
ユーギニス国の貴族令嬢ではなくなるので、
学園にいるためには留学手続きと国王陛下の許可が必要になります。
それでよろしいでしょうか。」
「ええ、それでいいわ。
陛下には私から報告しておきます。」
「かしこまりました。」
学園長が急いで走っていく。すぐに手続きをするのだろう。
近衛騎士を呼びよせて、別な指示を出す。
「アンナ・アーレンスをアーレンス国まで送り届けなさい。
学生寮の荷物もすべてまとめて、今日中に出発するように。」
「「「はっ!」」」
「アーレンス国までの馬車には女性騎士が同乗するように。
安全にしっかりと送り届けて。」
「「「はっ!」」」
近衛騎士たちがバタバタと走っていく。
指示を出し終えて、大きなため息をついた。
振り返ったらエディが泣きそうな顔をしていた。
「…ご、ごめんなさい。僕がうまく断れなかったから。」
あぁ、エディのせいじゃないから。
きっとあの状態じゃアンナに何を言っても無駄だったと思う。
それにアンナが独立宣言をしたのは…
「違うわ。エディのせいじゃない。
クリス、カイル、わざと煽ったでしょう?
アンナに独立宣言をさせるつもりだったのね?」
「あ、バレたね。」
「俺は事実を言っただけだ。」
「まったくもう。先に言ってよ!心の準備ができないでしょう!」
ニヤニヤと楽しそうに笑うクリスに、しれっと関係ないような顔をしているカイル。
いつもなら止めに入るクリスが何も言わずにいるのがおかしいと思った。
クリスならあの状態になる前に撤収させるとかできたはずだ。
そう思ったらクリスが笑いをこらえているのを見て、納得してしまった。
この人たち、私に内緒で仕組んでたなと。
ダグラスとルリも知っていたのか、目をそらされる。
アルノーも気まずそうな顔をしている。
どうやら知らなかったのは私とエディだけのようだ。
あぁ、ディアナも関係なかったようで、驚いているけれど。
「え?どういうこと?あれ、わざと言わせたの?」




