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「もう!どうしてわかってくれないのよ。」
「ちっともわからないよ。
だって、僕はアーレンス領を欲しいと思ったことなんて無いし。」
「あら、そんな強がりを言ってもいいの?
私はアーレンスの姫なのよ?わかってるの?
私がエディ様に冷たくされたって報告したら、
アーレンス領は独立してしまうかもしれないわよ?」
「は?」
そこにいるアンナ以外の者すべてが頭を抱えたくなったと思う。
…独立したとしても、困るのはアーレンス領だけなのにと。
全員が絶句したのを誤解したのか、うれしそうにアンナは話を続ける。
「私がエディ様と結婚するなら、お父様はユーギニス国に従うと言うと思うわ。
あ、カイル兄様が王女と結婚するからって、それは無いわよ?
だってカイル兄様は嫌われているんだもの。
カイル兄様が何を言ったって、アーレンスは従わないわ。
イリア兄様を見捨てるような裏切り者、もうアーレンスのものじゃないから。」
あぁ、裏切り者って言ってたのはイリアを助けなかったからなんだ。
その前に助けようとして拒絶されたのだけど、そのことは知らないようだ。
ゆっくりとだけど、アンナが言っていることがだんだんわかったのか、
エディが確認するように尋ねた。
「…アーレンス領は独立しようと思っているのか?」
「迷っていると思うわ。チュルニアに戻ることは無いと思うけど、
このままユーギニス国に居続けたら、
王配になったカイル兄様に逆恨みされるかもしれないじゃない。
それくらいなら独立してしまったほうがいいんじゃないかって。
迫害されるくらいなら独立したほうがよっぽどいいもの。」
あーそれはそう思っていてもおかしくない。
辺境伯領の者たちはカイルにしたことをちゃんと覚えているんだろう。
罪のない母親を寄ってたかって罵倒して苦しめ、幽閉させて殺した。
カイルも最低限の世話しかせず、剣術も魔術も教えずに部屋に押し込めていた。
思い返せば恨まれていても仕方ないと思ったのか。
だから本当はカイルは不貞の子ではなく王弟の孫で、
王女の王配になるとわかって、あわてて懐柔しようとした。
いや、懐柔じゃなく、服従させようとしたが正しいかもしれない。
実の父親からの命令なら従うだろうと思っていたのか、
いう通りにさせてユーギニス国との話し合いを有利に進めたかったのかもしれない。
だけどカイルは父親の命令にはまったく従わず、捕まった異母弟を助けず、
今後の関りを一切拒絶してしまっている。
アーレンスの人はこうなって初めて自分たちの行動を後悔しただろう。
そして、きっとこう思っている。
カイルに復讐されるかもしれないと。
ただの自業自得だと思うけれど、
当時幼かったアンナは詳しいことを知らされていないのかもしれない。
イリアも母親に「カイルは辺境伯領の者を嫌っている」と言い聞かされて信じていた。
同じようにアンナもそう言われて育ってきているに違いない。
母親の教育が悪いだけじゃなく、おそらく領内では姫といわれて育ってきている。
周りにいるものから姫として大事に育てられたのなら、それを疑うのは難しいだろう。
だけど、令嬢一人で負える責任を越えてしまっている。
どうしようか。これはエディに収められるだろうか…。
私が出て行って話したほうがいいのか迷っていたら、後ろから出て行ったのは
「アンナ…お前は自分の立場を理解して話しているのか?」
我慢できなかったのか、カイルがエディの隣に進み出る。
ようやく私たちもいると認識したのか、アンナは少し怯んだように見えた。
だが、それも一瞬のことで、すぐに強気な姿勢に戻った。
「理解しているに決まってるじゃない。
裏切り者のカイル兄様よりもずっとわかっているわ。」
「なら、お前はアーレンス領の代表として話しているということだな?」
「そうよ!」
「なのに、どうしてそんな考えなしに話すんだ。
お前がここで独立すると宣言してしまえば、もう後には引けなくなる。
アーレンス本家の者が十五歳を過ぎたら、
領から外に出た時には当主の代理になる資格があるとみなされる。
ここは王都でも公の場所で、王族が立ち会っている。
迂闊なことを言えば、辺境伯代理の発言だと捉えられるんだ。
そんなことすらわかっていないんだろう。」
そういえば、遠いからという理由で辺境伯は夜会に出席しない。
その代わりに学園にいる子息令嬢がその代理として出席することが認められていた。
夜会と同じで学園も公の場として認められる。
あれ…独立宣言の条件は…王族が三人以上と貴族が三人以上立ち会うこと。
まずい…ここには王族が四人、貴族が四人いる。近衛騎士までいる!
この場で宣言されたら受理しなきゃいけなくなる!
まずい!アンナがよけいなことを言う前に止めなきゃ!
「待って!これ以上、ここで」
「うるさいわね!私が良いって言ったら良いのよ!
何よ!せっかく私が結婚してあげるって言っているのに!
もういいわ!エディ様なんて嫌い!
アーレンス領は独立するんだから!!」
「………あぁぁ。遅かった…。」




