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辺境伯令嬢のアンナに出会ってから一週間、
時間が合わなかったこともありエディとは食事を一緒に取っていなかった。
アンナには学園長から警告がされたと報告があったが、
それに納得した感じはなかったとも書かれていた。
アンナとは学年が違うため、私が直接かかわることは少ない。
どうしても対応は同じ学年のエディに任せることになる。
何事もなく済んでいるとは思えなかった。
そろそろエディを読んで直接報告も聞きたいと思い、
お茶の時間を一緒にと思っていたところだった。
次の授業のために中庭の連絡通路を移動していると、
前を歩いていたカイルが何かを見つけたように足を止める。
どうしたのかと思ったら、中庭のほうを見ている。
「カイル、何かあった?」
「あそこの生垣のところ、エディとアルノーが隠れている。」
「え?」
示された方向を見てみると、少し離れたところの生垣に二人がいるのが見えた。
背の高い生垣に身体を隠すようにして向こう側を窺っているように見える。
一緒にいるはずの近衛騎士たちは離れた場所に待機している。
二人が近衛騎士を遠ざけるとはめずらしい。
休み時間だとはいえ、時間に余裕がある昼休憩でもないのに何をしているんだろう。
何かから隠れているようなので、私たちもこっそりと近づいていく。
さすがに近づく途中でアルノーがこちらに気が付く。
まずいというような顔をして、エディに何か耳打ちする。
振り向いたエディもしまったというような顔をした。
私たちに見つかったらまずいようなことをしていた?
いったい何があったというのだろう。
こそこそと小声でエディへと話しかける。
「こんなところで隠れて何を見ているの?」
「…実は教室を移動している時にアンナ嬢につかまりそうになって。
それをディアナ嬢が止めてくれたんだけど、言い合いになってる。」
「え?」
生垣の隙間から向こう側を覗くと、
アンナと金髪の令嬢が向かい合っているのが見えた。
あの金髪の令嬢がディアナ・ミレッカー。ミレッカー侯爵家の次女。
すらりとした長身で大人びた顔立ちの令嬢だった。
その二人が向かい合って言い合いになっているように見えるが、
どちらかというとアンナが興奮気味で一方的に罵っているようだ。
あ……これ、私たちがここにいたらまずいのでは?
視線でエディに問うと、こくりと頷かれる。
しまった…見なかったことにすればよかった。
エディも見なかったことにしようと思って隠れていたのに、
私までこんな場面を見てしまったら…。
はぁぁとがっくりしたくなるが、もう仕方がない。
ここまで近づいてしまったら知らなかったことにはできない。
ゆっくりと大きく息を吐いて、エディに事実確認をする。
「どうしてあの二人はもめているの?」
「毎日アンナ嬢がA教室に押しかけてきて騒ぐもんだから、
ディアナ嬢が見かねて注意してくれるようになって…。
言っていることは完全にディアナ嬢が正しいんだけど、
何を言ってもアンナ嬢が聞いてくれなくてさ。
ディアナ嬢に迷惑かけるのが申し訳ないと思って、
昨日からはアンナ嬢が来ても追い返してくれるように女性騎士に頼んだんだ。
これでもう大丈夫だと思っていたんだけど、
教室を移動しようとしたら待ち伏せされていて…。
授業をさぼってサロンに行こうって聞かなくて。」
「…はぁぁ…学園長からの警告はきいてないわけね。
どうしよう。謹慎処分とかしても聞き分けてくれそうにないわね。」
「そうなんだよね…だけどこんなことで退学にするのも可哀そうで。」
その気持ちはわかる。
何とかしてほしいと思っていても、
私たち王族に対する不敬は処罰が重すぎて…。
下手に注意するとそれだけで人生を終わらせることになりかねない。
優しいエディならなおさら、自分のせいでアンナが退学になるのは嫌だろう。
ずっと他国にいたエディに王族らしくふるまえというのはまだ難しい。
今は王族としての立場をどうしていいか迷っているように見える。
それにしても、この状況をどうやっておさめたらいいものか。
悩んでいる間に、アンナの怒りは頂点に達してしまったようだ。
「いいかげんにして!
なんで私とエディ様の邪魔をするのよ!
私と結婚するのがエディ様のためになるんだって、わからないの!?」




