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学園が年度末になり長期休みに入ってすぐ、
ソフィアが王太子の指名を受けたと全貴族に通達された。
前王太子のダニエルが病気で療養していることと、
ソフィアがまだ十六歳で成人前なこともあり、儀式は行われないことになっている。
各国の動きはさまざまで、大使に祝いの品を送らせただけの国、
同じ王女を大使とした国、独身の王族が数名で押しかけてきた国、
それらを相手しているだけで長期休みのほとんどが費やされることになった。
それと同じころ、フリッツ叔父様が帰国し、
エディとエミリアも王宮の本宮に住むことになった。
帰国した際に一度会ったけれど、あまりの忙しさに挨拶しただけだった。
ようやくひと段落したところで、エディから会いたいと連絡が来た。
学園に入学する前にゆっくり話をしたいと。
今年十五歳になるエディには数年前に身長を抜かされているけれど、
前回会った時よりもさらに伸びていて、頭一つ分くらい差をつけられている。
フリッツ叔父様よりも第二王子妃のアリーナ様にそっくりの金髪碧眼で、
日に焼けた精悍な顔立ちは王子というよりも騎士見習いに見える。
「こうやってお茶を飲むのも久しぶりね。誘ってくれてありがとう。
エディも入学前で忙しいんじゃないの?」
「僕が忙しいのはそれほどじゃないよ。
ソフィア姉様が本当に忙しそうだったから、時間が取れるのを待っていたんだ。
エミリアも会いたがっていたから後で会ってあげてよ。」
そうは言うけれど、エディには王太子教育を受けてもらっている。
これは王位継承順位第二位の者が受けるもので、
お父様や私が次期王太子として受けたものほど厳しくはないが、
何かあった時に王太子に代われるように教育されるものだ。
私が王太子になると同時にフリッツ叔父様は王位継承権を放棄すると表明している。
そのため、第二位になるエディが王太子教育を受けることになった。
もちろんフリッツ叔父様も若いころに受けている。
ずっと他国にいたエディだが、ここ数年は何度か帰国している。
お母様が帰国したために、ココディアから自由に出られるようになったからだ。
おかげでこうして従兄弟として仲良く交流することができている。
「アルノーも元気そうね。エディの隣に座ってかまわないのよ?」
「あーじゃあ、遠慮なく。」
後ろに立っていたエディの護衛騎士のアルノーに声をかけると、
笑ってエディの隣に座った。
アルノーはアリーナ様の生家であるクライン侯爵家の二男だ。
つまり、エディにとって母方の従兄弟になる。
エディと同じ金髪だが、目の色は緑。だが、よく見なければ違いがわからない。
大きいとはいえまだ少年の身体のエディとは体格が全く違うけれど、
それもあと数年もしたらそれほど変わらなくなるかも。
フリッツ叔父様たちはずっと他国にいるため危険とは隣り合わせの生活だった。
そのなかでも一番狙われやすいエディの護衛に、甥をつけたということになる。
危なすぎて他家の者に頼みにくいというのもあるが、
大事な息子を一番信用できる者に任せたかったのだろう。
「そういえば、アルノーも一緒に入学することになったから。」
「アルノーも?」
「そう。そのために通わせなかったらしいよ。
僕が入学する時に一緒に入学させるために。」
「あぁ、護衛騎士だと教室内には入れないものね。」
アルノーは今二十二歳だったと思うが、
学園には通わずに十年前からエディについている。
この国は仕事につけるのは十二歳からという法がある。
そのためアルノーは侯爵令息ではあるが、
十二歳から他国にいるエディについて護衛をしている。
その時点では護衛騎士というよりも侍従といったところだろうか。
「今さら入学するのもどうかと思うけど、
エディを一人にするのもかわいそうなのであきらめますよ。」
「僕は一人でも大丈夫だけど、アルノーの仕事が無くなっちゃ困るからね。
仕方ないから侍従としても雇ってあげるよ。」
「はいはい。」
相変わらず仲のいい二人をほほえましく思う。
周りが敵ばかりの状況で頼れるものが少なかったこともあるだろう。
エディとアルノーは主従関係というよりも仲のいい兄弟のように見える。
「あぁ、そうだ。ソフィア姉様にこれを言いに来たんだった。」
「ん?何?」
「入学試験の結果、僕は三席だったけど首席はアルノーだったんだ。」
「あら、二人とも頑張ったのね。おめでとう。」
「さすがに年齢がこれだけ上ですからね~
俺は首席じゃないとかっこ悪いでしょう。」
照れくさそうに言うけれど、年齢が上だから首席になれるわけではない。
環境が整わない中、二人ともよく勉強してきたと思う。
「そんなことないわ。二人ともよく頑張ったのね。
首席も三席もすごいことよ。」
「でしょう?だから、ソフィア姉様の王配の三人目、アルノーはどうかな。」
「「「「え?」」」」




