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王太子室の奥にある小部屋に入り、奥にあるソファに座る。
隣にはカイルが座り、向かい側にはクリスとデイビットが座った。
座ってまもなく、目の前には温かいお茶が置かれる。
「ありがとう、リサ。」
「お疲れ様です、ソフィア様。」
私が王太子室で仕事をしている間、リサとユナは休憩時間になっている。
それでも私がお茶を飲むときには必ずどちらかがお茶を淹れに来てくれる。
王太子室付きの侍女をつければ済む話なのだが、
リサとユナ以外の侍女を近くに置くのは疲れてしまう。
ただでさえ神経をすり減らすことが多い仕事を、
警戒しながらする気にはどうしてもならなかった。
とはいえ、私の専属侍女の数は足りていない。
ルリが卒業後に専属侍女となったとしても、もう少し増やす必要がある。
リサとユナの負担を減らすためにも、そろそろ本気で考えなければいけない…。
「それにしても、ソフィア様。
バルテン公爵夫妻を処罰しなかったのは意外でした。
申請書を却下していたのは知っていましたが、
書類を送り返すだけにしていたのはこのためですか?」
のんびりとした口調でデイビットに尋ねられ、あえて聞いたのだと感じた。
もし他の文官に聞かれたときにどう答えればいいのか、そのための質問だろう。
クリスの両親だから罪を見逃したのではないか、
王配だから優遇したのでは、と疑われたらどうするのか、
そんなところだろうか。
「バルテン公爵夫妻はね、ここ八年ほど社交界を牛耳っていたの。
エディ叔父様が王都追放になって、邪魔者がいなくなってからね。
そこから夫人たちをお茶会に招待するようになったのだけど、
架空の工事を申請して補助金を受け取るやり方も教えていたようなのよ。
この件でバルテン公爵夫妻を処罰したら、
同じやり方をした領主たちすべてを処罰しなければいけない。
さすがに中央貴族の半数以上を処罰するわけにはいかないわ。」
「中央貴族の半数!そんなにですか!?」
「アメリー夫人が毎週のようにお茶会を開くから、
ドレスや宝石代、手土産にと。どの夫人もお金に困っていたのよ。
かといってお茶会に出席しなければどんな嫌がらせをされるかわからない。
仕方なくそういう手を使っていた家も多いでしょう。
ずっと疑惑のある申請だと気が付いていても、
そのまま署名して終わらせていたお父様の責任でもあるわ。」
「そうでしたか…だから、これ以上影響がないように国外に出したのですね。」
「そう。重罪ではあるけど、処刑するほどではない。
でも、このまま国内に置いておけば他の貴族に影響を及ぼし続ける。
あの夫妻がいなくなれば、他の貴族は元の生活に戻るでしょう。
他の貴族へは警告を出すわ。今までの補助金は数年かけて払ってもらうと。
今後同じことを繰り返すようならば領地は返上してもらう。
それだけ警告しておけば、バルテン公爵夫妻が大使になったのは、
処罰の代わりとして国外追放されたのだとわかるでしょう。」
「なるほど…わかりました。」
にっこりと笑うデイビットは、よくできましたと言っているようだ。
本当はわざわざ聞かなくてもわかっているだろうけど、
これは私が話したという事実が必要なのだから仕方ない。
まだまだ大人に支えられて王太子代理の仕事をこなしているのだと、
こういう時に感じる。
「警告を出して、返済計画を作ってか…姫さんが忙しくなる前に終わるかな。」
「私が忙しく?王太子の指名は儀式を行わずに通達だけで終わるでしょう?
今とそんなに変わらないんじゃない?」
「いや、正式に王太子になれば、各国からお祝いの品が届く。
同盟国からは大使が届けに来るだろうし、
中には見合いの話と共に王族が会いに来るだろう。」
「あぁ、そういうことね…確かにめんどうかも。」
そういう意味での忙しいか。
三人目の王配が必要になるというのは、通達と共に知られることになる。
クリスとカイルを婚約者にしている以上、なぜ二人もという疑問が出るだろうから。
女王は三人以上王配を必要とするということも知らせなくてはいけない。
公爵家長男と辺境伯三男。
この肩書だけ見たら、王族ならその上に立てると思っても仕方ない。
だけど、そういう考え方をするような人を王配にすることは絶対にない。
間違いなく断ることになるが、そういう人ほど断るのがめんどくさかったりする。
「忙しくなる前にバルテン公爵家のことだけでも片付いて良かったかもしれません。
他の家も、この件を説明した上で警告文を送られたらおとなしくなるでしょう。
ソフィア様、そんなにため息つきそうな顔しなくても。
…めんどうでしょうけど、大丈夫だと思いますよ?」
「え~?そんなにのんびりと大丈夫だなんて言われても。」
なぜか大丈夫だと笑っているデイビットに文句を言う。
私が大変になればデイビットだって忙しくなるはずなのに、
どうしてそんなに余裕ありそうなんだろう。
「クリス様とカイル様に実際に会われたら、
ほとんどの者はあっさりあきらめるでしょう。
どうやっても敵わないものに立ち向かっていくほど、
愚かな王族はそれほどいませんから。
比べられて恥をかく前に潔くあきらめて帰ると思いますよ。」
「あぁ、そういうこと。なるほどね。」




