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「すべてのきっかけはココディアに帰ったイディア妃だ。
イディア妃が…ソフィアは女王にはなれないだろうと言ったらしい。」
「え?お母様がそんなことを?」
産まれてからほとんど交流したことも無いお母様がなぜそんなことを。
少なくともこの国が女王になれる国だということは知っているはずなのに、
どうしてそんなことを言ったのだろう。
「ココディアのお茶会でイディア妃がソフィアは何もできない姫だから、
結婚相手が国を動かすことになるだろうと話したそうだ。
それを聞いた王女がソフィアの結婚相手が国王になると勘違いした。
ハイネス王子はこの国の王女と結婚すれば自分が国王になると思っていた。
だから、学園でそういうことを話していたらしい。
この国の国王になるのは自分だと。
それをイライザが聞いて、ソフィアではなく自分が王妃になろうと思ったそうだ。」
「…えええ。お母様は私が実権を持たされないと思っていたということですか?」
「ああ。ダニエルには王太子として実権を持たせなかったからな。
同じようにソフィアにも実権は持たせないと思っても無理はない。
お前が王太子代理になった時にはもうイディア妃はココディアに帰っていた。
その後のことは知らなかったんだろう。」
確かに、十二歳になるころに引き継いだ王太子の仕事は大したものは無かった。
地方領主からの要望も大きなものはお祖父様が処理していたようだし、
王太子であるお父様の仕事だったというのは少し疑問があった。
お祖父様がしているのは国王の仕事だけでなく、王妃の仕事、
そして王太子と王太子妃の仕事までほとんどを一人でこなしていた。
どれか一つでも大変な仕事量なのにそれをすべて一人で。
それだけお父様が何もできない人だったということなのだと思うが…。
「そういうことですか…お母様がそう思うのも仕方ありませんね。
でも、それは私が女王として実権を持つかどうかという話で、
王女と王子が勘違いしただけですよね。
イライザがそれを利用したのは愚かだとしか思いませんけど…。」
何度も王位継承順位を説明されていたのに、信じなかったのはイライザだ。
お父様が療養中の今、私が一位でフリッツ叔父様が二位。
その後もエディとエミリアがいるし、そもそもイライザは王族ではない。
何度も言われているのに、それを理解しなかったのはイライザのほうだ。
「イライザはどうなりますか?」
ほとんどの貴族がいる前で王位の簒奪をもくろんでいたことがわかったのだ。
イライザもハイネス王子もただでは済まない。
その上、私に向かって攻撃魔術を打とうとしていた。最悪、処刑もありうる。
王族ではないが、それに近い位置だった者の処刑はできれば避けたいが…。
「結果はお粗末なものとはいえ王位の簒奪を実行しようとしたわけだから、
処刑となってもやむを得ないと思っていたのだが…。
実はイライザのお腹にハイネス王子の子がいる。」
「ハイネス王子の子!本当ですか!?」
「取り押さえた時に痛めた手首が痛いというんで一応レンキンに診させたんだ。
そうしたら魔力の流れがおかしいというので検査させた。間違いない。」
イライザのお腹の中にハイネス王子の子が…。
イライザが公爵夫人の不貞の子だとわかったとしても、
まだ貴族として登録されている令嬢に変わりない。
…ココディアでは王太子の子もまだ生まれていなかったはずだ。
扱いが難しすぎて、ユーギニス国には置いておけないし、
ココディアに判断をゆだねるしかない?
「同盟国の王族の血を勝手に処刑するわけにはいかない。
…イライザは魔力封じをつけて、国外追放になるな。
おそらくココディアに送られた後は幽閉されることになると思うが、
子を産んだ後どうするかはココディアに任せることにしよう。
儂の名で結婚を許可したことだし、ココディアの小隊に護衛させて、
向こうの王宮に送り付けることにした。」
「そうですね…ココディアに任せるのが一番だと思います。
他国の王位を狙ったハイネス王子の処罰もありますし、
お祖父様の言うとおり、二人とも幽閉になるでしょうね…。」
王位を狙ったと言っても、王女と結婚して国王になるだなんて、
そんなまぬけな簒奪…ココディアとしても頭が痛いだろう。
ハイネス王子を生涯幽閉にして無かったことにする可能性が高い。
「魔力封じをつけるには王族、文官、騎士の三人で魔力を流すことになる。
王族の立ち合いはソフィア、お前がするか?」
「私が立ち合いですか?」
おそらくイライザに会うのはこれが最後になるだろう。
魔力封じをつける時は、間違いが無いようにという意味と、
簡単に外されないようにするために三人の魔力を流すことが決められている。
外す時は同じ三人の魔力を流さなけれならないため、
余程のことが無い限り外すことができない。
その三人のうちの一人として立ち会う…。
どうしようか迷っていたら後ろにいたカイルが声を上げた。
「陛下、その立ち合いは私にさせてもらえませんか?」
「カイル。…確かに、お前でも王族の立会人の資格はあると思うが。
どうしてだ?」
「私はイライザ嬢が改心するとは思えません。
最後にソフィア様を傷つけるだけ傷つけようとするでしょう。
私はこれ以上ソフィア様がイライザ嬢の言葉で傷つくのを見たくありません。
私に立ち会わせてもらえませんか?」
「…カイル。」
「そうだな。これ以上ソフィアが傷つく必要など無いな。
そもそもソフィアに悪いところなど何一つなかったのに、
あれだけ虐げられていたのだ。
もうイライザの言葉で悩まなくていい。すまんな。考えが足りなかった。
立会人はカイルに任せよう。
今、魔力封じを用意させている。明日には準備が整うはずだ。
魔力封じを付け次第、ハイネス王子と共にココディアに送ることとする。」
「わかりました。」




