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目が覚めたと思ったら、起き上がる前に声をかけられた。
「姫さん、おはよう。」
「クリス……?」
寝台の横に椅子が置かれていて、クリスが座っていた。
まるで看病していたような状況に、どういうことだろうと思う。
「身体の調子は大丈夫?頭痛くない?」
「…?頭?…痛くはないけど、なんとなく重い?」
「あーやっぱりか。これ、飲んで。」
差し出された飲み物を受け取ると、薬のような匂いがした。
一口飲むと冷たくて少し苦い。
後味はさっぱりとしているが、飲んだことのない飲み物だった。
「何、これ。」
「冷たくした薬湯。多分、姫さん二日酔いになってる。」
「え?」
「昨日食べたケーキ、後から残ってたものを料理長に確認させたら、
姫さん用に作ったものじゃなく、広間に置く貴族用のものだったんだ。
手違いで違うものが置かれていたらしい。
貴族用のケーキには酒が使われていた。
今まで姫さん用のお菓子には酒を使っていなかったし、
飲ませたことも無かったからわからなかったけれど、
姫さん酒に弱い体質のようだ。今後は気をつけなきゃね。」
「ええ?ケーキに入ってたお酒で酔ったってこと?」
「夜会用だからけっこうたっぷり入ってたらしい。
……で、昨日の行動はどこまで覚えている?」
「どこまで…って。」
夜会でケーキを食べた後、カイルが氷菓を持ってきてくれて…。
なんだか知らないけどイライラしてカイルを強制転移させて…。
というか、強制転移なんてしちゃダメでしょう。
後で影のみんなに謝らなきゃ…あぁ、リサとユナも心配しただろうな…。
まずい…カイルに八つ当たりしちゃった気がする…。
「その顔は覚えているって感じだな。」
「どうしよう…カイル、怒ってた?」
「いや、怒っては無いと思うけど。
さすがに強制転移されて驚いたみたいだね。
姫さんは酔って大変だったようだし…。
酔って寝ている姫さんに手を出さなかったのは褒めてあげてよ。」
う…あのまま寝ちゃったんだ。
それにしても手を出さないのを褒めてって。
「…手を出したりしないでしょ?」
胸も無いし色気も無いし、そんな気になるわけがない。
あーそんなこと言ってからんでしまったのを思い出した。
カイルは呆れているかもしれないな…。
「姫さんはさ、もう少しちゃんとカイルのことを見たほうがいいよ。」
「え?」
「あいつは姫さんが大人になるのを待ってる。
あぁ、身体が成長するのをっていう意味よりも心がね。
姫さんがそういうことを受け入れられるようになるのを待っているんだ。」
「私を待ってる?カイルが?」
「少なくとも夜会に出席できる年齢になったわけだし、
正式に婚約しているわけなんだから、
そういう関係になったとしてもおかしくはない。」
「それはそうかもしれないけど。」
「まぁ、これからゆっくり考えてみなよ。
ただ、昨日の夜会で正式に婚約者として紹介されたから、
俺がこうして寝室で姫さんの看病してても問題ないわけだ。
当然…カイルが寝室に訪れても問題はない。
そういう関係になるかどうかは、姫さん次第だけど。」
「……。」
クリスが一晩この部屋にいても問題なかったというのなら、
周りがクリスと私がそういうことをしたとしても大丈夫だと思っていることになる。
私とクリスがそういう関係にならないと誰も知らないのだし。
もしかして、カイルもそう思ってる?
クリスとそういうことをしたかもしれないと思ってる?
そのことに気がついたら、座っているのに血の気がひいていく。
「あ、どうした。姫さん?」
「…私とクリスがそういうことしたって思われた?」
「ああ、そういう心配は大丈夫だよ。
さすがに姫さんの周りは姫さんの性格知ってるから思わないだろう。
…それと、カイルにだけは事情を簡単に説明しておいた。
俺は姫さんの閨の相手はしないと。
だからじゃないか。他の男だったら、姫さんの看病任せたりはしないだろう。」
「そっか。」
クリスが自分で事情を説明するとは思ってなかった。
私から言うつもりも無かったから、
王配になった後もその辺はうまくごまかそうと思っていた。
カイルが知っているのなら問題ない。
誤解されなかったと知って、気持ちが楽になる。
「…あとちょっとってとこかな。」
「え?」
「なんでもない。ほら、朝食を食べようか。
今日中にハイネス王子とイライザの処罰を話し合わないといけないだろうから。
陛下に呼ばれる前に準備をしておこう。」
「そうだった。急ぐわ。」
夜会の次の日だけど、ゆっくりするわけにはいかなかった。
ハイネス王子の件に関してはココディアとも話し合わなければいけない。
その前にユーギニス国としての処罰方針を決めることになる。
寝台から降りて、着替えるためにリサとユナを呼んだ。




