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収穫祭の夜会は開始前から騒がしく準備が行われていた。
本当なら準備は万端にされており、
今日は夜会を執り行うだけになっていたはずだった。
当日までこれほどバタバタしてしまっているのは、
招待客が予想以上に多かったからだ。
王宮につながる道は馬車で埋まっていた。
それもそのはず、通常の夜会の二倍以上の人が押し寄せていた。
通常は王家主催の夜会は貴族家の当主と当主夫人が出席し、
嫡子であっても成人した時か結婚した時くらいしか出席しない。
それがこの夜会に限っては、当主夫妻だけでなく令息令嬢までもが出席している。
どうやら今日の夜会で次期王太子が発表されるという噂が出回ったため、
令息令嬢を挨拶させてあわよくば近づきたいと思っているらしい。
おそらく噂が出回ったのはお祖父様の仕業だろうと思っている。
規律違反に厳しい今の文官女官から話が漏れるとは考えにくいし、
それをお祖父様が許すとも思えない。
ハイネス王子を誘い出すための作戦の一つなのだろうと思う。
だがしかし。急に増えてしまった招待客に対応するのに慌ただしい。
大広間の他に中広間二つも開放し、なんとか客を中に誘導させた。
「…夜会の準備している間にも仕事が増えていくわね。」
「もうそろそろ広間のほうは落ち着いたようですから、
姫様も御自分の準備を急ぎましょう。」
「ええ。」
今日の夜会のために用意したドレスに着替える。
白と青の生地と銀の刺繍は王族だけに許されている。
王太子として発表されることもあり、私に用意されたのは青いドレスだった。
全体的に細かな花柄の刺繍が銀糸でされていて、普通のドレスよりも重みを感じる。
ドレスに着替えるとリサが髪を結い、ユナが化粧をしてくれる。
目を閉じてされるがままになっていると、眠くなるがぐっとこらえる。
でも少しだけ寝てもいいかな…とウトウトし始めた時、クリスが部屋に入ってきた。
もうすでにクリスは準備が終わったようで、白の騎士服を着ている。
銀の肩章に差し色に青を使っているのは王族のあかしだ。
クリスとカイルは同じ衣装を着ることになっている。
今回の夜会は婚約者として紹介されるのだが、王族衣装ではなく騎士服なのは、
正式に公表されるまでは護衛騎士としての立ち位置でいたいらしい。
「姫さん、ハイネス王子が到着した。……イライザを連れてきている。」
「ええ!?イライザが?」
王宮に出入り禁止になっているイライザは、
この国の貴族令嬢ではあっても夜会に出席することができない。
それなのにハイネス王子が連れてきた?
「ハイネス王子のパートナーとして連れてきてしまったらしい。
そうなると追い返すのは難しいな。」
「…そう。」
ハイネス王子への招待状はココディアの王族への招待状になる。
臣下というわけでは無いので、パートナーを連れてきたとしたら、
そのパートナーもココディアの者という扱いになってしまう。
何かあった場合は連れてきたハイネス王子の責任になるのだが、
そのため最初から追い出すということもできない。
おとなしくしていてくれればいいが、
私が王太子になると発表される場にいて騒がずにいるだろうか。
学園で近くを通るたびに泣いて周りから同情を買おうとしていたことを思い出す。
あれを夜会の最中にされると困る…
特に今日の夜会でされると何も無かったことにはできない。
何らかの処罰を与えなくてはならなくなり、ハイネス王子の責任問題にもなる。
「…念のため、近衛騎士の増員をしておくように伝えて。
特にハイネス王子の近くに待機して。」
「わかった。伝えてくる。」
ため息をつきそうになるが、まだ化粧が終わっておらず、
ユナに動かないようにとお願いされる。
…始まる前から予想外なことばかり。
無事に終わってほしいという願いは叶えられそうになかった。




