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何事もなく時間は過ぎて、
ハイネス王子が留学してきてから三か月が経とうとしていた。
最初は警戒していたものの、向こうから私へ関わってくることは無かった。
不気味ではあるが、こちらからはどうすることもできない。
早くハイネス王子の留学期間が終わってほしい、そう思うしかなかった。
だが、お祖父様の判断は違ったようだ。
「夜会で発表するのですか?」
「あぁ、次の収穫祭の夜会はソフィアも出席することになるだろう?
ちょうどいいから、ソフィアが十六になったら王太子の指名をすると発表する。」
「もう半年も無いですから先に発表するのはかまいませんけど。
ずいぶんと急な話ですね?」
夜会で発表すること自体はかまわない。
もともと王太子代理として仕事をしていることもあり、
私がお父様に代わって王太子になることを知っている人は知っている。
だけど夜会で発表するということになればそれなりに準備が必要になる。
あと三週間という時期になって決めたのはなぜだろうか。
「確かに急な話ではあるのだが、その時にクリスとカイルとの婚約も公表する。
…これだけ公にしてしまえば、ハイネス王子もココディアに帰るだろう。」
「あぁ、そのために公表するのですね。ハイネス王子も招待するのですか?」
「国賓として来ているわけではないから、本来ならば招待する必要はない。
だが、実際にクリスとカイルを見せたほうが早いと思ってな。」
「これで留学を終えて帰国してくれるならいいのですけど…。」
十五歳になり、学園に入学したことで、
今年から王家主催の夜会には出席しなければいけなくなる。
初めて出席する夜会で公表すると言われ驚いたが、
どうやら何を考えているかわからないハイネス王子をけん制するのが狙いのようだ。
少なくとも、まだ私と結婚して国王になるつもりでいるのなら、
何かしら反応があるかもしれない。
ずっとイライザと一緒にいるようだから、
そんな気は無くなったのだろうと思っているけれど。
胸があって肉付きがいい女性が好きだと言っていたし、
イライザを気に入ったと言われても納得する。
イライザは貴族と結婚しなければ平民になってしまうのだし、
ハイネス王子と結婚したいと思っているだろう。
それに結婚してココディアに行ってくれるのであれば、もう会わなくてすむ。
二人が結婚することには特に問題はないのだし、そうなってくれたほうがいい。
「発表することで少し周りが騒がしくなるかもしれんが。」
「いえ、大丈夫だと思います。
学園で仲良くしている友人たちはそんなことでは騒がないと思います。」
「そうか。」
学園の入学当初はダグラスとルリとだけ仲良くしていたが、
少しずつ他の学生とも話せるようになっていた。
真面目に課題に取り組み、努力を惜しまないような学生ばかりで、
私とは距離を置いていたが陰口をたたくようなことは無かった。
距離を置かれていた理由を後から聞いてみたら、
ダグラスが怖かったと言っていたので笑ってしまった。
さすがにダグラスは気まずそうな顔をしていたけれど、
今ではそんなことを感じさせずに一緒に勉強している。
入学当初では考えられないほど、他の学生に受け入れられていると感じていた。
「早めに発表するのは、ハイネス王子のことだけが理由ではない。
万が一のことがあるといけないからな。」
「万が一ですか?」
「ああ。儂はもう六十六歳。十五で亡くなった父上に代わって即位したが、
それから五十年以上国王の座に居続けた。
何があってもおかしくない。」
「お祖父様!」
確かに高齢なのはわかっているが、お祖父様がそんな弱気な発言をするのは初めてだった。
もしかしてどこか身体の具合でも?と思いレンキン先生を見たら、
いつも通り優しく微笑まれた。
「姫様、大丈夫ですよ。
陛下の身体はどこもおかしくありません。
ですけど、こうしたことはきちんと発表しておいたほうが安心ですからね。
陛下も早く姫様にしっかりとした立場になってもらって安心したいのでしょう。」
「そういうことなら…お祖父様、本当に大丈夫なんですね?」
「大丈夫だ。ちゃんとソフィアに国王の座を譲って、
のんびりと見守る生活を楽しむつもりだからな。
発表するのは、万が一のためだと言っただろう?」
「それならいいですけど…。」
「では、夜会の進行は文官たちと打ち合わせておくように。
あぁ、クリスとカイルにも伝えておくようにな。」
「わかりました。」
収穫祭の夜会は三週間後。
あまり時間は無かったが、文官たちと相談して決めなければいけない。
初めての夜会でわからないことばかりだが、
クリスとカイルと三人で準備を進めていくことにした。




