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ハイネス王子が留学してきてから、ちょうど一か月が過ぎた。
最初の二週間ほどはハイネス王子にしつこく待ち伏せされて、
何度も話しかけられて嫌な思いをしていた。
それが急に無くなって、それはそれで不安に思っていた。
わざわざ学園に編入してきてまで私との婚約を望んでいたのに、
何度か冷たく対応されてくらいであきらめるのだろうか。
何かよからぬことでも考えていなければいいのだけど、と。
何かあればすぐに報告するようにとお祖父様に言われていたものの、
報告するようなことが無かったためにこの二週間は報告していなかった。
気になるのか、お祖父様が私の部屋にお茶を飲みに来た。
リサにお茶を淹れてもらい、ソファで向かい合って座る。
お祖父様と同席することはできないのか、クリスとカイルは後ろに立っている。
二人は王族になったのだから同席しても大丈夫だと思うのだが、
お祖父様とお茶するのはまだ難しいらしい。
「あれから王子との接触は無いのか?」
「はい。接触は最初の二週間だけでした。
それも話しかけて来るだけで、婚約などの話は一切ありませんでした。
それらしい話をされれば私には王配候補がいると伝えられたのですけど、
たわいもない話をするだけで終わってしまうので…。
わざわざこちらから伝えるのも失礼になってしまいますし。」
王子との話の内容が少しでもそういうものであったなら、
すぐに王配候補がいると伝えるつもりでいた。
なのに、少しも婚約の話は出ず、天気や食事の話など…。
さすがにそれでは王配候補の話を伝えるのは無理だった。
「そうか…。むこうからソフィアに接触してきたなら、
すぐにでも婚約の話をするかと思っていたのだがな。
報告によるとハイネス王子はまっすぐというか、
あまり物事を深く考えないように思える。
そばにいる侍従が王子の行動を指示しているとも考えられるが…。」
あぁ、あのいつも一緒にいる侍従。
ハイネス王子が話しかけてくる後ろでニヤニヤしていた。
あの侍従が指示しているとしたら、かなり意味のない行動をしているように思える。
もしかして私に効果がないと思って、計画を変えた?
「ハイネス王子は学園に通っているのでしょうか?」
「一応は通っているようだ。
授業はさぼりがちではあるが、学園内にはいるらしい。」
「授業には出ないのに、学園にはいるのですか?」
何しに学園に通っているんだろう。
案内役のデニスを断っているために、他の学生も近寄れないと聞いていた。
侍従と二人で学園に来て、お茶を飲んでいても飽きるだろう。
「…実は、昨日新しい報告が来た。」
「新しい報告ですか?」
私に接触が無いのに新しい報告とは?
お祖父様がわざわざ話に来ているのだから、重要なことなのだろうけど。
「ハイネス王子とイライザが一緒にいるようだ。」
「は?イライザが?」
あのイライザがハイネス王子と一緒に?
たしかに同じ三学年だから会う可能性はあるだろうけど。
教室が違うのに一緒に行動しているなんて、嫌な予感しかしない。
「どういうつもりで一緒にいるのかはわからないが、
離宮にも出入りしているようだ。」
「え?イライザは王宮に立ち入り禁止になっていませんでしたか?」
「ああ。今でも立ち入り禁止のままだ。
だが、離宮は第三王子に、ココディアに貸し出していることになっている。
向こうの護衛騎士が止めなければ離宮に入ることができる。
ユーギニスの騎士は離宮には貸し出していないからな。」
「そういうことですか…。」
イライザが離宮に出入りって。
王宮に出入り禁止になっているということもあるけれど、
それ以上に令嬢が第三王子の離宮を訪ねていっているってまずいのでは?
第三王子の侍従や護衛騎士もそばにいるかもしれないけれど、
それを証明するのは難しい。
噂にでもなってしまえば、そういう仲だと思われてしまう。
「ということで、第三王子の行動が読めなくなった。
今後、第三王子だけでなく、イライザと組んで何かしてくることも考えられる。
今まで以上に気をつけなさい。」
「わかりました。」
イライザと組んで何かしてくる…それは嫌すぎる。
卒業するまで会わないようにしていれば、もう二度と会わないで済むと思っていた。
向こうのほうから近づいてくるのを完全に阻止するのは難しい。
お祖父様が仕事に戻るのを見送った後、大きくため息をついた。




