47(ハイネス王子)
「おかしいな…本当にこの指輪は効果あるのか?」
「間違いないと思いますよ?
…ですが、王族には効きにくいとかあるかもしれませんね。」
「もう何度も会って話しているのに。
効果があらわれてもいいころだろう?
なのに、いつまでもあの態度…。」
ソフィア王女と最初に会ってから、もう何度も会って話している。
というよりも、待ち伏せて話しかけに行っていた。
指輪の魅了がソフィア王女に効いていれば、
向こうから会いに来てくれてもいいはずだった。
それなのに、ソフィア王女の態度は最初からあまり変わっていなかった。
作られたような微笑み、あくまでも失礼のない程度に交わされる会話。
あれでは、俺になびいているようにはとても見えない。
むしろ俺を見ると一瞬嫌そうな顔をして、それから表情を作る。
…もしかして、嫌われていないか?
さすがに何度も冷たい対応をされると心が折れそうになる。
ココディアでこんなに令嬢に冷たくされることなんて無かった。
一度や二度そっけない態度をしていたとしても、それは駆け引きで。
そのうち向こうが耐えきれなくなって話しかけてくるのが常だった。
「これは長期戦になりますかね~。」
「それまでずっとあんな感じなのか?」
いつまで授業をさぼってソフィア王女を待ち伏せすればいいんだろう。
そろそろ教師から苦情も来るだろうし、
それが理由で留学を取り消されたらかなわない。
ため息をつきながら、遅れてでも授業に出ようとした時だった。
「あの…もしかしてココディアから来た留学生かしら?」
後ろから声をかけられて振り返ったら、色気のある令嬢だった。
顔は普通だけど、少したれ目で、胸が大きい。
何よりも甘えてくるような声を聞いたのが久しぶりで少しだけ気分が良くなる。
そうだよな。女の子はこうでなくちゃ。
「そうだけど、何か?」
「あぁ、急に声をかけてごめんなさい。
イディア伯母様と同じ色だったから、もしかして公爵家の方なのかと思って。」
「え?イディア様を伯母様って?君は?」
「この国の第三王子の娘でイライザよ。
イディア伯母様には小さいころ可愛がってもらっていたの。
急にココディアに帰ってしまわれて、どうしているかしらって思って。
イディア伯母様はお元気?」
イディア様が結婚したのはこの国の王太子。
その弟の娘ということか。学園にもう一人王女がいるなんて聞いてないぞ。
「あぁ、イディア様は変わりないよ。
第三王子の娘ということは、国王の孫ってことか?
ソフィア王女とは従姉妹なのか?」
「ええ、そうよ。
ソフィアとは小さいころはそれなりに交流していたのだけど、
あの子は昔から気難しくて…学園では話しかけてもくれないの。
魔力も無くて、王女教育もまともに受けていないものだから…。
社交界にも一切出てきてくれないのよ。」
悲しそうにうつむくイライザ王女に、共感を抱いた。
そうか。ソフィア王女は誰が話しかけてもああなのか。
とても迷惑そうに会話を短く終わらせて去ってしまう。
俺と同じように冷たくされているイライザ王女に、同情するように答えた。
「それは大変だね。実は俺もソフィア王女に話しかけても冷たくされてばかりで。
俺も従兄弟なのだからもう少し交流してくれてもいいと思うんだけどね。
あぁ、俺はハイネス・ココディア。ココディアの第三王子だよ。」
「まぁ、第三王子?」
「あぁ、ハイネスって呼んでくれ。
俺もイライザって呼んでもいいかな?」
「ええ、もちろん!」
それからイライザからユーギニス王族の内情を教えてもらった。
ソフィア王女が産まれたのはいいが、ハズレ姫と言われ期待されていないこと、
そのためにイライザが女王になると期待されて育ったこと、
それが気に入らないソフィア王女にイライザが嫌がらせをされていること。
指輪をソフィア王女に使ったのは失敗だったな。
いくらなんでもそんなひどい王女と結婚するのは嫌だ。
色気が無いし冷たいし、なんとなく不安に感じていたのはこれだったんだ。
どうしようかと思ったけれど、
にっこり笑って腕を組んでくるイライザを見て思った。
そうだ。イライザのほうが期待されているって言ってた。
イライザと婚約すれば何も問題ない。
…こんな風に豊かな胸を押し付けてくるくらいだから、
イライザに指輪の魅了は必要ないだろう。
侍従を見たら、侍従も同じ考えのようで頷いた。
「ねぇ、イライザ。
今度、離宮に遊びに来ない?」




