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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「カイル?どうしたの?

 もしかして体調悪いの?お腹痛い?」


「いや…姫様の話が気になって…。

 きっと、王配の話なんだろうと思っていた。

 クリスは王配になるって決めたんだろう?」


「うん。その話をしようと思ってたの。

 カイルも王配になってほしくて。

 …食欲なくなるほど、困る話だった?」


カイルの表情が暗いのを見て、うれしくないんだと感じた。

クリスが王配を断ろうとしてた時と同じように思いつめたような顔。


「…出会った頃、姫様は言ったよな?

 俺の事情がわかるほど大人になったら聞くって。

 王配を決める時期が来たってことは、大人になったと判断していいか?」


「カイルの事情を教えてくれるってこと?

 教えてくれるのなら聞くわ。今はもう七歳の子どもじゃない。

 どんな事情があったとしても受け止められると思う。」


「そっか。」


パチンと魔術が弾ける音がした。

硬い硬い殻が弾けるような、そんな気がした。

カイルの顔が一瞬何も見えなくなり、次の瞬間まぶしさに目を細めた。

日の光を受けてきらめいた銀の髪。

その長めの前髪からのぞいた目は……透き通るような青。


「……だから色を変えていたのね。」


「どうしてとは聞かないんだな。」


銀髪碧眼…それは私やお祖父様と同じ王家の色。

もともと他国チェルニアだった辺境伯には無い色。

辺境伯の者は皆が黒髪黒目なのだから、カイルのような色が現れるわけがない。

それだけで、カイルがどんな目で見られてきたのかがわかった。


「俺のこの色がどうしてなのか、王宮に来てから陛下に教えてもらった。

 先代の辺境伯は女性だった。辺境伯の一人娘だったんだ。」


先代の辺境伯。カイルのお祖母様のことか。

その時代はどの国も荒れていて戦争が多い時代だった。

他国からチュルニアが攻め込まれ、

チェルニアの王族は辺境伯を代替わりしたばかりの若い女領主だと侮り、

辺境伯の騎士団をすべて王家に差し出せと迫った。


辺境伯の守りを捨てて、王都を守れと言われた辺境伯は、

迷った結果我が国ユーギニス王国に保護を求めた。

他国と戦争中のチュルニア国はユーギニス王国と戦争するような余裕はなく、

そのまま辺境伯領はユーギニス王国に仕えるようになった。


ここまでは歴史で習うから知っている。

だけど、辺境伯は王家の血が入るような婚姻はされていない。


「辺境伯領まで話し合いに来たユーギニス王国の代表は王弟だったそうだ。

 陛下の叔父にあたる人だった。

 ユーギニス王国の領地になるにあたって、何度も話し合いを重ねていくうちに、

 辺境伯と王弟は恋仲になった。

 その時、辺境伯は十九歳。王弟は二十三歳。

 どちらにも婚約者はおらず、結婚すること自体には問題がなかった。

 だけど、時期が悪かったんだ。

 辺境伯領がユーギニス王国になってすぐ、ココディア国との戦争が始まった。

 王弟はその指揮をしなくてはいけなくなった。

 戦争が落ち着いたら結婚する約束をしていたが、王弟は戦死してしまった。

 その時、もうすでに辺境伯のお腹には父上がいた。」


「今の辺境伯は王弟の子?

 お祖父様の従兄弟になるってこと?」


「そうらしい。だけど、王弟が戦死したことで、

 辺境伯は分家筋の辺境伯騎士団の団長を婿にした。

 ユーギニス王国になったとたんにココディアとの戦争が始まったことで、

 辺境伯への不満があった者も多かったそうなんだ。

 それもあって婚約もできず恋仲だったことは知られていなかった。

 未婚のまま子を産むことをさけるために、事情を知っている団長を婿にしたんだ。

 だから、その事実は公表されず、辺境伯が王家の血筋だということを本人も知らない。」


それは…おそらくココディアに負けた時のことも考えたんだろう。

王弟が戦死したような状況なら、戦況は良くなかったはずだ。

辺境伯の子が王族だと知られたら、処刑される可能性が高かった。

ココディアとの戦争は十年ほど続いた。

終わった頃にはわざわざ公表することも無いと考えたのかもしれない。


「父上も兄上たちも黒髪黒目だった。

 俺が産まれなければ…そのまま知られずに終わったかもしれない。」


「だけど、カイルは王家の色で産まれてしまった。」


「父上は母上が不貞したと思ったらしい。

 王子たち三人の誰とそうなったと思ったのかはわからないが、

 無実を訴える母上を無視し不貞したと決めつけた。

 俺が産まれるころには祖父母は亡くなっていて真実を知る者がいなかったんだ。

 母上は父上にも生家にも信じてもらえず、不貞したものと責められた。

 食事もできなくなり、最後はおかしくなって死んだと聞いている。」


「…カイル。」


無表情のまま説明するカイルが痛々しく見えた。

辺境伯領地では居場所がなかったと言っていたカイル。

カイルの母もカイルも何一つ悪くないのに。


「俺は…俺自身の色が許せなかった。

 ずっと汚れた子どもなんだと…生きていてはいけない者なんだと思っていた。

 陛下から真実を聞いて…今までの苦しみはなんだったんだろうと思ったよ。

 それでも…この事実を公表することが怖くて、色を隠した。」


「…カイルはそんなにつらくても、

 お父様のことが好きなのね?」



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