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久しぶりに学園と王太子代理の仕事の休みが重なり、
朝も起きてからゆっくりと過ごしていた。
カイルとは昼前から出かける予定にしていたので、
リサとユナがその準備をしてくれている。
来週からココディア国の第三王子が学園に来ることになっている。
おそらく無理やりにでも私と婚約しようとするだろう。
第三王子から直接申し込まれたとなれば、
それなりに正当な理由がなければ即座に断ることはできない。
だから、学園で第三王子と会う前に、
クリスとカイルを王配候補にしようと考えていた。
正式な公表はまだできなくても、
陛下から許可が下りれば二人の身分は準王族となる。
ただの護衛騎士では第三王子を止めに入った時に不敬になることもあるが、
私の王配候補として止めるのであれば不敬にはならない。
そこまで考えてクリスに話をしたのだった。
もちろん、それだけで決めたわけじゃない。
お祖父様に王配を決めるように言われてからずっと考えていた結果だ。
クリスとカイル以上に信じられる人はいないと。
王配は最低でも三人必要になるので、もう一人探さなければいけないが、
自分が国王になると信じている第三王子は、
自分の他に王配がいるとわかればあきらめるだろう。
「準備はできたそうだ。行こうか。」
「うん。」
昼前になり、カイルが迎えに来てくれた。
少しだけ表情が硬い気がするのは、私の話が何か気が付いているのかもしれない。
学園以外に出かけるのはとてもめずらしい。
カイルが用意した馬に抱きかかえられるように横すわりで乗る。
後ろからカイルが支えてくれるので怖くないが、馬に乗るのも久しぶりだ。
どこに行くのかと思ったら、王宮の裏側にある王家の森の中に進んでいく。
「森に行くの?」
「ああ。以前、ピクニックしてみたいって言ってただろう?
昼食を用意してもらったから、湖のほとりまで行ってみよう。」
「ピクニック!」
以前、ルリが従兄弟たちとピクニックに行ったという話を聞いて、
そんなふうに外で食事をするなんて楽しそうだと思った。
行きたいなってつぶやいていたのをカイルは覚えてくれていたようだ。
王家の森は希少な薬草が自生していることから、
許可が無いものは入ることができないようになっている。
森の周りは囲われていて、無断で入り込めるような隙も無く、
私が危険になるような獣も生息していない。
そのため影のユンとダナも遠くから護衛している。
昨日クリスと話す時に結界を使ったからか、
気をつかって離れたままでいてくれているのかもしれない。
ゆっくりと馬を歩かせ、のんびりと森の中を進む。
馬の上は揺れるけれど、直接風を受けて進むのが気持ちいい。
馬車で移動するのとは全く違う風景が新鮮で、
森の中をきょろきょろと見ていた。
「そろそろ着くよ。」
その言葉通り森を抜けて、視界が広くなったと思ったら目の前に湖が広がる。
太陽が真上にあり、反射して水面がまぶしく光っている。
湖のほとりにはたくさんの野草が花を咲かせていた。
「わぁあ。すごい!」
「思ったよりもいいところだな。」
何も無いところなのかと思ったら、少し奥のほうに東屋が見えた。
木で作られた東屋は古そうに見えたけれど、周りの草は綺麗に刈られており、
誰か人が整備して使用しているように見える。
「おそらく薬草を取りに来るものたちが使っているんだろう。
食事をとるのにちょうど良さそうだ。」
東屋の中のテーブルにカイルが食事を用意してくれる。
小さなパンに厚切りのハムと玉子、刻んだ野菜が挟んであった。
大きなソーセージは一口大に切って食べやすいようにしてくれる。
二つのポットから注いでくれたのは紅茶とじゃがいものポタージュだった。
朝ごはんもしっかり食べたけれど、外で食べる食事はとても美味しくて、
用意されていたものがどんどん無くなっていく。
風を感じながら食べるって、こんなにも楽しいことなんだと浮ついていた。
ふと気がついたら、カイルはほとんど食べていなかった。
私が食べているのをじっと見つめ、スープを少しだけ口にしていた。
「カイル?どうしたの?
もしかして体調悪いの?お腹痛い?」




