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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「ここにデニスを呼んだのは、イライザ嬢の話を聞くためだ。

 あぁ、その前に簡単に事情を説明しておく。」


侍女見習いのルリはリサとユナから聞いてわかっているのかもしれないが、

ダグラスとデニスはイライザのことを知らない。

私がハズレ姫と呼ばれている理由、幼いころどんなふうに育ったのか、

公爵が追放されて一代公爵となった罪などをクリスが淡々と説明する。

説明すればするほど、ダグラスとデニスの眉間のしわが深くなっていく。


「えっと、クリス、その辺でもう説明はいいんじゃないかな。」


「いや、まだ全然だろう?」


「でも、デニスの話を聞いたほうがいいんじゃないの?

 そのために呼んだんだよね?」


「…まぁ、それもそうか。というわけで、デニス。

 それを踏まえてイライザのことを報告してくれ。」


視線が集まったデニスは、少し緊張したように口を開いた。


「イライザ嬢の行動は…確かにおかしいとは思っていましたが、

 事情を知って納得しました。あれは放っておくとまずいです。」


「まずいとは?」


「まず、自分たちがハンベル領に追放されたのは、

 ソフィア王女のわがままのせいだと言っていました。

 幼いころからソフィア王女はわがままで乱暴で金遣いが荒くて、

 イライザ嬢は従姉妹として心配していた。

 このまま好き勝手させてはいけないと姪のわがままをいさめようとした公爵に、

 怒ったソフィア王女が陛下に嘘を吹き込んで処罰させたと。」


「「は?」」


カイルとクリスの声がかぶった。

怒りが抑えられないのか、二人の魔力がぶわっとあふれ出している。

それに影響されたのかルリとデニスの顔色が悪い。

魔力の差があればあるほどその力に押され、威圧を感じてしまう。

さすがにダグラスは大丈夫そうだが、それでも嫌そうな顔をしている。


「カイル、クリス、まずは落ち着いて話を聞こう?」


「ああ。」「わかったよ…。」


「…さきほど、食堂で見かけましたが、イライザ嬢は泣いていましたよ。

 従姉妹なのに声をかけてもくれないと。

 やはり嫌われているんだわと泣いて、周りの令息たちが慰めていましたね。」


「あぁ、さっきのってそういうことだったんだ…。

 周りの令息って?」


「イライザ嬢はB教室ですので、同じ教室の令息たちだと思います。

 基本的に周りに令嬢はいません。一緒にいるのは令息だけです。

 …あぁ、そういえば。辺境伯のイリアがいましたね。」


「辺境伯って…。」


それってカイルの弟ってこと?カイルを見たら、額に手を当てている。

どうやら弟がイライザの近くにいると知らなかったらしい。

話を聞いたクリスも考え込むように唸ってつぶやいた。


「まいったな…そういうことか。

 だから学園での姫さんへの視線が厳しいと思った。

 …対策はこれから考えないといけないが、デニス、今後も報告を頼む。」


「わかりました。何かおかしな動きがあればすぐに連絡します。」


「ああ。」


ぺこりと頭を下げると、デニスは個室から出て行った。

残った私たちは重い空気に包まれている。


「…ごめんね、ダグラス。変なことに巻き込んで。」


「いやいい。事情が知れてよかった。

 それにこの件はソフィア様が悪いんじゃないだろう。

 この一週間同じ教室で授業を受けていただけでも、

 ソフィア様がハズレ姫なんかじゃないのはわかるはずなんだ。

 それなのに、あの悪評。おかしいとは思っていた。

 …何かあれば俺が言い返す。教室の中じゃ護衛はいないだろうから…。」


「ありがとう…。」


「ダグラス、手に余るようなことがあればすぐに呼んでくれ。

 必ず近くに待機しているし、何かあれば駆け付ける。」


「そうだよ、ダグラスの気持ちはありがたいが、俺たちもすぐ近くにいる。

 一人で何とかしようと思っても限りがあるだろう。

 姫さんを守ってくれると言うなら、俺たちと一緒に守ってくれ。」


「わかりました。」


よくわからないうちにダグラスも私を守る側についてくれたようだ。

カイルとクリスと三人で頷いているのに、慌てたようにルリも声を上げる。


「私も!私も姫様を守ります!」


「あぁ、わかっているよ。」


ちょっと呆れた様にダグラスに言われ、ルリは拗ねたような顔になる。

さっきまでの重い空気がどこかに行ってしまったようで、つい笑ってしまう。


「あぁ、ごめんね。笑っちゃって。

 みんなが守ってくれるっていうのがうれしくて。」


「いや、姫様は笑っていればいい。ほら、食事にしよう。

 昼時間はたっぷりあると言っても、食べないと時間になってしまうぞ?」


「うん。」


冷めてしまった食事だったけれど、なんだか胸があたたかくていっぱいだった。

昼時間がもうすぐ終わる頃、個室を出たら食堂にはイライザは残っていなかった。


私がいなかった二年間で、この学園はイライザの嘘が信じられてしまっている。

これからその嘘をどうやって消していくのか…何も思いつかない。

それでも、隣を歩くルリとダグラスを見て、負ける気はしなかった。




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