27ソフィア十五歳
もうすぐ学園の入学という時期になって、お祖父様に呼び出されていた。
今回はカイルとクリスは連れて来るなと言われていた。
私だけに話しておきたい事って何だろう。
「もうすぐ学園の入学だな?」
「はい。」
「そして、あと一年で王太子の指名になる。」
「はい。」
それは以前に言われているからわかっている。
今さら何の確認なんだろうと思っていると、お祖父様は渋い顔になっている。
…そんなに話しにくい話題?お母様の離縁の時だってこんな顔しなかったのに。
「…王配という言葉を知っているか?」
「おうはい?」
「お前は国王ではなく、女王になる。その違いはわかるか?」
「違い、ですか?」
違いなんて、そんなものあっただろうか?
というよりも、この国で女王になったことがあるのは二人だけ。
それもかなりずっと昔のことで、それほど資料は残っていない。
何かあったかなと首をかしげていたら、ぼそぼそとお祖父様が教えてくれる。
「王配とは、女王の配偶者のことを言う。儂で言う妃なのだが、役目が違う。」
「役目ですか?」
「妃は子を産むのが仕事だ。だが、お前の場合、子を産むのはお前だな?」
「…それはそうですね。」
子を産む。考えたことは無かったが、そう言われてみればそうだ。
私が誰かに子を産んでもらうことはできない。
直系の子は私だけ、ということは、私が産む子が次の王になる。
「子を産んでいる間、女王は王政に関わることが難しくなる。
それを代わりにするのが王配の仕事だ。
王配はお前と子を作るだけでなく、
お前の代わりに王となれるものを選ばなくてはいけない。」
「私の代わりに王となれるものを…。」
そうか。私が女王としての仕事ができない間、
代わりに王の仕事をできるものを選ばなくてはいけないのか。
ぼんやりとしか考えていなかった未来が、急に目の前に現れた気がした。
…私、誰かと結婚しなきゃいけないんだ。
「王配は最低でも三人必要になる。」
「え?えええ??」
三人?王配が三人?え?私が三人と結婚しなきゃいけないの?
前世で結婚どころか恋人すらいたことが無い私が、三人と結婚?
…いや、幸せになりたいし、そういうこともしたいって願ったけど、
三人は求めてないよ?
呆然としてしまって、うまく話が頭の中に入って来ない。
「女王の代わりにだからといって、一人の王配が暴走することのないように、
女王の代わりに国を乗っ取ることがないように、
王配の場合三人は置くようにという決まりがあるんだ…。」
「三人…」
だめだ…考えがまとまらない。
「お前の王配候補、もう二人は決まっている。」
「え??」
もう決まっている?今日初めて王配の話を聞いたのに?
「クリスとカイルだ。」
「あ。」
ようやくすべて納得した。
護衛騎士が公爵家と辺境伯家だった理由。側近として使っていいと言われた理由。
最初から王配候補だとお祖父様は思っていたからなんだ。
「クリスとカイルはもともとお前の王配候補として選んだものだ。
学園に影の一人が教師として入り込んでいる。
血筋、才能、性格、三年間でそれらを見て、
王配にふさわしいものがいたら声をかけるように言ってあった。
今のところ、声をかけたのはクリスとカイルだけのようだがな。」
「そういうわけでしたか。クリスとカイルはこのことを知っているんですか?」
「いや、知らせておらん。
あくまで候補として用意しただけだ。
王配にするかどうかはソフィアが決めることだ。
女王となった時に、最後まで自分のそばにいさせるものたちだ。
信じられるものを選びなさい。」
「お祖父様…。」
「ただ、十六歳の王太子の指名の時には、
最低でも一人は婚約者を決めておかなければいけない。
女王になる時には三人いなければいけない。
学園に入ったら自分の目で探してごらん。」
「わかりました。」
「…急がなくてもいい。ちゃんと信じられるものを見つけなさい。」
「はい。」
うなずいたら、大きなお祖父様に包み込まれるように抱きしめられる。
心配なんだろうなと思いながら、お祖父様を抱きしめ返した。
「大丈夫。ちゃんとお祖父様みたいにこの国を大事に思う人を選ぶから。」
「そうか。」




