24ソフィア十二歳
七歳から始まった王女教育も順調に進み、十二歳になる半年前に終わった。
本来なら五歳から始め、学園に入学する十五歳になる前に終わるものだ。
王女として生まれたソフィアには王女教育の他にも、
王族としてやらなければいけないものがあった。
十二歳になれば教会や孤児院への訪問などの公務が課せられる。
その前に王太子妃がお茶会などで親しい友人を招いて、
連れてこられる子どもたちから王女の友人を探すのが普通なのだが、
王太子妃であるソフィアの母イディア妃はこの国の貴族に馴染めず、
夫人たちを呼んでお茶会を開くことは無かった。
そのため、ソフィアの友人となる同世代の令嬢との顔合わせも行われず、
ソフィアには友人と呼べるものはいなかった。
王女教育が終わった後、ソフィアは何もすることがなくなってしまった。
友人を招いてお茶会を開くことも無く、まだ公務も始まっていない。
時間を持て余したソフィアを見て、国王はソフィアに王太子教育を始めるよう命じた。
本来なら、学園を卒業した後で始めるものだが、
すでに学園で習うことを一通り学び終えているソフィアなら大丈夫だと、
王女教育を担当した教師たちが判断したせいでもある。
その王太子教育も半年間で順調に進んでいた。
あと二週間で十二歳となり公務が始まる頃、ソフィアは陛下に呼び出されていた。
護衛としては必要ないが、カイルとクリスを連れて謁見室へと向かう。
ここ数日間、王宮内は騒がしかった。
近衛騎士が行き交い何事かと思ったが、まだ十一歳の私には教えてもらえなかった。
いつものように私室で会うのではなく謁見室に呼び出されたということは、
祖父としてではなく国王としての呼び出しだろうと思った。
何かあったことは間違いない。
一人で受け止められることかどうかわからず、迷った結果カイルとクリスも同席させた。
お祖父様も二人が後ろにいるのを見ても咎めることなく入室を許可する。
「お呼びですか?」
「…あぁ。ソフィア、まだ子どものお前に聞かせていいのか迷うところではあるが、
お前ならばすべてを知った上で判断できるだろうと思う。」
「…ここ数日間騒がしかったことと関係していますか?」
「そうだ。覚悟して聞いてほしい。」
数日ぶりで会ったお祖父様は顔色が悪かった。
本当は私に聞かせたくないんだと思うけれど、
そうもいっていられない状況になったのだと感じた。
「イディア妃が。お前の母親がココディアに帰国した。」
「は?」
お母様がココディアに帰った?王太子妃なのに?まさか…。
「…もしかして、離縁したのですか?」
「そうだ。」
戦争が終結し、友好のあかしとして嫁いできたお母様が離縁?
たしかに夫婦仲は悪かったけれど、それだけで離縁できるものだろうか。
国同士で決めた平和のあかしなのに、お祖父様が離縁を許可するなんて。
「きっかけはダニエルの愛人だった。大きな商会を持つ伯爵家の娘だったのだが、
イディア妃がいるために側妃にも公妾にもできなかった。」
あぁ、それはそうだろう。
側妃を娶るにも公妾にするにも正妃、お母様の許可がいる。
結婚時に王太子の妃は一人だけという約束で嫁いできている。
それなのに側妃だなんて言われても納得しないだろう。
「そのダニエルの愛人が妊娠したそうだ。」
「え?」




