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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「…寝たか。」


「ああ。姫さん、この五日間、ほとんど眠れてなかったからな。」


「クリスが疲れてるのはそのせいか。」


「まぁ、そうだな。姫さんが魔力で補おうとするから、

 俺の魔力を流してたんだが…魔力量が違いすぎて…補い切れなかった。」


それは仕方ないだろう。ソフィアは王族にしても魔力量が桁違いだ。

クリスの魔力だけでは足りないのも仕方がない。


「治癒かけるか?」


「いや、今日はいい。寝たらそれなりに回復するだろうから。

 回復しきれなかったら頼むかもしれない。」


「わかった。」


普段はクリスがソフィアに治癒をかけ、たまに俺がクリスに治癒をかけている。

魔力に差があるために、ソフィアに治癒をかけすぎるとクリスに不調がでる。

ソフィアが寝た後で、こっそりクリスに治癒をかけるているのは、

知ればソフィアが気にするだろうと思ってのことだった。



「…ところでなぁ、カイル。なんでお前もボロボロなんだ?」


「……。」


「いくら馬車の旅を強行してきたとはいえ、そういう感じじゃないよな。

 お前も寝てないんじゃないのか?」


やっぱりクリスにはバレるか。

まぁ、これだけ寝不足だったら見てわかるよな。


「五日前、王宮を出た直後はソフィアが怒ってるんじゃないかと思って。

 気になって仕方がなかった。」


「あぁ、めちゃくちゃ怒ってたな。」


「その後は…泣いているような気がした。」


「実際には泣いてはいなかったけど、泣きそうだったよ。

 静かに仕事してたけど、周りが心配そうに見てた。」


やっぱりか。置いていったこと怒るだろうとは思っていたし、

こんなに長い間離れることなんて一度も無かったから。

俺がいなくて泣いているんじゃないだろうかと心配していた。


「それでカイルも眠れなくてボロボロなんだと?」


「ああ。ソフィアがどうしているのか気になって、ずっと眠れなかった。

 でも…置いていったのは仕方ない。

 あの塔にもう一度近づけるのはどうしても嫌だった。」


「わかってるよ。だから俺も許可したんだ。」


ソフィアはもうあの塔の夢を見ないと言っていた。

だけど、またあの塔に行くことになったら、また嫌な記憶を思い出すことになる。

責任感の強いソフィアは俺たちに任せるなんて考えることは無い。


だから無理やり、ソフィアを置いてまで一人で行った。

そのこと自体は後悔していないけれど、

こんなにやつれた顔になるまで悲しませてしまった。


ぐっすり眠っているけれど、ソフィアの目の下にくまができている。

クリスが魔力を流してもここまで影響が出るなんて、

どれだけ不調を無理して仕事していたんだろう。


「それで、塔のほうは問題無かったか?」


「ああ。塔の周辺も見てきたが、人が入り込んだ様子はない。

 ココディアは結界の壁自体は調べただろうが、塔までは気がつかなかったようだ。」


「まぁ、壁から少し離れた場所にある。

 塔に気がついたとしても見張りの塔だと思うだろうが。」


それはそうだろう。塔を発見したとしても、中には入れない。

小さな窓が二つあるだけの古い古い塔。あたりに人の気配もない。

人が通っているような小道すら無い。

もう使われていない昔の見張りの塔だと思うに違いない。


「何か変わりはあったか?」


「いや。ソフィアが塔の夢を見なくなったって言うから、

 もしかしたら変化があるかもしれないと思ったんだけどな。

 あの時の状態とほとんど変わらないように見えた。」


「そうか…姫さんの精神的な問題だったのかもしれないな。」


「かもしれない。」


夢の塔から出て行ったというリリアはどこに行ったのだろう。

ただ消えてしまったのだろうか。

ソフィアから聞いた話では、どこかに向かったように思うのだが。


ようやく解放されて自由になったリリア。

願わくば彼女も幸せになっていてほしい。


「…もう、結界の壁に頼らないで済むようにしなきゃな。」


「そうだな。今回のようなことはもうごめんだ。

 姫さんを一人で支えるなんて、どうやっても無理だ。」


「次は、もうない。俺だけじゃない。

 ソフィアには俺とクリスが必要だって、改めて感じたよ。」


俺の不在でソフィアがこんな顔するのはつらいけれど、どこかうれしい。

それだけ俺の存在が大事だって思ってくれている証拠だから。

でも、いなかったのが俺じゃなく、クリスだったら。

きっと日に日にやつれていくソフィアを支えるのは、

俺だけの力ではやっぱり無理なんだと無力さを実感したことだろう。


どちらかじゃダメだ。

俺とクリスと、二人でいなければソフィアは支えきれない。

それだけ大きなものをソフィアは抱え込んでしまっている。


「わかっているよ。俺は最初からそうだと言っているだろう。

 俺だけじゃダメだ。だが、お前だけでもダメだ。

 姫さんには俺たちが必要で、俺たちにも姫さんが必要だ。」


「あぁ、そうだな。」


しっかりと二人の手をつないだまま離さないソフィアに、

両側から寄り添うように三人で眠る。


朝になったら、もう一度謝ろう。

二人を置いていってごめんって。

そして、もう二度と一人でどこかに行くような真似はしないと約束するから。


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