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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「なるほど。血の誓約をしなければ婿入りできないとわかれば、

 王配になっても意味がない。あきらめてくれるでしょう。」


「そういうこと。あきらめてくれるといいんだけど。

 これは私の問題であって、イシュラ王子は関係ないのにごめんね。

 他国の王族なのに誓約をさせたことがわかれば、

 イシュラ王子を侮るものが出てくるかもしれない。

 そういう愚かな貴族がいたらすぐに教えてくれる?

 こちらできっちり対処するから。」


実際にはユーギニスだけでなく、ルジャイルとも誓約を交わしているのだが、

見方によってはイシュラ王子がユーギニスに従属されたともとれる。

ユーギニスの貴族に見下されるようなことは絶対に避けなければいけない。


そう思って謝ったのだけど、イシュラ王子はうれしそうに笑った。


「いいえ。僕は隠すつもりなんてありませんでしたから。」


「え?」


「エミリアの婚約者の立場というのは確実ではありません。

 だが、ユーギニスと誓約を交わしてまで婿入りしてきたとなれば、

 もう婚約を解消させることはできません。

 僕とエミリアは誰も引き離すことができなくなります。」


「…そう言われてみたら、そうかも?」


ルジャイルから婿入りしてくれる約束で、

もうすでにユーギニスに移り住んでいるけれど、婚約は婚約。

邪魔しようと思うものは必ず出てくる。

ましてやエミリアは身内から見ても可愛らしい。

学園に通うようになれば、貴族令息たちから狙われる可能性が高い。


二人の関係が政略結婚ではなくただの婚約だと知られたら、

イシュラ王子に寄っていく令嬢もいるかもしれない。

今、この国に未婚の王子はいない。

王子にあこがれる令嬢がイシュラ王子を狙っても不思議ではない。


「血の誓約を交わしてまで婿入りした僕を、

 今さらエミリアと別れさせるようなこと、ソフィア様がするわけがない。

 そう思えば手出ししてくる貴族はいないでしょう。」


「そうじゃなくても引き離したりはしないけど、

 貴族が思うかどうかで言えば、そうね。」


満足そうにうなずくイシュラ王子に、

もしかしてこれも計算のうちだった?と少し思ったけれど、

それでもいいかと思い直した。

イシュラ王子はエミリアと幸せになれるし、私は研究室をイシュラ王子に任せられる。


お互いにいい結果になったことで、満足して話し合いは終わる。

イシュラ王子は笑顔のままエミリアのもとへ戻っていった。





いつも通りの時間まで執務室で仕事をし、クリスと二人で私室に戻る。

食欲がなかったから先に湯あみをしたけれど、

それでもお腹はすきそうにない。

ひとすくいずつスープを口に運び、何とか飲み込む。

スープ以外は飲み込めそうになくて、いらないと下げてもらった。


「姫さん、氷菓なら食べられるか?」


「……ううん、いい。今日はいらない。」


「…そうか。じゃあ、そのスープだけでも食べろよ?」


「うん…わかった。」


なんとか最後の一口を飲み込んで、スープの皿を下げてもらう。

同時に食べ終わったのか、クリスも席を立った。


「寝室に行こうか。」


「うん。」


眠れないけれど、身体はすごく重い。

動くのも億劫なくらいだるくて…頭がずきずきと痛む。

動きたくないと思っているのに気がついたのか、

クリスに抱き上げられて連れて行かれる。


「もう、おとなしくしてろ。顔色が悪い。」


「…うん。」



寝室の扉を開けようとした時、私室の外からざわめきが聞こえる。

近づいてくる人の気配。この魔力……。



「クリス!」


「わかった。連れていくから、勝手に飛ぶな。」


止められなかったら、そのまま転移していた。

クリスに抱えられたまま、私室の入り口に近づいていく。


私室の扉を開けて入ってくる人影が見えた瞬間、

クリスから降りて走り出した。


そのまま飛びついたら、受け止められて、きつく抱きしめられた。


「もう!馬鹿!カイルの馬鹿!」


「……ごめん。」


「なんで置いていったの!ひどい!」


「…悪かった。」


「もう…もう!」


この五日間、ずっと我慢していた怒りが爆発するように表に出てくる。

悔しい、悲しい、置いていかれた。

何を言っても、カイルはただ謝るばかりで…。


「…カイル、さっさと湯あみしてこい。

 姫さんはもう限界だ。」


「あ、ああ。わかった。すぐに戻る。

 ソフィア、すぐだ。すぐに戻るから、一度離して。」


「…やだ。」


「姫さん、そのままだとカイルと一緒に寝れないぞ。」


「それもやだ。…今日は三人で寝る。」


「わかってる。だから、カイルを湯あみに行かせよう。

 大丈夫だ、すぐに戻るから。」


「……。」


やだと言わなかったから私が納得したと思ったのだろう。

クリスに渡されるようにされ、そのままクリスは私を寝室へと連れて行く。


「すぐに戻るよ。笑っちゃうくらい、すぐに来ると思うぞ。」


「ほんとう?」


「ああ。数えて待っていようか。」


「うん。」


冗談だと思っていたら、寝台に私を寝かせた後、クリスは数え始める。

カイルが寝室に転移してきたのは、百三十秒を越えた時だった。


「…待たせた。」


「遅ぇ。百三十も数えただろう。」


「ああ。すまん。」


クリスがいるのと反対側にカイルが入ってきて寝転がる。

左手にクリス。右手にカイル。

離れていたのはたった五日間だけだったのに、ようやく戻って来たと感じる。


「…やっと帰って来た。」


「うん、ごめん。」


「……もう、置いていかないで。」


「…わかった。もう離れないから、安心して。」


「……ぜったい、だよ。…かいる、おかえり…なさ…い」


「…うん、ただいま。」



やっと日常が戻って来た。

二人がそろって、ようやく安心できる。

両手に温かさを感じて、落ち着くなぁって思ったら、

夢も見ないほど深く眠りに落ちていた。



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