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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「……素では僕なんだな。」


ぼそっとカイルがつぶやいて、イシュラ王子が慌てた。


「あ!すみません!…公式の場に出る時は私と言ってるのですが…。」


「あぁ、そういえば僕って。

 たしかに公式の場では気を付けたほうがいいと思うけれど、

 今は普通にしていいわよ?」


「え?だって、今は公式の場では……」


「エミリアの婚約者としてこの国に住むのでしょう?

 公式の場と言えるのは、陛下の謁見と夜会の時くらいなものよ?

 それほど気にしなくてもいいわ。

 私とも義理の従兄弟になるのだし、クリスとカイルとは義理の兄弟になるのよ?」


「え?」


調べて来たとはいっても、この国の戸籍までは調べてないらしい。

まぁ、そうそう他国のものが調べられるものではないけれど。


「クリスとカイルはフリッツ叔父様の養子になっているの。

 私と婚約する時に生家と縁をきるためだったのだけど、

 今では家族のように親しくしているのよ。」


「ええ?エミリアのお兄様?」


クリスとカイルを見て、また驚いているイシュラ王子にクリスはニヤニヤと笑う。


「クリス兄上と呼んでくれていいぞ?」


「あぁ、兄と思ってくれていい。エミリアは妹だと思っているからな。」


おもしろがっているクリスとは反対ににこやかに答えるカイル。

二人を見比べていたイシュラ王子だけど、

意味を理解したのか真っ赤になって小声で言う。


「あの…クリス兄上、カイル兄上、よろしくお願いします……」


「あぁ、何か困ることがあったらすぐに言えよ。」


「手のかかりそうな弟が増えたか。

 まぁ、一人くらい増えても困らないけどな。」


どちらもうれしそうだけど、クリスはいつも通り素直じゃない。

慣れたら優しいのはクリスのほうだけど、これは慣れるまでは仕方ない。


エディとアルノーもいるし、

イシュラ王子がユーギニスで暮らすのに困ることは無さそう。


「イシュラ王子、困ることがあったらこの三人に相談するといいわ。

 この国で一番頼りになる三人だから。」


「はい!ありがとうございます!」


「じゃあ、同盟の条件とかを確認して、

 あとはダグラスと文官たちに任せましょう。」


「はい!」


同盟の条件はさきほどエンゾ国王と話していたこともあって、特に問題はなさそうだ。

条件をのむかどうかは、相手国と親しいかで判断することが多い。

お互いの価値観が似ていると感じたこともあるし、

ルジャイルの文官があらかじめ用意してくれていた書類を見ても、

ユーギニス側から同盟を求めたとしても同じ条件を出すと思われるものだった。


結果的にそれほど時間もかからずに合意し、

そのあとの手続きはダグラスと文官たちに任せることになる。

このまま会議室で仕事を進めると言うので、私たちは応接室に戻ることにした。


応接室に戻り、中に入ろうとすると警備していた近衛騎士に声をかけられた。


「中でエミリア王女がお待ちしています。」


「エミリアが?」


そういえば授業が終わり次第顔を出すように連絡しておいたんだった。


「イシュラ王子、エミリアが来ているみたいで……あれ?」


エミリアが来ているようだと教えるために振り返ったらイシュラ王子がいなかった。

その代わり、応接室の中から声が聞こえる。


「エミリア!エミリア!ようやく会えた!!」


なんで後ろにいたはずのイシュラ王子の声が、

まだ扉を開けていない応接室の中から聞こえるんだろう…。


「…えええ?」


「あいつ、転移したな。」


「まったく…他国の王宮で転移とか、ここじゃなかったら処罰もんだぞ。」


カイルとクリスもイシュラ王子が転移したことに気がついて顔をしかめた。

イシュラ王子ほどの魔術の使い手なら転移できることに疑問はないけれど、

国によっては王宮内は魔術の使用禁止になっているところもある。

ユーギニスでも理由なく使用することは禁止になっている。


ため息をつきながら応接室の扉を開けると、

エミリアに抱き着いているイシュラ王子に脱力しそうになる。


エミリアとイシュラ王子では頭一つ分以上に身長が違うので、

身体の小さいエミリアがすっかり隠されてしまっている。


「もう、イシュラ!わかったから離してってば。

 もう私だって八歳のこどもじゃないのよ。」


「わかってるよ。やっと会えたんだから、もう少しだけ。」


「もう~ほら、また泣かないで。ハンカチで顔拭いて!」


「…うん。エミリア…変わってないね。」


「それはイシュラがでしょ。泣き虫なんだから~。しょうがないなぁ。」


二人の会話がどことなくおかしい。

さすがに転移は注意しようと思っていたのに、もういいかと思ってしまう。


「…あ、ユナ。お茶淹れてくれる?あとお腹空いたから焼き菓子もお願い。」


「ソフィア様、料理長が今日のソフィア様はお疲れに違いないと言って、

 氷菓を用意していました。氷菓もお持ちしますか?」


「本当?うん、両方お願いね。」


さすが料理長。

イシュラ王子に初めて会っただけでなくエンゾ国王と話したことで精神的に疲れている。

甘いものが欲しいなと思っていたところだった。


そろそろいいかなと思ってソファに座ろうと声をかけようとした。


「ねぇ、二人とも…」


「あぁぁ!!イシュラ!お前何やってんだ!」


私の声をさえぎるように叫んでエディが部屋に飛び込んできた。

後ろからアルノーも入ってきたが、エディを止められずにいる。



「あ、エディ。アルノーも久しぶりだね!」


「いいからエミリアを離せ!」


「エディ、ちょっと落ち着けって。」


エミリアを抱きしめたままのイシュラ王子を離そうと腕をつかんだエディに、

穏便に止めようとしてアルノーがおろおろしている。


「……お兄様、ちょっと声がうるさいです。」


イシュラ王子の腕の中からエミリアが冷たく言い放ち、エディの動きが止まる。


「え、エミリア。だって、いくらなんでもこれはないぞ?」


「わかってます。イシュラ、いいかげん離して。

 これじゃあ落ち着いて会話できないわ。」


「……わかった。じゃあ、隣に座っていい?」


「いいわよ。」


どうやら話はついたようで、イシュラ王子がエミリアを離した。

それを見てエディもアルノーもほっとため息をついている。


「……もう、いいかな。ソファに座ってお茶を飲まない?」


「「「「あ。ごめんなさい。」」」」



もう怒る気も無かったけれど、後ろでクリスが冷たい微笑みを浮かべている。

カイルは苦笑いしているだけだが、二人を見て冷静に戻ったらしい。



「これからずいぶんと騒がしくなりそうね。

 ほら、料理長が氷菓を用意してくれたわ。みんなで食べましょう?」





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