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「ダグラス、急ぎだけど大事な仕事なの。手が空いてるかしら?」
「空いているわけじゃないけど、空けるよ。大事な仕事なんだろう?」
「うん、じゃあお願いする。」
執務室の中にいくつかある会議室に入り、イシュラ王子にダグラスを紹介する。
そういえばクリスとカイルも紹介していないのを思い出した。
会議室に全員が入るのを待って、三人を紹介する。
「イシュラ王子、今後の事務手続きの責任者になるダグラス・テイラー。
私の王配候補、婚約者よ。」
「イシュラです。お願いします。」
「イシュラ王子、ダグラスと申します。
今は執務室で働いてますが、ソフィア様が女王になる際には王配になる予定です。」
とりあえず、ダグラスはこの後で同盟の手続きをしてもらうことになる。
一番先に紹介すると二人は固く握手を交わす。
ダグラスには同盟についてはまだ説明してないけれど、
ルジャイルの王子とエミリアが婚約する予定だというのは話してあった。
「ダグラス、イシュラ王子は婿入りしてくれることになったの。
それで、王族同士の結婚を機に同盟を結ぶことになったわ。
ルジャイル国からはイシュラ王子だけでなく、
すみやかに書類を作成するために国王付きの文官も同行してきてくれている。
同盟に関する書類を彼らと一緒に作成して、早めに同盟を結びたいの。
お願いできるかしら。」
「あぁ、急ぎの仕事ってそういうことだったんだ。
エミリア王女の婚約だけかと思った。」
「あ、うん。そっちも同時にお願いするわ。
イシュラ王子はこのままユーギニスに滞在して、
こちらの学園にエミリアと一緒に通うことになったから。
……書類、大変だと思うけど、任せてもいいかしら?」
ずっと忙しい執務室で働いているダグラスにお願いするのは申し訳ないけれど、
同盟に関する書類をその辺のものに任せるわけにはいかない。
王配候補のダグラスが責任者になってくれれば、誰からも文句がでないはずだし、
何よりも信頼している者でなければ任せられない。
「あー大変だけど、それだけ信頼されていると思えばうれしいよ。
イシュラ王子、これからよろしくお願いしますね。」
「はい!私たちのことでご迷惑おかけすると思いますが、よろしくお願いします!」
二人の顔合わせは問題なく終わり、この後事務手続きに入ってもらう前に、
クリスとカイルもイシュラ王子に紹介する。
「イシュラ王子、第一王配のクリスと第二王配のカイルです。
私が女王として即位したら、私と同等の立場になります。
ダグラスも即位時には第三王配になる予定です。」
「クリスだ。よろしく頼む。」
「カイルだ。何か困ったことがあれば言ってくれ。」
「……。」
二人を紹介したら、イシュラ王子は驚いたのか口が半開きになったまま返事が無い。
あまりに反応がないものだから、大丈夫なのか心配になる。
「イシュラ王子、大丈夫?」
「……あ、ああ!大丈夫です!すみません!」
もしかして夫が三人になることに衝撃を受けた?
ルジャイルは生涯一度しか結婚しないと言っていた。
三人も結婚することに嫌悪感があるかもしれない。
…… 信じられない。王女って、そういう人なの?
見目のいい男を侍らかすために三人も結婚するなんて!………
あぁ、そういえばカイルの異母妹には否定されていた。
ふしだらって言われたんだった。
王族の男性なのに一人の妃しか娶らないルジャイル国にしてみたら、
信じられないくらいふしだらなのかもしれない。
「あ、あのね、イシュラ王子……三人も夫がいて信じられないかもしれないけれど…」
「あ、そうじゃないんです!すみません!ぼうっとしてしまって。
僕はこの国の人間になる覚悟で来ています。
ちゃんとユーギニスについて調べてきました!
女王が即位するための条件もちゃんとわかってます!
それを否定する気はまったくありません!」
慌てたように否定されたけれど、気をつかわれてしまったんだろうか。
まだ少年の王子に嫌な思いをさせてしまったのではないかと不安になる。
「そう……でも、何かあれば言ってね?」
「大丈夫です。というか、国によって文化が違うのはよくわかっています。
何より、それを理解しないで暴れていた王女を知っていますから。
僕はあのような礼儀知らずではないと思っています。」
まっすぐ私を見て答えてくれるイシュラ王子に、ごまかしているような感じはしない。
理解してくれているというのなら、本当にありがたいと思う。
「そう、ちゃんとこの国をわかろうとしてくれるのはうれしいわ。」
「はい!僕はこの国で死ぬつもりですから!」
「え、あ、そう?」
「はい!」
相当な決意で来てくれたのかと思ったが、それだけエミリアが大事なのだろうと思う。
ここに移動する前にエミリアにも連絡するようにお願いしてあった。
顔合わせが終われば会わせてあげられると思う。
「……素では僕なんだな。」
ぼそっとカイルがつぶやいたのが聞こえたのか、イシュラ王子が慌てた。




