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「叔父様が心配するのは当然です。
でも、エミリアは喜んでました。これを見てくれます?」
「エミリアが喜んでいた??」
ルジャイルから来た書簡を渡すと、叔父様はすぐに読み始める。
その顔がだんだん緩んで、最後は大笑いしている。
「叔父様?」
「ふはっ。ふははっ。あぁ、悪い。つい、笑ってしまって。」
「イシュラ王子がエミリアの待っていた王子様なんですよね?
帰国する時に迎えに行くと約束していたそうなのですが。」
「あいつ、そんなこと言ってたのか。なるほどなぁ。」
「ココディアで知り合ったのですよね?」
確認のために聞くと、真面目な顔に戻り説明してくれる。
「ああ。当時はルジャイルの第三王子とその家族だった。
母国に王太子の兄と第二王子がいるからと、ココディアへ大使としてきていた。
俺たちと同じだな、人質外交だ。」
「第三王子、ですか?」
「そうだ。だが、途中で第二王子家族が亡くなり、帰国することになった。
第二王子というのは兄ではなく、従兄弟だと言っていた。
ルジャイルは王太子の子がそのまま国を継ぐのではないんだ。
王族の子はすべて平等に扱われる。その中で一番優れている者が王太子となる。」
「王族の子がすべて平等というのはめずらしいですね。」
「そうだな。王太子以外の王子を王族に残すのはそれほどめずらしくないが、
その場合は王太子に子が産まれたら俺のように王位継承権を放棄するのが普通だ。」
「そうですよね。王位争いが起きかねないですもの。
でも、ルジャイルではそうならないのですか?」
「いや、争う。といっても、優秀さで競うのが通常だ。
今までソフィアにこの話をしなかったのは、
ルジャイルの第二王子が亡くなった理由がひどかったからだ。」
「ひどい?」
今までそれほど交流してこなかったルジャイルの話は、
他国の王族である叔父様にはあまり知らされていないのかと思っていた。
どうやら叔父様はルジャイル王家の事情を知るくらい親密らしい。
だけど、ひどかったから私には言わなかったなんてどういうことなんだろう。
「第二王子に嫁いだ妃が自分の子を次の王太子にしようと、
王太子の子を毒殺しようとしたらしい。
とても優秀だから、その子が次の王太子になると言われていたそうだ。
幸い、毒を飲まされた子は無事だったが、それに気がついた第二王子が、
責任を取ると言って、妃と子を自らの手で殺し自身も毒を飲んで死んだ。」
「……なんてことを。」
「だが、王族殺しは発覚すれば処刑だ。
毒をもったとわかれば、免れないだろう。
処刑されるくらいなら自分の手でと思うのもわかる。」
ユーギニスは王位争いらしい争いはあまりない。
けれど、エドガー叔父様やイライザは私を殺そうとしていたのだし、
少し何かが違えば結果は変わっていた。
私が殺されていたとしたら、エドガー叔父様は一家で処刑されていたはずだ。
処刑の方法は国によって違うはずだが、
重罪になれば見せしめのように苦しませてから処刑されることが多い。
そう思えば、苦しませないように自らの手でということなのかもしれない。
「そんなことが…それで第三王子の家族はルジャイルに戻されたんですね。
イシュラ王子がどんな王子だったか覚えていますか?」
「そうだな。
ココディアからルジャイルに戻ったのは、今から十年前だった。
だから、その時のイシュラは四歳。エミリアは三歳。
その時はただの仲のいい幼馴染だった。」
「そんなに幼いころにルジャイルに戻ったのですか?」
「ああ。だが、その一年後。
兄上たちは離縁しただろう?
そのおかげで俺たちはココディアから外に出られた。」
お父様とお母様が離縁し、お母様がココディアに戻ったことで、
人質だった叔父様家族はココディアに居続ける必要はなくなった。
だが、それから数年はお祖父様の命令で他国をまわって外交していた。
「ココディアの代わりに魔石を輸入できる国を探してこいって、
父上に言われて周辺国をいろいろと回った。
魔石が取れる鉱山は秘密にされていることが多いし、
同盟国でもないのに急に輸出してほしいとお願いしても断られる。
貴重な魔石を自国だけで消費している国も多い。
交渉しても何か国かダメで、ルジャイルにもダメもとで行ったんだ。
イシュラの父、ダガルとは仲が良かったから、半分会いに行くのが目的でな。」
「そこで再会したんですね。」
「そうだ。再会したのは二年半ぶりだったかな。
イシュラのほうはエミリアを覚えていたが、エミリアは忘れてしまっていた。
それでも二人は会ってすぐにまた仲良くなって、ずっと一緒にいたよ。
エディとアルノーが嫉妬するくらい、二人は一緒にいたんだ。
俺たちがユーギニスに帰る時、イシュラは本当に悲しそうにしていた。
それでもイシュラも王族だ。帰らなければいけないのは理解していた。
たった九歳の王子だが、とても賢い子だった。
泣くのをこらえていたが、迎えに行くと約束したのはその時だろう。
エミリアのほうは帰国するという意味をよくわかっていなくて、
笑顔で挨拶していたがなぁ。」
「あーなるほど。エミリアのほうは想像できます。
先ほど王族の子はすべて平等で、そこから王太子が選ばれるといいましたよね?
できればイシュラ王子には婿として来て欲しいのですけど、難しいでしょうか?」




