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次の日、朝食の最中に叔父様が王宮に着いたことを知らされた。
叔母様に止められても聞かず、朝まで待つのが限界だったようだ。
「…叔母様が呆れている顔が浮かぶわ。」
「こうなるのも仕方ないだろう。
義父上はエミリアを王宮に住まわせることも嫌がってたくらいだしな。」
「そう言ってもねぇ。王位継承権を放棄した叔父様はともかく、
エミリアは王宮にいてもらわないと困るし。
離宮で王女教育するのは難しいんだよねぇ。」
早く食べてしまおうとパンをもぐもぐしながら、カイルと叔父様について話す。
私が王太子に指名された後、ユーギニスに戻って来た叔父様は王位継承権を放棄した。
そのため王位継承権を持つのは三人しかいない。
私に何かあればエディかエミリアが国王にならなければいけなくなる。
どちらも王宮に住んで王族教育を受けてもらわなければいけない立場だった。
叔父様もその辺は重々承知だと思うけれど、
まだ九歳のエミリアを親元から離して王宮に住まわせるのは良い顔をしなかった。
そのためしばらくは叔父様と叔母様が王宮と離宮を行き来していたが、
エミリアが十二歳になって公務を始めるようになると、
本格的に離宮に移り住んでしまった。
でもやっぱりエミリアのことが心配なのだと思う。
娘の婚約話と言われ、こんなに早く王宮にきてしまったくらい。
朝食を終え執務室に向かうと、奥の休憩室で叔父様が待っていた。
リサが応対してお茶を淹れてくれてたが、
テーカップの中身がもうすでに無くなりそうだった。
「リサ、お茶をお願い。叔父様にも。」
「かしこまりました。」
「叔父様、おはようございます。」
「……すまない。早すぎたな。」
やってしまったという顔をしている叔父様に笑いそうになる。
金髪紫目の叔父様は、お父様と色はまったく同じなのに、表情は全然違う。
やる気のない無表情だったお父様と、穏やかな微笑みを絶やさない叔父様。
三兄弟とも気が合わなかったらしく、お互いに関わろうとは思わなかったそうだ。
と言っても、私もお父様とエドガー叔父様とはほとんど話したことが無い。
叔父様と話すとほっとするし、他国の情勢に関しては叔父様が一番詳しいため、
ココディアと揉めた時には何度か相談もしている。
ルジャイル国に魔石の輸入の件を取り付けてきてくれたのも叔父様だった。
ルジャイル国に親しい者がいるというのは聞いていた。
それが王弟だとは知らなかったけれど。
「いえ、叔父様がエミリアの婚約と言われたら、
こうなるって想像できたはずでした。
朝早いと言っても、もうすぐ始業時間ですし、大丈夫です。」
「そうか…で、相手は誰なんだ?
公務を始めたし、申し込みが来てもおかしくはないとは思っていたが…。
降嫁を申し込めるのはバルテン公爵家あたりか?」
そういえばクリスの弟デニスがまだ結婚していないことを思い出す。
公爵領を立て直すのが大変で、今はそれどころではないらしい。
エミリアを降嫁させるとしたら、身分的にあうのはデニスなのは間違いない。
「いいえ。国内貴族じゃありませんでした。」
「国外だと!ココディアじゃないだろうな!」
国外だと言われ、思いつくのはココディアだろう。
前王までのココディアなら、もう一度婚姻による同盟をと言い出しかねないからだ。
焦りが頂点に達したのか、立ち上がった叔父様にクリスが口を挟む。
「義父上、話が進まないから落ち着いてください。」
「…うう。だけどなぁ、クリス。お前なら気持ちわかるだろう。
カイルも。お前たちにとっても義妹だろう?」
「義父上の気持ちはよくわかってますよ。
だけど、ソフィアがエミリアを泣かせるようなことすると思ってるんですか?」
「……しないな。」
「だったら、まずは黙って話を聞いてください。」
「わかった…ソフィア、説明を頼む。」
クリスとカイルは叔父様の養子になってから、きちんと交流をしていた。
エディとエミリアは二人を兄と呼ぶし、叔父様と叔母様は二人を息子扱いしている。
家族というものにあまり縁のなかった二人だが、少しずつ仲良くなっていき、
今では親子らしい会話をするようになっている。
忙しいのでたまにしか会うことは無いが、二人が溶け込んでいるのを見ると、
私もなぜかうれしい気持ちになる。
「叔父様が心配するのは当然です。
でも、エミリアは喜んでました。これを見てくれます?」
「エミリアが喜んでいた??」




