17(カイル)
「お前さえいなかったらお母様は生きてたんだ。」
「……。」
久しぶりに二の兄様に話しかけられたと思ったら、そう言い捨てられた。
何も言い返せず黙っていたら、石を投げられた。
大き目の石がこめかみにあたって、血が流れるのがわかった。
「ちっ。」
さすがに血を流す俺をみてやばいと思ったのか、二の兄様がどこかに行く。
そのまま呆然としていたら、現れたのは義母様だった。
「…あら。どこかで暴れてきたの?
その色…本当に気味が悪いわ…早く部屋に戻りなさい。」
怪我をしているというのに心配されることも無く冷たく言われる。
慣れてはいるが、これ以上何も聞きたくなくて部屋に戻る。
部屋に戻ったところで治療する薬もない。
手のひらをあてて魔力を流すと、血が止まるのがわかる。
ちゃんとした魔術を習えればいいのだが、その許可が下りない。
辺境伯領地に産まれたものは女子だとしても剣術を習うのに、
俺にはその許可も下りない。
仕方なく資料庫にあった昔の本をながめる。
辺境伯領地が今とは別の国に仕えていたころの資料。
埃をかぶって放置されていたものを私室に運んだ。
私室には誰一人近寄らないから、それを咎められることも無かった。
おかげで勉強する時間と本だけは豊富にあったけれど、
学園に入る十五歳まで俺はいないものとして扱われた。
学園に入ると、俺はすぐに有名になった。
入学時に魔力鑑定され、全属性使える上に魔力量が人の倍あったからだ。
それなのに何一つ魔術を使えない俺を不憫に思ったのか、
いや、面白いと思ったのか魔術教師のライン先生が面倒を見てくれた。
毎日毎日、寮の門限ぎりぎりまで魔術を習う。
目的なんか無かったけれど、誰かに必要だと言ってほしかった。
もしかしたら、俺が役に立つとわかったら、
辺境に帰って来いと言ってもらえるかもしれないと。
学園の卒業を前に首席で卒業することがわかったが、
父様から迎えをやるという手紙はこなかった。
卒業後どうしようか、もう貴族をやめて冒険者になろうかと思い始めた頃、
ライン先生から誘いを受けた。王宮で働いてみないかと。
誰かに誘ってもらえたのは初めてで、迷ったけれど話を受けることにした。
ライン先生が誘ったのは俺だけじゃなく、同じ卒業生のクリスもだった。
公爵家のクリスと話したことはあまりなかったが、
クリスは成績もよく魔術も得意なわりに一人でいるタイプだった。
俺と少し似ている…そう思っていたからか、一緒に働くのも悪くないと思った。
王宮で陛下に謁見して、そこで俺たちの仕事がわかった。
「たった一人の王女ソフィアが公務をする十二歳になったら、
専属護衛騎士をつけることになる。
クリスとカイルはその時まで影について学べ。
今年ソフィアは七歳になる。
十二歳になるまでの五年間は影について修行し、
専属護衛騎士となった際には二人でソフィアの隣に立ってもらう。」
「「はっ。」」
五年間修行して、王女の専属護衛騎士に。
おそらくこれ以上ない名誉なのだろうけど、面倒なことになったと思った。
ハズレ姫。それが王女の評判だったからだ。
我儘で乱暴で、使用人たちの言うことは全く聞かない。
すぐに暴れて物を壊すために、予算が追い付かない。
ドレスを作っても気に入らないと、すぐに違うドレスを作らせる。
王女教育は嫌がって全く受けようとしない。
あんな王女が将来の女王になれるわけがない。
なったらこの国は終わるとまで言われていた。
「あーあ。まいったな。あの有名なハズレ王女の護衛か。
まぁ、五年後の話だし、影の修行は面白そうだからとりあえず受けるけど、
カイルはどうする?」
「…受けるよ。」
今さらこの話を断ったとしても行き場所なんて無い。
だったら、クリスが言ったように影の修行も面白そうだ。
そう思って影の下について半年。
急に呼び出されたと思ったら、意外な任務につくことになった。




