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「…男の人は自分の子が欲しいはずだって言われたの。
私が産むと、どちらの子かわからないと思われているでしょう?
確実に自分の子だとわかる子も欲しいのではないかって言うのよ。
そう言いだす夫人が一人いると、周りもそうだって同調するのよ。
あぁ、男の人ってそうですよねって。」
「俺もそう言うと思った?」
「…私が大事だと思ってくれる気持ちを疑ったことは無いけど、
もしかしたら子どもが欲しいっていう気持ちはあるのかもしれないって思って。
だとしたら…私は応えてあげられないって思って…。」
私が子を産みたくないというのは私のわがままでしかない。
カイルは優しいから、私が嫌だって言えば無理に産んでほしいとは言わない。
いつでも私がしたいようにさせてくれる。
だけど、それは本当にカイルの気持ちなんだろうか。
そう思って不安になっていたから、昨日の夜に聞いてしまったのだ。
「…正直言って、俺は変わっているんだと思う。
普通の男とは会話が合わない。」
「え?」
「王宮に来た当初も娼婦を買いに行こうと誘われても、まったく興味なかった。
女の子と飲みに行こうと言われても、ずっと断っていたら変な顔された。
どの令嬢が好みなんだと聞かれても、俺には全部同じに見える。
ソフィアだけが大事なんだ。
いろんな令嬢と遊んでみたいとか意味が分からない。」
「まぁそうだろうな。俺自身も欠けている人間だと思うが、
カイルもある意味欠けているよな。
そこに入っていけるのは姫さんだけなんだと思う。」
「そういうことだな。普通の男としての感覚が欠けているんだと思う。
子どもがもし生まれたとしても、自分の子だからというよりも、
ソフィアの子だから可愛がりそうな気がするんだ。
だから、自分の子が欲しいなんて、これまで思ったことも無い。」
「…そっかぁ。」
真面目な顔で考えながら答えてくれるのを聞いて、なんだか気が抜けてしまう。
自分で思っていた以上に悩んでいたらしい。
にこにこと笑いあうお茶会で言われたことは、後からジワリと効いてくる。
善意という形で傷つけられているとわかっていても、何も反論はできない。
自分の子が欲しいと願う気持ちは誰にでもある、もちろん王配にも。
男の人ってそう思うものですからね。お二人もそう思うでしょう。
それを我慢させるのはお可哀そうですわ。
そう言われて、何を言い返せただろう。
でも、王配とひとくくりにされても、カイルとクリスは同じじゃない。
それに夫人たちはカイルもクリスもほとんど話したことが無い。
カイルとクリスのことを誰よりも知っているのは私だったのに。
「やっぱりお茶の間も俺たちどちらかがそばにいるべきだったか。」
「いや、ディアナ妃のお茶会は女性しか入れない。
お茶会で言い返すのは無理だろう。」
「二人ともありがとう。大丈夫。
違うんだってわかったから、もう何言われても平気だよ。」
不安に思ってしまったけれど、違うのがわかったからもういい。
これからは何を言われても笑顔で流してしまえばいい。
女王になる私に命令できる者はいないのだし、
善意で押し付けられたとしても断れば済む話だ。
「どうやって断る気だよ。女王の権力とか言うなよ?」
「そのくらい許してもらえるよ。
王配は私だけのお気に入りだからダメ、とかいえば。」
「まぁ、許されるだろうが…なぁ?」
少しくらい角が立ったとしても、断らなければ面倒なことになりかねない。
そう思ったのに、二人は目を合わせてうなずいた。
何か問題があるんだろうか?
「俺に考えがあるから、まかせておけよ。
カイル、愛人の申し込み来ているだろう?」
「送り返すようにデイビットに言ってあるけど、来ているだろうな。」
「こんな風に返事をかえしてやろう。」
二人だけで笑いながら相談しているけれど、私はまだ身体が痛くて動けない。
何か企んでいるんだろうなぁと思いながらもまたうとうととしていた。
後日、クリスへの愛人の申し込みの返事を読んだ貴族家は驚いた。
そこには愛人を受け入れる条件として、
「カイルよりも強いこと。」と書かれていた。
一方、カイルへの愛人の申し込みの返事は
「クリスよりも美しいこと。」と書かれていた。
ユーギニスで一番の魔術の使い手で剣術でも騎士団長よりも強いカイルより、
強い令嬢などいるわけがない。
ユーギニスどころかこれだけ美しい男性は、
どこを探してもいるわけがないと言われているクリスよりも美しいと、
手を上げられる令嬢がいるわけがなかった。
王配二人の愛人の条件はすぐさまお茶会で話題となり、
カイルとクリスの愛人になれるものはいないと盛り上がった。
ただ一人、ディアナ妃だけはその話を聞いて納得して微笑んだ。
「カイル様より強いのはソフィア様です。
もちろん、クリス様よりも美しいのも。
あのお二人の相手はソフィア様ただ一人ということですわね。」




