165
目が覚めた時にはとうに朝食の時間を過ぎ、もうすでに昼近くになっていた。
「…姫さん、大丈夫か?」
「…ぃ…。」
起こしに来たクリスから聞かれ、無理と言いたかったのに声が出なかった。
昨日の夜というか、今朝までカイルに寝かせてもらえなかった結果、
身体中痛くてだるいし、声が出ないくらい喉がかれていた。
「あぁ、うん。無理に話そうとしなくていいから。
薬湯飲めそうか?」
起き上がろうとしたら、カイルが抱きかかえて起こしてくれる。
すぐにクリスがコップを口に近づけて薬湯を飲ませてくれた。
冷やされた薬湯が喉をとおっていき、少しだけ痛みが落ち着いてくる。
「これじゃあ、今日は起き上がるの無理だな。
昼食も食べやすいものにしてもらってあるから。
カイル…壊すなって言ったよな?」
「………悪い。」
「手加減しろっていつも言ってるだろう?
姫さんはお前と違って体力ありあまってるわけじゃないんだぞ?
体格差があることも理解しておけ。」
「…いや、わかってはいるんだが…。
ソフィアが俺の気持ちを疑うようなことを言うから…つい。
ちゃんとわかってほしくて…。」
「はぁぁぁ。カイルの気持ちはわからないでもないが。
あの後でちょっと考えてみたんだが、
姫さんがカイルの気持ちをわかってないとは思えない。
だとしたら、誰かによけいなことを吹き込まれてないか?」
「誰かに吹き込まれた?」
「たとえば、仕事が忙しくてまともに相手できないんじゃないか、とか。
ちゃんと自分の子だとわかる子どもも欲しいと思うのが普通だ、とかかな。」
…当たってる。
クリスの言ったことはすべて当たっていて、思わず目をそらす。
「ソフィア…誰に言われたんだ?」
「姫さん?ご飯食べて落ち着いたら話してもらうからな?」
「……ぅぅ。」
二人から圧をかけられて、仕方なくうなずく。
こうなると思ったから知られないようにしていたのに。
運ばれてきた食事は煮込まれた粥だった。
粥の中に入っている肉は湯がいた後細かく裂いて、また煮込まれている。
少しだけ薬草も入っていて、ゆるく玉子でとじられた粥を、
クリスが匙ですくって食べさせてくれる。
食欲はなかったけれど、食べ始めたらお腹が空いていることに気がついた。
途中で茶色い酸味のあるたれをかけると味が変わり、
さっぱりとしてまた食べたくなる。
運ばれてきた時にはそんなに食べられないと思ったのに、
あっという間に食べ終わっていた。
「…ごちそうさまでした。」
「うん、じゃあ、説明してもらおうか。まず、どこで誰に言われたんだ?」
「俺たちがそばにいない時なんてめずらしいだろう。
必ずどちらかいることにしているんだからな。
二人ともそばにいなかったのはお茶会の時だけだ。
その時に出席していた令嬢たちにでも言われたんじゃないのか?」
「……半分正解。
エミリアの友人を作るためにディアナが開いたお茶会の時よ。」
昨年十二歳になって公務をし始めたエミリアのために、
ディアナが同世代の令嬢を呼んでお茶会を開いたのだ。
私は国王代理の仕事が忙しいので、ほんのたまにしか出席できないが、
妹のように思っているエミリアのために、できるかぎり顔だけでも出している。
「エミリアの友人の令嬢たちって、まだ十二か十三歳だろう。
そんな令嬢がソフィアにそんなことを言うのか?」
「違うわ。私に何か言ってくるのはつきそいでくる夫人たちよ。
エミリアの友人たちの母や姉が言ってくるのよ。
お子ができるのが待ち遠しいですね、ソフィア様のお子はもちろん、
クリス様とカイル様も至宝の方ですから。
あぁ、ソフィア様はお忙しいですから、そう何人もお産みにはならないですよね。
代わりにうちの子はいかがでしょうか。
お二人を慰めるために利用していただいてかまいませんわ。とかね。」
問題は令嬢ではなく、そのつきそいに来ている夫人たちだった。
私が国王の仕事で忙しいこともあり、
子を産む余裕が無くても仕方ないとわかっているらしい。
だが、そのせいでクリスとカイルの相手も難しいのでは、と続くのだ。
それに…子どもを産んであげられないなんてかわいそうだ、とも。
「俺たちはそういう意味ではなんの不満も無いんだがな。」
「カイルは姫さんじゃなきゃダメだし、俺にはもともと夜の相手は必要じゃない。
…公表すれば王配からおろされるかもしれないから言うわけにはいかないが…。」
「…男の人は自分の子が欲しいはずだって言われたの。
私が産むと、どちらの子かわからないと思われているでしょう?
確実に自分の子だとわかる子も欲しいのではないかって言うのよ。
そう言いだす夫人が一人いると、周りもそうだって同調するのよ。
あぁ、男の人ってそうですよねって。」




