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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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161/194

161 ココディア

「お、おい。そこのお前、どこに行く気だ?

 ルジャイル行きの馬車はそっちじゃないぞ!?」


「うるさいわね!ほっといてよ!」


栗色の髪を一つに束ねたふくよかな女性がフラフラと歩いていくのを見て、

親切心で声をかけた王都外れの警備を担当していた騎士に、

女性はき捨てるように言ってそのまま逆方向に向かって行く。

その方向はユーギニスへの国境だった。


もう二年以上も国境は封鎖されていて、ユーギニスに入国することはできない。

だから女性が国境に向かう道を歩いていこうとしているのを見て、

騎士が止めてあげたのだった。


「…あれ、大丈夫なのか?」


「いいさ、ほっといて。」


「団長!」


ほっといてと言われた後も心配して見送っていると後ろから声をかけられた。

自分が所属している騎士団の上の上の上司だった。

一度も話したことのないような雲の上の団長に話しかけられ、

すぐさま敬礼をして指示を待つ。


「ああ、いいよ。楽にして。」


「はっ。」


「あの女を気にしていたようだったから、ほっといていいと言ったんだ。」


「で、ですが…ユーギニスに向かっても入国できませんし、

 今あのあたりは荒くれ者たちが村を作り始めていて…

 女性が一人で向かうのは危険な場所です。」


「それも全部あの女には言ってある。」


「え?」


「今、向こうに行けば危険だと説明してあるんだ。

 だからルジャイル行きの馬車乗り場の近くで解放したんだがなぁ…。

 やっぱりこうなったか。」


騎士は思わずどうして?と驚きを顔に出してしまう。

あの女性はどう見ても二十代で、一人旅をするような格好でもなかった。

ユーギニスと国交断絶して以来、ココディアは治安が悪くなるばかりで…。

女性が一人旅などしていたら、すぐにさらわれて売り飛ばされてしまう。

知らずに行こうとしているのだと思い注意したというのに、

団長が説明したというのならなぜ?


「あれなぁ、ユーギニスの元貴族令嬢らしい。」


「ええ?…そうは見えませんでした。」


「だよなぁ。俺にもそうは見えなかったが。

 それに貴族といっても国外追放の罪で魔力封じの首輪をつけている。」


「は?」


「だから結界の壁がなくたってユーギニスには入国できないって説明したんだ。

 だけど、まったくいうこと聞かないんだよ。

 あのまま屋敷に幽閉されていれば…死ぬまで面倒見てもらえたっていうのにな。

 子どもを置いてまで…どこに行くんだか。」


「はぁ…。」


あまりのことに騎士は考えるのをやめた。

自分のような平民が関わっていい相手ではなかったらしい。

国外追放の罪を犯すような貴族令嬢に関わっていいことなど何もない。

団長にもう一度礼をすると自分の持ち場へと戻っていった。



「…今の自分の状況が何もかも受け入れられなかったんだろうなぁ。」


団長はその元貴族令嬢、イライザを見送るためにここにいた。

自分が関わった者が解放されると聞いて、最後までつきおうと思ったからだ。


第三王子の子を宿した公爵令嬢だと聞いていたが、

ココディアに来た時は暴れるからと魔術で眠らされていた。

その後も暴れて仕方ないからと出産まで拘束されたままだった。


産まれたのは男の子だったが、イライザは一度も腕に抱こうとはしなかった。

名前すら聞かず、母乳も与えず、子どもは乳母たちが育てていた。

ぼんやりと過ごし、時折暴れて泣き叫んでいた。

第三王子の子を産んだ公爵令嬢として、利用されるだけ利用され、

最後まで幽閉されることになるのだろうと思われていたが…。



ココディアの国王が変わり、第三王子とイライザ、その子どもは、

また違う屋敷に幽閉されることが決まった。

捕まえられた元王妃と元公爵、イディア元公爵令嬢も一緒に。


それを嫌がったイライザは出て行くと言い張って、結果出て行くことになった。

ココディアの国民として籍のないイライザをこれ以上監禁することはできないと、

新しい国王が判断したからだった。


元王妃が認めなかったことで、イライザと第三王子の婚姻は結ばれていなかった。

そのためイライザは国籍のない平民として扱わねばならない。


イライザはそれなりに暮らしていける金を与えられ、屋敷から出された。

この国の状況も説明され、行くのならルジャイル国がいいと教えられたのにも関わらず、

制止されても聞かずにユーギニスへ向かう道を一人歩いていた。

二年も馬車が通らなくなり、草ばかり生えている荒れた道を。


もうすぐ夜になり、何も見えなくなる。

遠くなるイライザの姿もじきに見えなくなっていった。



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