159 結界の壁から二年後 ココディア
「まだ話をつけられないのか!もう二年も過ぎているのだぞ!
何をこんなに時間をかけているのだ!」
「…そう言われても…。」
「あの結界のせいで魔石を売りに出せず、山のように在庫がたまって…。
鉱山の働き手も皆…逃げていき…もう出す金もない!
これではサマラス公爵家は終わってしまう!!」
わなわなと震えながら怒鳴るサマラス公爵に、
国王は小さくなりながらも反論している。
文句をいくら言われても無理なものは無理なのだ。
そもそもこの問題が起きたきっかけ、
ユーギニスの王位を簒奪しようとしたのはサマラス公爵とその姉の王妃だ。
国王はただ言われたとおりに書簡を送っただけ。
文面を考えたのも公爵で、自分は署名しただけなのだ。
それなのに会うたびに怒鳴られるのは理不尽だと思っていた。
今日も言われるままユーギニスに謝罪の書簡を送っている。
毎日毎日、できるかぎり送っているが、一度も返事をもらえていない。
文官にせかされながら、謝罪文を書いて署名して送る。
国王の自分にできることはしている。
怒られてもこれ以上何をすればいいのか、誰も教えてくれない。
「もういい!あの結界を解除するようにユーギニスに命令しろ!」
「え?謝罪ではなく、命令なのか?」
「そうだ!これ以上結界を続けるようなら、
ユーギニスの王族を皆殺しにすると脅すんだ!」
「そんなことを言えるわけがないだろう!?」
国王は一応は王族として教育を受けていた。
国王とはいえ、他国の王族に命令などできないことをわかっていたが、
目の前にいるサマラス公爵のほうが恐ろしかった。
「できないというなら、今すぐ国王の首をユーギニスに送ろう。
さすがに王族が責任を取ったのなら、
ユーギニスも許さないわけにはいかないだろうな。」
「ひぃぃ。」
にやりと笑い、腰に下げている剣に手をかけたサマラス公爵に、
国王は震えあがるしかなかった。
謁見室に剣を持ち込むこと自体、ありえないのだ。
そのありえないことを可能にしてしまう力がサマラス公爵にはあった。
「どうする?私はどちらでもかまわないのだがな。」
「わ、わ、わかっ…」
「そこまでだ。」
あまりの恐怖にわかったと言いかけた国王を止めたのは、
いつの間にか謁見室に入って来ていたレイモン王太子だった。
その後ろに第二王子のダニエルも控えている。
「おや、どうしたんだ、レイモン。」
サマラス公爵は甥のレイモン王太子は自分の味方になると疑っていなかった。
全てを人任せにして、まともな政治をおこなわない国王よりも、
力のある公爵の自分の味方になったほうがいいと判断すると思ったからだ。
現に今までレイモン王太子が自分に逆らったことは無かった。
だが、王太子は愛想笑いもせずに冷たく言い放った。
「セドリック・サマラス。国王陛下への反逆罪でとらえろ!」
王太子の号令で、近衛兵たちが一斉に公爵へと向かう。
驚きながらも剣を抜いて応戦しようとした公爵に、
どこからかわき出た近衛兵たちが容赦なく切りつける。
「うあぁぁぁああ!」
右腕を大きく切りつけられ、剣を落とした公爵を囲むように剣を向けられる。
公爵はぜぃぜぃと大きく息を吐きながら、
血が流れ落ちる腕をおさえ、王太子をにらみつけた。
「レイモン!これはどういうことだぁ!!」
「…まだわからないとは。愚かだな。」
「なんだと!?」
「サマラス公爵。私は王太子だ。そして、父上は国王だ。わかるか?」
「それがどうした!」
「お前は貴族で、私たちは王族だ。その身分差が覆ることはない。
国王である父上を脅し、剣を向けたお前は反逆の罪でとらえられた。」
「は?証拠はあるのか?」
「その剣が証拠だ。謁見室では帯剣は認められていないし、
国王の許可なく抜剣することはありえない。どちらも重罪だ。」
「…そんなくだらないことで私を捕まえると?」
「それをくだらないと言っている時点で不敬だということが、
自分でわからないほど傲慢になったということか。
情けない…曽祖父は素晴らしい公爵だったというのにな。」
「あれは…どこが素晴らしいというんだ!」
戦争を終わらせた祖父をひどく嫌っているのはわかっていて、
あえて目の前で褒めたたえる。
王太子はわざわざ戦争を起こそうとする叔父が許せなかったのだ。
その怒りは身内だからこそ、よけい腹が立って仕方がない。
「もういい。連れていけ。」
「まて!人の話を聞け!レイモン!おい!」
近衛兵に引きずられて公爵が連れて行かれる。
床に血の跡がついていく。命の危険は無いと思うが、重傷には間違いない。
「…た、たすかった…レイモン。」
「父上…これでわかったでしょう。」




