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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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「だから、ここから出てもいい?

 ずっと勇気が出なくて、閉じこもっていたけれど…。

 ソフィアがいてくれたら、外に出られるような気がする。」


「私と一緒に外に?」


「だめ…かなぁ?」


不安そうに見上げてくるリリアに断る理由もなく、手を差しだす。


「いいの?」


「うん、いいよ。一緒に外に行こう。」


本当に外に出ていいのかわからない。

夢の中だとしても、リリアが塔から出たらどうなるか予想できなかった。

それでも、外に出るのがリリアの願いなのならかなえてあげたい。

手をつないで螺旋階段を降りていく。


つないだ手が少しだけ震えている。

…やっぱり怖いんだ。


「…外に出るのが怖い?」


「うん…怖いよ。でもね、ここにずっといるほうが怖いの。

 少し前、声がしたの。見えなかったけど、優しい男の人の声。

 リリアを知っているみたいだった。もう一人にしないよって。」


「男の人の声…?」


そんなことあっただろうか。

現実にあったことではなく、夢の中だけの話なのだろうか。


「ずっと一緒にいるって言ってくれたけど、姿は見えなかった。

 平和になったから塔にいなくてもいいって言ってくれた。

 その人に塔の外に行けば会えるかもしれないって思って。

 …会えても、私は消えちゃうかもしれないけど、

 このままずっと一人でここにいるのはもう嫌なの。」


「そっか…そうだね。

 ここに一人でいるのは嫌だよね。」


その苦しみはよくわかっている。

だからこそ、リリアが消えてしまっても外に出たいという気持ちもわかる。


並んで階段を降りていくリリアの背が私より頭一つ分小さい。

つないでいる手も小さくて、こんなにも子どものままでいたんだと驚く。

私はずっとリリアのままソフィアになったんだと思っていた。


だけど、それは違った。

いつのまにかリリアよりもずっと大人になって、大事な人が増えて、

もう一人でいる時間なんて無いほどそばにいてくれる人がいて。


違うんだ。もう、私はリリアじゃなかったんだ。


「一緒に、扉を開けようか。」


両手で壁にふれて魔力を流せば扉は開く。

それをリリアと私が片手ずつ壁にふれる。

二人の魔力が共鳴するみたいに広がって、扉が開いた。


塔の外はまぶしい光でいっぱいで、目が開けられない。

おもわずリリアの手を離してしまったら、リリアが外に出て行く。


「リリア?」


「…まぶしい。塔の外に出たわ!」


「待って、一人で行かないで?」


「…もう大丈夫。ここからは一緒にはいけないの。」


「え?」



光の中に入っていくリリアが見えなくなる。

まるで光に溶けていくように消えていく。


「またね、ソフィア。いつかまた会えるかな。

 会えたら、楽しかったこといっぱいいっぱい聞かせてね。」


「…リリア。わかったわ。その時にはお茶しましょう。

 焼き菓子を用意するわ。

 甘い蜂蜜が入ったお茶を一緒に飲みましょうね。」


「本当!?うれしいなぁ。約束よ?

 …じゃあ、行くね。」


光が一層強くなったと思ったら、もうリリアの気配はなかった。

…本当に消えてしまった。優しい声の男の人とは会えたのだろうか。






「…どうしよう。全然起きない。」


「ほら見ろ。やっぱり無理させたんじゃないか。

 手加減しろって言っただろう?」


「したよ!手加減!」


「…お前の手加減は信用しない。」


目を開けたらカイルとクリスが言い合いしている。なんで?


「あ、起きた?大丈夫か?」


「ソフィア!」


「…なんで言い合いしているの?」


なぜか寝台で寝ている私のそばで二人は言い合いしていたようだ。

どうやらまた寝坊してしまったのか、部屋は明るくなっている。


「姫さんがいつまでたっても起きないってカイルが騒ぐから。」


「いや、だって、全然起きないし、不安で…。」


「…不安?」


「姫さん、身体は大丈夫?つらくないか?」


「…身体?」


そういえばだるいし、身体のあちこちが痛い。

何かしたかなと昨日の夜のことを思い出して、もう一度布団の中に入りたくなる。


「…やっぱりつらいか。」


「あちこち…痛いぃ。」


私の身体に魔力を流して診察を始めたクリスが、呆れたような目をカイルに向ける。

この身体の痛みはカイルのせい…なのかな。


「…今日は閨は無しな。というか、身体の痛みがなくなるまでは禁止。」


「…わかった。」


クリスから禁止を言い渡され、カイルがしょんぼりと肩を落とす。


「お腹すいたか?起きられるなら着替えて朝食を食べようか。」


「うん。お腹は空いた。…でも、起き上がるのつらいかも。」


「わかった。カイル、責任もって姫さんを抱き上げて運んで。」


「ああ。」


おそるおそるといった感じで私を抱き上げようとするカイルに笑ってしまう。

昨日の夜もそんな感じだったことを思い出す。

私はそんな簡単に壊れたりしないんだけどなぁ。

どこからか、リリアの声が聞こえた気がした。


(ねぇ、ソフィア。幸せになった?)


あぁ、そうか。そういえば幸せになるために転生したんだった。

リリアは見届けてくれたのかな。




「どうした姫さん。」


「何かあったのか?」


心配そうに声をかけてくる二人。優しい男の人。

どちらだったのだろう。…どっちもかな。

きっとリリアも私も、二人に守られてここまで過ごしてきた。


「あのね、私、すごく幸せだよ。二人と出会えて。

 だから…これからもずっとそばにいてね?」


クリスが驚いたように少しだけ笑って私の頭をくしゃりと撫でる。


「当たり前だろう?そばにいるよ。」


抱き上げたまま額をこつんと合わせてカイルが笑う。


「ずっとそばにいるよ。だから、そのまま笑っていて。」


もう消えてしまったリリアに幸せをわけてあげることはできない。

だから、次に会うことがあったら、どれだけ幸せなのか教えてあげたい。



きっと、もうあの塔の夢は見ない。

リリアは外に出て自由になれたのだから。



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