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ココディアから言われていた期限最終日、
謁見室に集まったのは七日目の昼近くになっていた。
もうすでに周辺国に連絡がしてあるからそれほど急ぐことは無い。
ココディアとの国境に結界の長い壁ができ、
報告を聞いたあちら側は今ごろ慌てているだろうけど。
王座に座り、みんなを見渡す。
今日はフリッツ叔父様とも話をしたくて呼んである。
「みんな、留守を守ってくれてありがとう。
無事に戻ってこれたわ。
留守の間のことを報告してもらえる?」
「おかえりなさいませ、ソフィア様。
わたくしから説明いたします。」
手紙の束を持ったデイビットが前に出てくる。
私がいないうちにまた何か手紙が届いたのだろうか。
「ソフィア様が国境に向かった次の日、またココディアから手紙が届きました。
手紙の内容を簡単に申し上げますと、
イディア元王太子妃様と元バルテン公爵夫妻の証言です。」
「お母様と元公爵夫妻の証言?」
「ええ。元公爵夫妻のはココディア側の言い分は間違っていない、
女王にふさわしいと言われていたのはイライザ様だと証言するものです。
イディア元王太子妃様は元公爵夫妻の証言について、
私の知る限りその通りだと。」
「…あぁ、なるほど。ココディア側の言い分だけと信憑性がないから、
ユーギニスからの大使夫妻と元妃の証言を各国に送ったと。
…なるほどね。」
私にしてやられる形で大使となった元公爵夫妻は喜んでココディア側についただろう。
まぁ、開戦してしまえば命の保証はない。
ココディア側についたほうがいいと判断してもおかしくはない。
でも、そんな場合でも自国を裏切ってはいけないからこそ高給だったのだけど。
「対応はどういたしますか?」
「そうね。まずは…元公爵夫妻の大使は罷免。
ユーギニスの貴族籍からの除籍。
あとは、国外追放…ってところでいいかしら。」
これにたいしてデイビットやクリス、カイルとダグラスもうなずく。
側近たちの判断も同じようだ。
もともと開戦時には切り捨てるつもりで大使に任命している。
何かあった時には罷免するつもりでいた。
「お母様に関しては…どうにもできないわね。
もうユーギニスの妃では無いし、逃げ方を知っているもの。」
「逃げ方、ですか?」
「私の知る限りその通りだ、とあるでしょう。
それが本当だとは言っていないの。
お母様にはほとんど情報がいかない状況だったみたいだし。
ハズレ姫とイライザ姫の噂しか知らないのであれば、嘘じゃないもの。
このくらいの証言だと非難することすらできないわ。」
さすが元公爵家の令嬢で王太子妃だったというべきか。
自分の不利になるような発言はしない。
「ですが、このまま放っておくわけにも…。」
「そうなのよね。元王太子妃の肩書で発言されると厄介なの。
どうしたらいいかなぁ。」
一度は王太子妃だった人だ。他国から見たら信用されるだろう。
実際には王太子妃としての仕事は一切していなかったのだとしても。
「ソフィア様、よろしいですか?」
「ん?どうかした?」
静かな声で発言の許可を求められたと思ったら、執務室長のパトリスだった。
今はデイビットに仕事を教えるためだけに王宮に残ってくれている。
こんな時に発言するとは思っていなかったが、どうしたのだろう。
「イディア様はココディアに帰る時に署名をしています。
ユーギニスで見聞きしたことを話した時には処罰を受けると。
たとえそれが真実であろうと嘘であろうと、話してはいけないことになっています。」
「え?そうなの?」
「前回、ハイネス第三王子の時に、陛下は悩んでおいででした。
イディア妃を処罰することもできるが、そうすると即開戦になってしまうかもしれない。
まだ開戦する準備ができていないと。」
「そっか。ハイネス王子の時もきっかけはお母様の発言だったものね。
あの時にすでに処罰対象だったんだ。
……わかりました。では、イディア元王太子妃にも除籍処分を。」
「王族戸籍から抜く、ということでよろしいでしょうか?
イディア様が王太子妃だったこと自体が無くなりますが。」
「仕方ないわ。戦争に関わるような発言をするのは二度目だから。
これ以上余計なことをされても困るの。
お父様に妃はいなかった。それでいいわ。」
「わかりました。」
お父様に妃はいなかった。
そうなると私は?となるのだけど、その辺は後からどうとでもするだろう。
そもそもお父様の籍も残っているのかあやしいと思っている。
…私のことはお祖父様の養女とかになっているかもしれない。
「さて、ココディアにはしっかりと通達しなきゃね。」
「何と通達いたしますか?」
「我が国はこれよりココディアとの同盟を破棄し、国境を封鎖する。
国交は断絶し、人、物、の行き来を禁じる。」




