表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/194

142

隠し事が無くなったからか、結界が張れたからかはわからないけど、

翌日からの馬車の中での会話は楽しかった。

行きの馬車であった重苦しい雰囲気は消えていた。

二人とも古式魔術と今の魔術の違いが興味深かったようで、

古式魔術の基本的な使い方を教えてみたが、まだ形にはなっていない。

教えたからと言って、すぐに使用できるようなものではないらしい。


古式魔術は言語に魔力をのせて力を行使するもので、

今の魔術のように属性などはない。

魔力そのものを使用するため、属性によって使えない今の魔術とは違い、

覚えさえすればすべての古式魔術を発動することができる。

ただ魔力の力に左右されるため、どちらが優れているというわけではない。

使えない属性の魔術を古式魔術で発動するという使い方ができるかもしれない。

そんな感じで三人で古式魔術の可能性を話しているうちに馬車は王都へと着いた。


もう少しでこの旅も終わる。

ずっと移動ばかりしているから、さすがに身体のあちこちが痛い。


「なぁ、姫さん。」


「ん?なぁに?」


「なんで姫さんは魔女だった時の記憶が残ってるんだ?」


「あぁ、そういえば死んだときのこと話してないね。」


魂が転生したのは理解したが、その時の記憶があるのは不思議なんだろう。

おそらくクリスが聞きたいのは、そういう魔術があるのか、ってことなんだと思う。


「魔女の儀式をする時にね、言われるの。

 魔女としてこの国のために生きなさい、

 そうすれば死ぬときにあなたの願いも叶えられるでしょう、って。」


「死ぬときに願いが叶う?」


「そう。魔女の教えらしいけど。

 死んじゃうわけだから、本当に願いが叶ったかなんてわからないのにね。

 でも、身体が衰えて、もうそろそろ死んじゃうんだなってわかった時に、

 もしかしたら本当に願いが叶うかもしれないって思って。

 魔術の知識を持ったまま生まれ変わりたいって願ったの。」


「魔術の知識を持ったまま?なんでそう思ったんだ?」


「だって、私が持っているのはそれだけだったから。

 ずっと魔術の研究だけして、魔術の知識だけ増えて、

 それだけが私の誇れるものだった。

 だから失いたくなかったの。」


貴族として生まれたことも、魔力が豊富だったことも、

五十年も結界を維持していたことも、私が何かしてできたことではない。

魔術のことだけは私の努力そのものだった。

だからこそ、消えてしまうのが怖かった。

私が生きていたこと自体が意味のないことになってしまうような気がして。


「そうして魔術の知識を持ったまま生まれ変わったわけだけど、

 魔術の知識だけじゃなく、前世の記憶全部を持ってたんだよね。

 生まれ変わったことに気が付いたのは七歳だった。」


「あれ。もしかして陛下に謁見した時か?」


「そう。気がついたら、私はおかしな状況で暮らしてた。

 これはあまりにもひどいって思って、どうにかしなきゃって。

 でもお祖父様が助けてくれるかどうかもわからなかった。

 言ってみてダメだったら、王宮を壊してでも逃げようって思ってたんだよね。」


「なるほどなぁ。記憶が戻る前のソフィアはどうして黙ってたんだ?」


「誰からも嫌われてるって思ってたの。

 あの状況もみんなわかってて、ほっとかれているのかもと思ってたくらい。」


「…それは無いだろう。陛下は姫さんのことが大事だからな。

 でもまぁ、あの状況だったわけだし、そう思うのも無理はないか。」


「下級使用人たちにすらハズレ姫だなんて呼ばれてたわけだしな…。」


「そういうこと。大事に思われているなんてわからなかった。」


七歳まで思い出さなかった理由はわからないけれど、

あのまま思い出さなかったら死んでいたと思う。

あれはぎりぎりの状態だった。

それに、あのまま教育を受けないでいたら、王太子になることも無かっただろう。

そうしたら、本当にイライザが養女になっていたかもしれないなと思う。

エディは王太子になりたがらなかっただろうから。



そう思うと、イライザが王位に執着するのもわからないでもない。

かといって、譲る気なんてないのだけど。

イライザが女王になったとしたら、この国は終わる気がするから。


「ソフィアがあの時に記憶が戻ってくれてよかった。」


「そう?」


「ああ、じゃないと俺たちと会うのはその五年後だっただろうから。

 それまでずっと一人で放置されていたかもしれないんだろ。」


「それはそうだな。あのまま西宮で姫さんを生活させてたら、

 きっともっとひどい目に遭っていただろう。

 その前に出会えたのは幸運だったな。」


あれ以上ひどい目…まぁ、多分私が死ぬまで終わらなかっただろうしね。

女官長は私を殺すつもりだったんだろうなぁ。


「あの時、お祖父様に嫌われていないってわかって、

 二人が護衛騎士としてずっとそばにいてくれるようになって、

 ここで生きていていいんだってようやく安心できた気がする。

 …そうだね。記憶が戻って良かったなぁ。」


こんなことを二人に言える日がくるなんて。

知られるのが怖いって怯えていたのが嘘みたいだ。

二人とも私が話すのを笑って聞いてくれる。


「あぁ、もうすぐ王宮に着くな。」


「ルリが心配で倒れてないといいけどな。」


「それは本当にありそうで嫌だなぁ。ちゃんと休んでてくれるといいけど。」


「休んでないだろうな。ダグラスが気を付けてくれているとは思うが。」


王宮を出る時、私室に残したルリが大泣きしていたのを思い出す。

あれから六日。ちゃんと食事や睡眠とってるのか心配になる。


王宮に着いて、とりあえずは私室へと向かった。

旅の間、湯あみをすることはできなかったから汗と埃だらけだ。

湯あみをして身支度を整えてから執務室に向かうことを告げる。


「ソフィア様!!」


私室に入るなり、小走りで近づいてきたルリに抱き着かれる。

ルリのほうが旅してきたんじゃないかと思うくらい疲れた顔してる。

大丈夫?と聞く前に、リサとユナにも抱き着かれる。


「ソフィア様…お食事は取られていたのですか?

 お痩せになっていませんか?」


「え?食べてたよ?」


「どこかお怪我はしていませんか?」


「ううん、大丈夫。元気だよ。」


「あぁ、こんなに埃まみれになって…さぁ、湯あみをいたしましょう。」


「うん。ありがとう。」


三人の勢いに押されながら、湯あみに連れて行かれる。

クリスとカイルは私が連れて行かれるのを見送るように手を振っている。

二人も待機室に戻って湯あみをするんだろう。

六日ぶりに湯船につかって、三人に身体を磨かれて…いるうちに意識が遠くなっていく。


「ソフィア様!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ