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「魔石と同じ扱いなのよ。魔術具に魔力を供給するためだけに生きるの。」
「「は?」」
「結界の乙女も魔術具だって説明したでしょう?
あれと同じように戦争で使う魔術具に魔力を込めるために使われるの。
だから、戦争に連れて行かれるのは魔女だけ。」
あの狭い塔に閉じ込められていたことを思い出したのか、二人とも顔をしかめる。
そう思う気持ちはわかるけれど。
「人として扱われないのか?」
「いいえ?とても大事にされるわ。
戦時中で他の者が食事できなくても、魔女には優先して与えられる。
寝る場所が限られていても、魔女は暖かい場所で眠れる。
魔女は生きていなければ魔力を生み出せないのだもの。」
「…それは、そうかもしれないけど。」
「もともと、平民の女性なんて地位が低かった時代よ。
貧しくて産んでも育てることができなくて捨てられるのは女の子が多かった。
孤児院では毎日食事することも難しく、みんなで雑魚寝だって聞いたわ。
それが魔女になれば大事に育ててもらえる。
食事ができて、ゆっくり眠れて、誰かに殴られたりすることも無い。
魔女にあこがれる平民の子は多かったわ。」
「「……。」」
今のこの国からは想像できないだろう。
戦争時、魔女が作り出されるまでは女の子は真っ先に捨てられていた。
私が魔女になった後は、魔力判定する前に子を捨てたら厳罰にされることになった。
戦争で魔女が必要とされたからだ。
育てた娘が魔女になったら、その家にも褒賞が与えられた。
国全体が貧しかった時代。そのこと自体は悪いことだけではない。
「だけど、戦争が激しくなって…戦争に連れて行かれた魔女たちも戦死するようになって。
大きな戦いがあった時、大敗してお父様が戦死したの。
その時にはお母様はもうすでに亡くなっていて、身内はお父様だけだったから、
お父様が戦争に行っている間は騎士団の寮にお世話になっていた。」
あの時のことははっきりと覚えている。もうすぐ雪が降る時期だった。
風が乾燥して凍える中、急に呼び出されて広間に向かった。
広間にはたくさんの騎士や、王宮の者が集まっていた。
こんなに人を集めるのはどうしてだろうと思ったら、
戦争に向かった騎士たちのほとんどが戦死したことを告げられた。
集められていたのは、皆、戦死した者の身内ばかりだった。
「お父様が亡くなったって聞いて、どうやって寮に戻ったか覚えていない。
ただ、戻る途中で立ち話していた騎士たちがいたのを覚えている。
その中に騎士団長がいて、悔しそうに話していたのを聞いてしまった。
あの子が使えたら、あの子が魔女だったら、戦争は勝てたかもしれないなって。」
「それって…。」
「私よ。その頃には私の魔力判定の結果は知られていたから。
だけど貴族令嬢だから魔女にすることはできない、
なんて惜しいんだと言われていたのも知っていた。
…私が魔女として戦場にいたら、魔力切れで魔術具が使えなくなることはなかった。
戦争に負けることも、お父様やたくさんの人が亡くなることもなかった。」
「そんなの姫さんのせいじゃないだろ。」
「今の私ならわかっているわ。
どうやっても、貴族だった私を魔女にすることはなかったって。
伯爵家の令嬢を魔女にするようなことがあれば、他の貴族家から責められる。
だって、貴族ならみんな魔力を持っているんだもの。
私が魔女になるようなことがあれば、次は自分かもしれないと思ったでしょう。
でも、お父様が亡くなって、これからどうやって生きていけばと思った時に、
貴族じゃなくなるなら魔女になればいいんだって。」
それでも、私が魔女になると言い出した時は周りの人が止めてくれた。
何もそんなことをしなくてもいいんだと。
副騎士団長の娘が、魔女になんてならなくていいんだって。
でも、何もできないままでいるのは嫌だった。
力を隠して生きるより、お父様のように戦って死んだほうがいいと思えた。
「結局は魔女になっても戦争には連れて行かれなかったけど。」
「どうしてなんだ?魔女は必要とされていたんだろう?」
「平民の子と違って、知識があったからよ。
二コラ王子の勉強につきあっていたから、魔術の基礎知識もあったし、
当時使われていた古語も読み書きできた。
だから師匠の跡を継ぐように言われ、魔術の修行をすることになった。
ゆくゆくは魔女の儀式を私がするようにと言われていたけれど、
師匠について修行できたのは三年だけ。
魔女の儀式ができるようになるまで、早くても十年はかかるって言われてたんだけどね。
それどころじゃなくなったのよ。」
「それどころじゃない?」
「国が落とされそうになったの。
だから、陛下は結界の乙女を実行することを決めた。」
「それって、もしかして…。」
「ソフィアも…あの塔に?」
「いたわ。ただし、あの塔じゃなく、アーレンスとの境にある塔だったけど。」
「っ!!リリアなのか!」




