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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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塔を下りて馬車に戻る時、この近くに師匠の墓があるのを思い出した。

亡くなった魔女たちは塔の周りに埋葬したと聞いていた。

だが、周辺は草木が生い茂っていて、探しても見つからなさそうだった。


せめてと思い、少しだけ目を閉じて祈りをささげる。

…師匠が最期に何を望んだのかはわからないけれど、

もうどこにもいないのだと感じた。


馬車に戻った時にはもう完全に夜になっていた。

暗闇からあらわれた私たちを見て、ウェイとフェルが馬車から降りてくる。

少し焦った顔をしている。何かあったかな。


「おかえりなさいませ。」


「何かあったの?」


「騎士らしい者が通りましたが、暗くて騎士服が確認できませんでした。

 我が国の騎士なのか、ココディアの騎士なのかはわかりません。

 全部で三名が馬で砦のほうに向かって行きました。」


「そう…。どちらにしても砦のほうに向かったのならもう会わないよね。

 ここでしなければいけないことは終わったから、急いで王宮に帰ろう。」


「はい!」


四つの塔をまわり終え、結界の壁も張れた。

古式魔術で張った結界は誰も解くことができないはず。

これでココディアと開戦することは避けられる。


カイルに抱きかかえられたまま馬車に乗ると、食事をするように言われる。

そういえば夕食をとっていなかった。

それほどお腹は空いていないけれど、寝る前に何か食べたほうがいいだろう。


渡された携帯食を少しずつかじるように食べる。

固く焼かれたパンのようなものは、日がたつにつれてますます固くなる。

干し肉も同じくらい固く、口の中にいれて柔らかくしてから食べる。

何度も何度も噛んで、ようやく食べられる。


「ほら、水も飲んでおけ。」


「うん。」


飲み込むのに苦労しているとクリスから水を渡される。

二人はもうすでに食べ終わっていた。


やっとすべて食べ終わると、お腹が満たされた。

やり終えて満足する気持ちとこれから二人に話さなければならないという怖さで、

なんだか口が重く感じる。


「…聞いてくれる?」


「なんだ。話す気があったのか。」


「え?」


驚いたようなクリスに、こっちが驚いてしまう。

話す気があったのか?


「ずっと姫さんが隠し事しているのはわかってた。

 でも、言いたくないなら無理に言わなくていいと思ってた。」


「俺もクリスも、誰だって人に言いたくないことはある。

 それを無理に聞き出そうとされたら嫌だろうと。

 ソフィアが言いたくないなら、そのままでいいと思ってた。

 だけど、ずっとつらそうで。話せるか?」


二人とも私が隠していることをわかってて、それでも聞かないでくれていた。

王宮でも馬車の中でも、聞こうと思えば聞く機会は何度もあったはず。

さっきの塔でも、疑問に思っていることはわかっていた。

それも聞かないつもりでいたってことなのか。


「ずっと隠し続けようと思ってたわけじゃない。

 だけど、知られるのが怖かった。」


「それはさっきの魔術に関係するのか?」


「そうよ。」


「あれはなんだ?」


「あれは古式魔術と言われる魔術よ。

 古語と魔力を絡み合わせるように血で編んで魔術を固定するもの。

 さっきのは結界を張り続けるための魔術式。」


「…古語。どのくらい前の時代の言葉なんだ?」


「あれは三百から二百年前くらいまで魔女が使っていた文字。

 当時も一般的には使われなくなっていたくらい昔の文字よ。

 誰もが読める文字で組み立ててしまったら、どんな魔術なのか見えてしまうでしょう?

 あれは…書けるのも読めるのも魔女だけよ。」


あれは普通に使っていた古語とも違うものだ。

魔女だけ、いいえ。魔術を使える魔女だけがわかる文字だった。

貴族の血をひいて、教育を受けることができた魔女だけが読み書きできた。

平民から魔女になった子たちは普通の文字すら読めなかったのだから。


「…魔女だけが書けて読めるって。」


「そんなこといったら、まるでソフィアが…。」


「…私は魔女よ。ずっと昔。魔女だったことがあるの。」


馬車の外の暗闇に声が吸い込まれそうだった。

静かになった馬車の中、ガタゴトと振動する音だけが響く。


…何も言わない二人が怖い。

早く何か言って。否定されるのは嫌だけど、黙っていられるのも怖い。


「……泣くなよ。」


「え?」


「…ほら、落ち着け?」


クリスに言われ、カイルに頬をぬぐわれて、私が泣いているのに気が付く。

気が付いた後も、ぽろぽろとこぼれてくる涙を止められない。





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