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【書籍化・コミカライズ2巻4/16発売】ハズレ姫は意外と愛されている?  作者: gacchi(がっち)


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最初の塔に着いてから二日後の夕方、最後の塔にたどり着いた。

近くの街道脇に馬車を止め、降りようとすると御者席から声がかかる。


「もう辺りは暗くて見えにくくなっています。

 明日の朝まで待ったほうがいいのではないですか?」


「大丈夫よ。暗闇でも見えるから。

 少しでも早く結界を張って、王宮に戻りたいの。」


「そうですか。見えるのならば大丈夫なのでしょうけど…。

 お気を付けください。」


「わかったわ。」


ウェイが心配する通り、馬車から降りたら辺りは真っ暗だった。

私たちは暗闇でも見えるように術をかければいいけれど、

そのことを知らないウェイが心配するのは無理もない。


クリスに抱きかかえられて待っていると、カイルが馬車に認識阻害をかけて、

魔石が入った木箱を片手で持ち上げる。

四度目にもなると手慣れて、準備はあっという間に終わってしまう。


「ん、見えるようになったな。」


自分の目に術をかけるついでにクリスとカイルにもかけると、

すぐに二人は周りを見渡して警戒する。

あれ?…人の気配がする?まだ少し遠いけど。


「…国境騎士団の見回りかもしれないが、ココディアの騎士かもしれない。

 ウェイ、フェル、絶対に馬車の外には出るなよ?」


「わかりました!」


この距離だと目視できないし、敵なのか味方なのか判別できない。

それでも警戒したほうがいいと、音を出さないように森の中を進んでいく。


今までよりも深い森の中しばらく進んだ先に、蔦がからまった塔があらわれる。

ここが師匠がいた塔。

入り口を開けて中に入ると、魔力の残滓を感じた。

あぁ、師匠が残した魔術式がどこかに置かれたままになっている。


他の三つの塔とは違い、この塔の一階には荷物が残されていた。

積み上げられた本の近くに紙束がいくつか置かれている。

師匠も最期まで研究を続けていたんだ…。


「なんか、この塔だけ雰囲気が違うな。」


「この荷物って、当時のものなのか?

 ここの魔女も魔術を研究していたってことか…。

 こんな場所に閉じ込められて…

 それでも魔術を磨き続けようとする気概はどこからくるんだろうな。」


他の塔と違うことが気になるクリスと、

すぐに魔術が研究されていたことに気が付いて感心しているカイル。

聞こえていたけれど、それには何も答えずに二階へと上がる。

二階の部屋も荷物はそのままになっていた。

小さな寝台と机。足が壊れた椅子が残されていた。


「…こんな小さい寝台で寝れるのか?」


そう思ってしまうのもわかる。この寝台は子ども用だから。

魔女は大きくならない。魔女の儀式を受けた時に成長を止めてしまうから。

老いないわけではない。ただ成長しない。

子どもの身体のまま、ただ存在し続けるだけ。それが本来の魔女だから。

私や師匠のような魔女は特別な存在だった。


「…ここが四つ目の塔。

 今まで行った三つの塔は魔力を供給するだけの塔。

 ここで魔術を発動することで、四つの塔が連動する。

 この塔は魔術具のようなものなの。

 四つの塔にある魔力を増幅させて、長い結界の壁を作り出すのよ。」


「魔術具…そういう仕組みなのか。

 で、ここで魔術を発動するって、どうやってするんだ?」


「今からするわ。…少し離れていてくれる?」


「危ないのか?」


「影響があるかどうかわからないの。」


そう言うと二人とも壁際によってくれる。

塔の中に他の人間がいる状態で発動したことは無い。

本当なら外に出ていたほうがいいと思うけれど、

この状況で二人が私から離れるとは思えない。

…これだけ魔術式から離れていれば大丈夫かな。



右手の人差し指を少しだけ切ると、指先から血が出る。

魔力を薄く引き伸ばすようにして透明な板を作り出す。

両手を広げたくらいの大きさの板に、血で書き込んでいく。

書き込むというよりかは、魔力で血を定着させていく感じに近い。

円と三角が複雑に絡むすきまに古語を埋め込んでいく。

今はもう使われなくなった古式魔術と呼ばれる技法。

最後の文字を書き終えると、

円がくるくると回り始め魔術式が浮かび上がって青白く光る。


魔術式の光が部屋の中にあふれると、小さな窓からその光が飛んでいく。

この光が他の三つの塔へとつながり、魔術は発動する。

ここからは見えないけれど、

国境にそって地面からせりあがってくるように結界が張られたはずだ。


結界の壁はその下の地面を掘って通ることも、

壁の上を乗り越えることもできないようになっている。

これだけ魔石を置いておけば三、四年は持つはず。

その間に魔石を追加すれば、それ以上結界を維持することもできる。

これでココディアとの国境は人一人通ることができなくなった。


「…終わったのか?」


「ええ。」


「国境まで行って結界が張られているか確認は必要か?」


「いいえ、見なくても大丈夫。ちゃんと結界は張れたから。」


「…じゃあ、馬車に戻るぞ。」


今の魔術はどういうことだと二人が思っているのがわかる。

古式魔術なんて見たことないだろうから。

怖くて視線を合わせることができないでいると、そのままカイルに抱きかかえられる。

馬車に戻るまで、誰も一言も発しなかった。




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